014
移動教室の時間が、終わった。
家庭科室の生徒が次々と、動き出す。
立ち上がって、教科書やエプロンを持って出ていく。
いつの間にか準備が終わっていて、教室に引き上げていく。
(うわ、すごいわね)
移動には、迫力があった。
普段は何気なく移動しているだけでも、小さくなって扉の下で隠れながら生徒の移動を見守った。
隣には、香流も一緒にいた。
「あの、先ほどはありがとうございます」
「え、うん。いいのよ。お互い様よ」
歯を出して、無邪気に笑う香流。
なるほど、男子生徒には人気が出そうだ。
少し日に焼けた健康的な彼女は、とても親しみやすい。
目の前では、巨人たちの行軍が続いていた。
大きな足音が、ズシンズシンと響く。
「香流さんは、どこで小さくなったんですか?」
「あたし?うーん、覚えていない。
確か朝練したところまで、覚えているんだけどね」
無邪気に笑って、頭をかいていた香流。
私と境遇が似ていた。朝までの記憶は、あって登校したまでのことは覚えていた。
でも、どうして小さくなったのかがわからない。
(小さくなったことと、視聴覚室がどう関わっているのだろう)
視聴覚室に、行ったのは二日前だ。
無論、授業以外で行くことはない。
パソコンが置かれた部屋というくらいしか、私は知らない。
「香流さんは視聴覚室に、今日行ったんですか?」
「行っていないけど、昨日は行ったかな。
昨日は雨だったし。もうすぐ大会近いから、視聴覚室で昨日ミーティングしたわよ」
「あっ、そういえばそうだね」
昨日、野球部の祥万もミーティングがあるとか言っていた。
私とは一緒に帰り一緒にならなかったけど、あの時に水主と会ったのか。
(まさか、祥万がこの小さいことに関係しているのか。
あるいは、水主が関わっているのだろうか)
いずれにしても、視聴覚室に行けばわかること。
家庭科室の生徒が、全員出ていった。
唯一残ったのは、教師だけ。
おそらくこの教師も、片づけをして出ていくのだろう。
「今のうちに、出ましょ!」
「えっ、あっちは非常階段よ」
「あたしたちは小さいのよ。外に出たら、無事では済まないわよ」
そういえば、小さな光を放つ女の子も隙間風で飛ばされていた。
香流が案内して、私も香流についていくことにした。
生徒いう名の巨人は、いなくなった。
廊下にも、いつも通りの静かな空気が戻ってきた。
小さな私と香流先輩が、廊下を進んでいく。
廊下のほぼ真ん中を、歩く香流と私。
「ちょっと、踏まれたりしない?」
「逆に橋を渡ると、変な虫とかに狙われるのよ」
「あっ」心当たりが、ないわけでもない。
ハエが私に襲ってきたのも、端っこを歩いていたからだ。
だとすれば、香流の言うことも一理あった。
そんなことより、私は香流にまだまだ聞きたいことがあった。
「そういえば、あの火の玉みたいなやつ、あれは何なの?」
「あたしのやつ?」
「うん」
香流が私を助けてくれた、火の何か。
よく私は見えなかったけど、突然レシピブックが燃えていた。
「これのことかしら?」
香流が、目を瞑った。
両手を広げて構えると、胸元のブレザーのリボンが赤く見えた。
その赤いリボンがやがて炎の球になって、両手に収まる火の玉に変わった。
「すごい、マジックみたい」
「これは、アイテムを取るとこの力が手に入るの」
「アイテム?」私は聞き返した。
「そ、アイテム。多分、宝箱を開けると出てくると思うけど」
「宝箱、何それ?」
私は、全く知らない。
宝箱なんか、ゲームや漫画の世界でしか見たことがない。
「そういえば、あの本は…落とさなかったか」
「あの大きな本が、関係あるの?」
「うん、たまに落とすかも。敵を倒すとね」
「敵?」よくわからない。
「なんかよくわかんないけど、変な本に襲われたでしょ。それが敵」
「そのままだね」
私は、苦笑いをしていた。
香流も、首を横に振っていた。
「アイテムとか、敵とかそういうしかないじゃない」
「あははっ、まあそうだね。
私もレシピブックが何なのか、未だによくわかないし」
「あたしだって知らないわよ。
知らないから、こうして視聴覚室に行くんじゃない」
不満そうな顔で、香流は廊下をじろじろ見ながら歩いていた。
「何を探しているんですか、香流さん」
「あった、これ」
香流は間もなくして、廊下で一つの穴を見つけた。
それは廊下がわずかに腐ってできた小さな穴を、香流が指さしていた。
「これって…」
「ここから二階に行けるわよ。簡単でしょ」
香流はそのまま、小さい穴を指さしていた。
穴からは、光が漏れていた。




