025
時刻は10:26。視聴覚室の時計が、示していた。
視聴覚室は、パソコンがずらりと並ぶ部屋。
別名『パソコン室』と呼ばれたこの部屋は、授業で使われていないとパソコンは動かない。
パソコンのログインは、生徒自身も行うことができた。
だけど、このパソコンはネットワーク制限がいくつもかかっていた。
部屋のほぼ中央に、一列の机。
そこに、勝手に立ち上がったパソコンが置かれていた。
画面のついているパソコンの上に、小人が一人。
小人の見た目は、男だ。
黒いブレザーのズボン。
角刈りの男性は、どこか負大人びていた。
細い目に、がっちりした筋肉質の体。
その人を見た瞬間、私…というより香流の知り合いだった。
「何しているんですか、勝君?」
そこに姿を見せたのは、野球部のイケメンバッテリーの一人。勝 良悟先輩だ。
横にも太いけど、脂肪で太っているわけではない。
筋肉の鎧を身にまとった、マッチョの勝は2年生。
何より風格が、私たち女子と全然違っていた。
女子生徒以上に、女子教師からも人気のある野球部男子。
エースの祥万と同じ野球部で、キャッチャーをしていた。
大柄で黒ブレザーの勝先輩は、私と香流を見て近づいてきた。
「なるほど、君らも小さくなったのか?」
「勝部長、こんなところで何をしているんですか?」
冷めた目の野球部マネージャー香流が、顔見知りを見て安心したのか態度がでかくなった。
香流も2年生だし、勝とは関係が自フランクなのだろう。
それにしても私以外が、2人とも野球部か。
一体野球部に、何かが関係するのだろうか。
しかも勝先輩は、初めて見る男性の小人だ。
「そろそろ、君らも今の状況を理解してきたころだろうと思って」
「勝先輩は、ご存じですか?」
「まあ、俺も小人を見たのは君ら二人しかいないけど。
だけど、この子が教えてくれたんだ」
勝先輩のそばには、光の球が浮いていた。
それは香流も私も一緒に見て、驚いていた。
「その子って?」
「紹介しよう、ヘルフっていう」
光の球がはじけると、緑色の服に紫色のスカート。
かわいらしい女の子が、透明の羽で飛んでいた。
「ヘルフ?」
「なんですか、それは?」
「あれ、君らには同行していないのか?
俺にはしっかり同行していたけど、君らにはいないのか?」
「いるわけない……あっ!いた。
そういえば、どこか飛んでいったような……」
私にも、ヘルフらしき女の子がいた。
おそらく顔立ちからして、私の出会ったヘルフと勝先輩のヘルフの顔つきが違う。
「あたしのは、犠牲になったわ」
なぜか、唇をかみしめて香流が言い放った。
「犠牲?」
「変な敵に襲われて、身代わりになったのよ。
まあ、そのおかげであたしはアイテムを手に入れられたけど」
「でも、そのヘルフって何ですか?妖精みたいなやつですけど」
「ああ、それな。下のパソコンを見てみろ」
勝先輩は、パソコン画面に乗っていた。
その下には、モニターが見えた。
パソコンには、一つのゲーム画面が見えていた。
私と香流は一緒にパソコン画面を見て、不思議な顔を見せていた。
それは、横スクロールアクションのゲームだ。
「これって?」
「見覚えあるだろう、『ベルトランド』」
勝先輩の言葉に、香流も納得した様子でパソコン画面を見ていた。




