020
小さい体でも、重力には逆らえない。
壁から離れれば、私も落ちていく。
私の小さな体が、アルミの地面に近づいていく。
(ダメだ、ぶつかる)
地面が、迫ってきた。
だけど、そこには一人の少女がいた。
私が落ちるのを待ち構えるかのように、黙って両手を広げた。
「静!」
香流が、私を両手で受け止めた。
受け止めた香流は、私を優しく抱きかかえて受け止めた。
私の体の重さで、アルミの地面がぐらぐらと揺れた。
二本の画鋲で止まったアルミの地面が、揺れた。
落ちるのが怖くて目をつぶった私は、目を開く。
私には、まだ命があった。
「助かったの?」
私は生きていた。
細い香流の腕は、とても暖かかった。
包容力のある香流が、私を受け止めた。
「大丈夫?」香流の優しい声が、私に向けられた。
「ありがとう」
半泣き顔の私は、感謝を香流に伝えた。
私を抱いていた香流は、少し顔が赤くなっていた。
それを見て、あたしもつられて照れていた。
「大丈夫なら、降りてほしいけど……」
「ああ、うん」
名残惜しいぬくもりを感じつつもけど私は、香流から降りていく。
軽快なジャンプをして、私は周囲を見ていた。
大体半分の壁を、ここまで降りたのだろうか。
まだ、下の廊下までは遠いのが見えた。
「でも、かなり下れたわね」
「あとは、近くに段ボールもある。
段ボールも足場として、ジャンプで降りていけば…」
「やっと地上ね」
最初に淵のそばにいた私は、足の震えもいつの間にかなくなっていた。
少しは心臓の動悸も、収まっていた。
でも変な照れが、彼女を見るたびにドキドキしてしまう。
何だろう、あんな包容力のある女子は初めてだ。
香流は、一年先輩だけどそれ以上の優しさを感じられた。
そして、彼女から時折感じられる逞しさも感じられた。
赤い顔に変わる私に対して、香流が冷静を装う。
周囲を見回して、段ボールを見ていた。
「とりあえず、段ボールに飛び降りて…」
香流は、落ち着いてジャンプして段ボールに着地した。
ジャンプして、そばにある段ボールに私も遅れて着地した。
「待って」そんな香流は、私の前に出た。
彼女は、段ボールから何かを感じた。
香流の言う通り、段ボールの中がごそごそと物音を立てていた。




