013
全身、赤いオーラの女は私に近づいてきた。
だけど私は、その女の顔に見覚えがあった。
というより、その人とは顔見知り程度だ。
「あなたは野球部の…」
「乾君の彼氏」
小さくなった女は、私以外にもいたのを初めて知った。
そして、その女は私が知っている少女だった。
赤い髪のショートカットの少女は、一年先輩だ。
私の彼、乾祥万が所属する野球部のマネージャー。
それが彼女、福田 香流マネージャー。
さばさばした性格で、男勝りのある女性だと祥万が言っていた。
「確か、黄柳野さんよね?名前は、静だっけ」
「はい、福田先輩がどうしてここにいるんですか?」
私は、福田先輩の登場に驚いた。だけど知っている人間なので、どこか安心した。
小さな彼女の右手には、煙が見えていた。
「あたしも小さくなったから」
「どうして?」
「知るわけないでしょ!」
福田先輩も、戸惑った感情で騒いだ。
福田先輩は右手から、煙を吹いていた。
「でもよかったぁ。私以外に小さな人がいて」
「そ、そう?」
「うん、不安だったの。大きい人は怖いし」
「確かに、それはあるわ」
私たちの前に、生徒が姿を見せていた。
女子生徒だけしかいないけど、調理実習の授業を受けていた。
私にも、先輩にも全く気付いていない。
おそらくこの喋りも、聞こえていないのだろう。
「福田先輩」
「香流でいいよ。静」
「でも……」
「いいのよ。野球部でもあたし、香流マネージャーって言われているから。
名前で呼ばれるほうが、あたしらしいし」
「そう、じゃあ香流さん」
私はやはり、少しだけ抵抗があった。
「うん、あなたも目指しているの?静」
「目指す?」
「そ、視聴覚室に呼ばれていなかった?」
香流に言われた瞬間、チャイムが鳴りだした。
チャイムが鳴ると、家庭科にいた巨人のような生徒たちが一斉に動き出していた。




