032
祥万が黒幕で、水主は外を走っていた。
理解できないことが、次々起こって私はいろんな勘定になった。
だけど、一番不安なのは水主だ。
水主は、祥万に気に入られているということ。
それに引き換え、私は祥万に愛されていなかったということ。
画面に映る彼女『吉瀬 水主』は、校舎の外を走っていた。
彼女が目指しているのは、魔王のいる部室を一目散に目指して走っている動画だ。
「あの子って?」
「私の知り合い、吉瀬 水主よ」
「あなたの知り合い?」
「幼なじみ、家族ぐるみの付き合い。でも、どうして」
勝先輩も、香流も私の幼なじみを知らない。
だけど、私はよく知っていて水主は一番の友達だ。
でも、水主は私の知らないところで祥万と一緒にいた。
私に彼を付き合うように背中を押してくれたこと、あれは嘘だったの。
「でも、彼女が外に出ていることは少なくとも向こうは速いわけだ」
「祥万も、えらくあの子を気に入っているわね」
香流が、現在も走る水主をじっと見ていた。
「だが祥万の言う通りならば、部室に入れるのはたった一人」
「ここは視聴覚室で、目的地は部室。
彼女のいる場所は、生徒玄関から渡り通りのあたり」
「普通に、距離のハンデが多いわね」
香流と、祥万が難しい顔で現状を把握。
だけど、私は心が乱れていて何も考えられないでいた。
「とにかく、彼女はライバルでよさそう。
今のところ、水主だって、あの子を倒さないといけないわね。
先輩は、アイテムを持っていますか?」
「一応、アイテムはいくつか取ってある」
「静は…なかったわね」
香流の一言が、不安定な私を苛立たせた。
「なによなによ、私は知らないわよ」
「何、起こっているの?」
「私に、強く言わないでよ。私は関係ないから」
「ちょっと、静」
私の怒りに、香流も反応した。
「あなた、わかっているの。今の状況」
「わかっているわよ。水主も、祥万も私が話をつけるから」
「おいおい、喧嘩はよくない」
私と香流は、険悪な空気に変わった。
勝が、仲裁するように私たちの間に入った。
だけど、すぐに香流は後ろに飛んでいた。
隣のテーブルにジャンプで離れた香流の胸にあるリボンが、赤い。
赤くなったリボンで、両手を広げると彼女の手から火の玉が出てきた。
「そうね、あなたを殺さないと祥万に会えないわよね。
悪いけど、今すぐ消えてくれる?」
そして、香流は火の玉をいきなり私に向けて投げつけてきた。
顔を真っ赤にして、私をはっきり狙っていた。
香流の顔は、行き場のない怒りがにじんでいた。
その香流が、私に向かって火の玉を放ってきた。
不意打ちで撃たれた私だけど、ギリギリでジャンプをした。
反応が少しでも遅れたならば、私は黒焦げになっていただろう。
私のいた場所を、火の玉が飛んで行くのが見えた。
「ちょっと!何をするの、香流!」
「部室にいける人間は一人だけ。
しかも、祥万はキラプトルと合体して戦いを求めている。
ならば祥万に会うのは、このあたしよ。
祥万の問題は、野球部の問題。マネージャーであるあたしが解決しないといけない」
香流の目つきが、変わった。
鋭い彼女の目が、私をはっきりと睨んでいた。
先ほどまで見せた、穏やかなまなざしはもうない。
私に対して、はっきりと敵意を示してきた。
「でも、私に攻撃する必要は」
「あるわよ。あなたは、彼女なんでしょ。
そこで走っている、あんたの幼なじみも」
「そうよ。私は祥万の彼女」
私は、堂々と言い放った。
「祥万の彼女だからこそ、私は祥万と話をしたい」
「彼女が、勝手に出てこないでよ。これは野球部の問題よ。
現に祥万がいる場所は、野球部の部室だから」
「祥万を、こんな風にしたのには私に原因かがあるのよ。
だから、私が行かないといけない」
私と香流の会話が、全くかみ合わない。
お互いの意志を、激しくぶつけ合った。
「おいおい、二人とも。落ち着け。
仲間割れするより、まずはあの女子を追いかけることが先決じゃないのか?」
「大丈夫よ、あたしはアイテムがある。
祥万が変なことをしても、あたしは止めることができる。
それに…」
香流は、再び両手を合わせて火の玉を発生させた。
火の玉を、私に向けて投げる構えを見せていた。
「乾君が好きなのは、あなただけじゃないから」
本音交じりの言葉でと共に香流は、私めがけて火の玉を放ってきた。
放ってきた香流に対し、私は再びジャンプするしかない。
私には、何もアイテムがない。
(ダメだ、今はここにいるべきじゃない)
香流は、完全に怒っていた。
そして、祥万の彼女である私に恨んでいた。
彼女から、迷いなく殺意のようなものも感じられた。
だから、私はパソコンの乗っている机から飛び降りた。
そのまま、私は背中を向けて走り出していた。
逃げるように、私は視聴覚室を走って出ていくしかなかった。
私のいた場所に、何度も火の玉を投げられながら。




