011
私をやはり狙ってきた、しつこく大きなハエ。
私の歩く速度より早いスピードで、私めがけて襲い掛かっていた。
ハエの動きを見ながら、私は冷静だった。
(大丈夫、飛び越えて乗りこなせばいい)
さっき、羽根の女の子が言っていた。
『視聴覚室に行け』という言葉。
この視聴覚室は、調理実習室からかなり近い。
というより調理実習室の下が、視聴覚室だ。
さっきのハエに、ここまで連れてこられた。
ハエをうまく乗りこなせれば…って、制御の仕方はわからないけど。
(とにかく、まずは乗りこなして…と)
羽根の音を立てて、私に迫るハエ。
相変わらずのワンパターンだけど、私はじっと身構えた。
だけど、突然私の足元から一つの何かが私を遮った。
「え?」思わず声を上げた。
それは、家庭科室にいる生徒たちではない。
真下の本棚から、何かが飛び上がった。
私に背中を見せたそれは、本だった。
「レシピ本?」
首を傾げた私は、レシピ本の背表紙が見えた。
そして、本が開く。
ハエが、そこに突っ込んできた。
突っ込んだハエを、そのまま本が閉じて押しつぶした。
「いったい、何が起こったの?」
本に庇われた私は、恐る恐る閉じた本に近づく。
B5サイズで写真の入ったレシピブックは、すぐさま私のほうを振り返った。
(今、ジャンプをしたよね?)
小さくジャンプしたレシピブック。
よく見ると、表紙には目のようなものが見えた。
(何、なんか目のようなものが見えるんだけど)
吊り上がった目のレシピブックが、ゆっくりと開く。
開いた瞬間に、つぶされて圧迫死したハエの死体が本についていた。
「ええっ!」
私は、驚きとともに怯えていた。
だが、目のある本はさらに小さくジャンプをしながら私に迫ってきていた。




