021
段ボールの動きは、普通ではない。
中には何かがいたのは、彼女も私もすぐに気づいた。
私たちが今立っているのは、茶色い段ボールの上蓋。
すぐに、香流と一緒に近くに置いてあった椅子に飛び乗った。
このあたりまでだと、地面に簡単に着地もできた。
段ボールのそばにある、フカフカの椅子から私は香流と一緒に見ていた。
段ボールには、間違いなく何かいた。
それは、生物の類だ。
それでも、大きな私たちならば苦にならない相手だろう。
でも、私も香流も小さい。
「ねえ、香流さん」
「なあに、静」
「動く本とか。見たことあります?」
「家庭科室で、レシピ本が動いたでしょ。今更、何を言っているの」
「ああ、そうでしたね」
私は家庭科室の恐怖を、香流に話した。
動かないはずのレシピブックが、動いていたハエを目の前でつぶしたことだ。
話ながらも、お互いの顔を見て苦笑いをしていた。
そんな私の話に、香流があることを告げてきた。
「あら、私は黒板けしとチョークが動いてきたわよ。
初めに出てきたときは、かなり焦ったわ」
「へえ、それは初耳よ」
段ボールのごそごそは、入り口のほうに迫っていく。
私と香流は、椅子の上で身構えた。
だけど、香流は私の前に出た。凛々しい顔をして。
「大丈夫、あたしには、アイテムがあるから」
「おお、それは頼もしい。さすがは香流様」
「まあ、それでも敵が出ないのならいいんだけどね」
「それは、無理そうだね」
私と香流が話す中、段ボールがゆっくりと開く。
開いた瞬間に出てきたのが、小さなウサギが見えた。
私たちと同じ大きさのウサギは、どこか愛おしい。
ぴょんぴょんと、愛らしく飛んでくる真っ赤な毛並みのウサギ。
そのウサギの登場で、私は思わず目が輝いていた。
だけどすぐに香流が、私の前に手を広げた。
「ねえ、かわいいウサギだね」
「それも敵よ」険しい声で、近づく私にはっきりと言い放った。




