031
水主の恋は、中学まで続いた。
隙になった人数は21人、でも告白した人間は一人もいない。
それでも、私は水主のためにいろいろと恋の協力をした。
彼女は、出会う男に惚れやすい一面があったからだ。
でも、中学二年の夏休みのあとから急に恋はしなくなった。
惚れるということも、なぜかなくなっていた。
恋に奥手な水主が、久しぶりに好きになった人間はくしくも私の彼氏だ。
そして、水主がパソコン画面に映っていた。
「なんで水主なの?」
私は、パソコン画面を見て呆然としていた。
そばにいた香流が、私のそばで心配そうな顔を見せていた。
「静…」
「祥万は、水主が好きなの?」
「静の知り合いだよな?彼女はいいぞ。
僕の思った通りの人間だよ。素晴らしい」
キラプトルの姿で、水主を絶賛した。
私は、右手を力強く握って画面のキラプトルを睨んでいた。
「どうしてよ、私じゃダメなの?」
「ダメだね、静。
それに比べて、吉瀬さんは素晴らしいよ。
僕が見てきた中で最も理想通りの人間だよ。素晴らしい」
「いい加減にして!」
私が、祥万の声を遮った。
「彼女はすでに、僕のところに向かっている。
君らにはさっきも言った通り、彼女にも同じ話をしている。
良悟、君の考えは僕にこのゲームをやめさせたいようだけど…君は僕には会えないよ」
「ふざけるな、お前を俺は許したわけじゃないぞ!」
祥万に怒っているのは、勝先輩だ。
でも、キラプトルには余裕があった。
声はするけど、目の前にいるわけでもない。
パソコン画面で、彼は私たちを楽しんで見ているようだった。
「早くしないと、君らは永遠に大きくなれないかもね。
なにせ、彼女の目的は君たちと違うのだから」
「どういう意味よ?」
「それは、君が直接聞いてみるといいよ。
静、君は退屈なんだよ」
最後に、祥万は私に対して冷たい言葉を投げかけた。
それと同時にパソコン画面が、暗転した。
再び画面が明るくなると、外を走っている水主が映し出されていた。
私たち同様に小さくなった水主が、必死に走っていた。




