ソロパート
レベル上昇がもたらすのは"身体能力の向上"と"新たな魔法"だ。心の奥底に眠る願いが魔法に方向を与え、魔力に適切な力を与える。
平時のルティの望みといえば、専ら死んでしまった姉に関することだ。耳に焼き付いた姉の演奏の再現、英雄として称えられ、魔物も敵兵もなぎ倒したその力への憧れ、そして再開。
死者の蘇生、頂上との接触、時間の操作、全知、そして進化及び変体。これらの願いは人々が強く望んだからこそ実現の難しいものとなった。
逃げ、生き延びること、これが自分の使命であるとルティは理解していた。しかし、当然、今の彼の願いは復讐で求める力は闘争のためでなく、戦うための物であった。
(もっと力があったなら)
願いが魔法に方向を与え、力をルティに授ける。
(僕の新しい魔法は…帯電。攻撃に使うのか?…でも)
ルティはレンドの願いを正しく受け取っていた。勝ち目のない敵にここで挑むことはレンドへの裏切りであると。こちらに微塵も興味を示さないこの敵からみじめに逃げるのだ。
相手が襲ってくることはないだろうと、根拠のない確信を持ちながらも、目を離さずに少しずつ後ずさる。
「フゥ…」
ここまで距離をとれば…。
「うぅ…ッタイ」
急な頭痛に加えて酔った時のような気持ち悪さ、歪んだ音がぐわんぐわんと頭を揺らす。あまりの痛さに反射的に出る涙と唾液、立っていることもままならずその場にうずくまる。響く音は大きくなり、歪みはクリーンに、そして聞きなじんだ声へと変わっていった。
『ここで逃げるの? 良くないよ、それは。ーーは絶対に逃げないよ。 敵がいるなら死ぬまで戦わなきゃ。 もっと素直になろうよ。』
「なんで…なんで、おかしい、そんなはずは…」
そう…"死者"の声が聞こえてくるはずがない。
声はさらに大きくなり、頭痛はルティの思考を妨げる。顔面のあらゆる穴から汁を垂れ流し、力加減はうまくいかず、のたうち回るうちに裂傷や打撲で傷だらけになっていた。
『ほら、戦おう? 私はーーの逃げるところなんて見たくない』
声だけが鮮明に聞こえ、他の感覚はまともに機能していない。
「ィギイィィァァ…」
錯乱し、奇妙に暴れまわっていたルティは絶叫しながら頭を打ち付け、気を失うようにして動かなくなった。
-フランクのダンジョン 入口-
「おい!そろそろ起きろ。ここに置いてくぞ!」
顔に冷水を浴びて目を覚ます。ひどい倦怠感と頭痛で最悪の目覚めだ。
「………え?」
目覚める前と異なる景色、初めて見る顔。火竜人だ。
「ソロなら、もう少し余裕持ってダンジョン攻略しろよな。無防備に寝てたらただの餌だろ。俺が通りかからなかったら死んでたぜお前」
理解が追い付かない。そして何よりおかしいことがある。
「……レベルが3つも上がってる?」