012
私はなにか、夢でも見ているのだろうか。
そうだ、これはきっと悪い夢だ。
なんだ、そうだったのか。
本が動くなんか、絶対にあり得ない。そう自分を納得させた。
動かないはずの本が、ジャンプするなんてありえない。
本が足を引きずるように、小さな私に迫ってきた。
本は生き物じゃない、ただの道具だ。
それでも、吊り上がった二つの目はまっすぐ私を見下ろしていた。
(生きているの、ねえ生きているの?)
迫ってくる本から、私は走っていた。
走りながら、私は頭の中を整理していた。
(何が一体、どうなっているの?本が動くって)
私の中に、疑問が残った。
白い本棚から、私は走った。
走りながら、叫ぼうと頭の中でよぎった。
「助け…」ダメだ。
ここで叫んだら、私がここにいるのは水主にバレてしまう。それだけは、絶対に嫌だ。
叫ぶのをやめた私は、生徒に気づかれることなく走っていた。
元々、このあたりは本棚の近く。
料理作りに夢中の巨人な生徒たちが、私に気づくはずもない。
(私はどこに、逃げればいいの?)
考える暇もなく、本は迫ってきた。
大きなレシピブックは、意外と足が速い。
ジャンプ力も、私とあまり変わらない。
だとすれば、私よりもずっと大きなレシピブックのほうが歩幅の大きい分距離を詰めてきた。
(どうする?)
迫る本は、得体も知れない。
あのハエも、一撃で倒した。
私もあの本に挟まれたら、きっと死んでしまうだろう。
その恐怖が、私を動かしていた。
でも、本は私の動きをさらに上回っていた。
「え?」
大きなジャンプをした本が、私の頭を飛び越えた。
そして、私に走る道をふさいできた。
「マジ?こんなのあり得ないんだけど」
私は、背中を向けて走ろうとした。
だけど体を回そうとして、足がもつれて転んでしまう。
「きゃっ!」
バランスを崩して、私は倒れた。
本は倒れた私の隙を、逃さない。
恐怖に顔をゆがめつつも、必死で起きる私。
それでも容赦なく、私の目の前で本が開いた。
そのまま私を飲み込もうと、飛び込んできた。
「ダメっ!」
私は目をつぶった。
つぶった瞬間に、赤い光が背中から感じた。
それは、背中ではっきりと感じる熱さ。
「熱?火?」私が目を開けると、燃えているレシピブックが見えた。
燃えたレシピブックは、そのまま空中で燃え尽きているのが見えた。
(何が、起こったの?)
倒れた私は、ゆっくりと体を起こした。
「怪我はない?」
そんな中、一人の黒いブレザーを着た女性がこちらに近づいてきた。
ブレザーのリボンが、真っ赤に光った女はやはり私と同じ小さくなった生徒だと私はすぐに理解した。




