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93/105

14歳―6―

 が、およそ3メートルほど昇った時だった。


「あれ?」

 今居る場所より上に、足場が生成できない。

 正確には、生成できるけれど、すぐに消えてしまう。


「どうかしたか?」

 空中で立ち止まる私に、殿下が尋ねる。


「作った足場がすぐに消えてしまって……」

「なに?」


 どうしよう、このままだとこれ以上昇れない。

 自分自身をアナライズで見てみるが、MPにも魔力神経にも異常は無い。そもそも足場生成にMPも魔力神経もほとんど使わないし……。

 となると、考えられるのは……


「この辺りに魔力を阻害する何かがあると思われます。土壌か植物か、あるいは生物や魔物か……」


 ――それとも人間、もしくは亜人……?

 足下に広がる森に住んでいる者がいるのだろうか。


「魔力を阻害……そうか……」

 殿下は口元に手を当てて、小声でなにかを呟く。

「ルナリア、ここは恐らく、ダンジョンだ」

「ダンジョン?」


 足下に広がる森を見下ろす殿下に釣られて、私も下を見る。


「ガーベイジフォレスト……。地図を見たときの記憶が確かなら、この辺りにそう呼ばれるダンジョンが広がってるはずだ。もしかしたら前生で落とされたのも、この森だったかもしれん」


 直訳すると、『捨てられた森』……?


「君も知ってるだろうが、ダンジョンを出る方法は三つ。正規の出入り口から出るか、最奥のボスを倒すか、脱出用のアイテムや魔法を用いることだ」

「そうか……、一度降りた私たちは、『ダンジョンに入った』という扱いになって……」

「ここから上に出ることは妨げられている、と考えられるな」

 私のセリフの続きを殿下が引き継いで言う。


「……上から入れるくせに、出られないとか卑怯ですね」

「ダンジョンに物申しても仕方ないさ」


 これまで、学園にある訓練用の洞窟型ダンジョンしか入ったことがない。だから、正規の脱出方法以外で出ようとする機会もなかった。

 ――非洞窟型のダンジョンって、こうなってるんだ……


「この分だと、ロッククライミングなどのやり方でも出られないだろう」

 そもそもこんな高く、ところどころ反り返ってるような崖、いくら補助魔法があっても素人には無理だ。


「脱出アイテムや魔法はありませんから、出入り口を探すか、ボスを倒すしかありませんね……」

「そういうことなるな」


 ――『ダンジョンのルールを斬る』なんてエンチャント、もし仮にできたとしても、斬る対象が分からない。

 このまま上に戻るのは諦めて、ダンジョン攻略に臨まなければならないようだ。


   †


 再び地面に降り立つ。殿下が私を離したので、私も左腕をどけた。

 見渡すと、ガーベイジフォレストの名とはほど遠く、蒼々しい綺麗な森が広がっていた。


「……ここは、攻略も探索も放棄されたダンジョンの一つだ」

 殿下は眉根を寄せて話す。

「門番がいるタイプのダンジョンで、これがとにかく強い。なんとか撒いて中に入っても、生息する魔物がこれまた類を見ないほどに強すぎた。探索隊は毎度全滅、ついには先々代以降一度も探索隊が向けられることはなくなった。

 だがなぜか、このダンジョンから魔物が地上に排出されることはない。故に、ここは無きダンジョンとして放棄し、一般流通の地図にも載せなかった。王宮の図書館にある、『完全全土地図』以外には」

「……だから、捨てられた森(ガーベイジフォレスト)……?」

「そういうことだ」


 森の奥から風が吹く。

 ざあぁっ、と木々と草花がざわめいた。

『ようこそ』とでも言いたいのか。それとも『来るな、帰れ』だろうか。


「……危険だということは分かりました。が、先生達の状況も気になります。急いでこの森を抜けましょう」

「ああ」

 殿下が一歩、歩き出す。

「私たちが落ちた位置的に、おそらくあちらへ進めば正規の出入り口に着くはずだ。ボスと戦うよりはそちらの方が良いだろう」

「分かりました」


 私にはどっちが入り口で、どっちが奥なのかも全く分からない。アナライズはあくまで物や人のみが対象で、ダンジョンの地図や構造を見たりはできないようだ。

 殿下の言うとおり、崖から見て右側へと進んでいくことにした。


   †


 歩き出してからしばらくすると、周囲を無数の気配が囲うのが分かった。

 姿をほとんど見せず、葉ずれや足音、微かに聞こえる呼気……そしてなにより、殺気のこもった視線。それらが確実に、何かが居ると雄弁に語っていた。


「殿下、一旦止まりましょう」

「ん? ……わっ!?」

 護法剣を殿下の周囲に展開する。

「魔物達が包囲しようとしてるので、その前に殲滅してきます」


 と、そこで茂みの中から複数の魔物が飛び出し、襲いかかってきた。まさか人間の言葉が分かったわけじゃないだろうけど……。護法剣の発動に反応したのかもしれない。


 二頭を持つ狼のような魔物の群れ。大きさは二メートルを超えるものも居れば、一メートルに足らないものも居た。


 魔力剣を展開、数五十。

 こうすれば、一対多数でも擬似的に多数対多数に持ち込める。

 意思を持った五十の剣(だけの)兵隊。


 私ではなく宙に浮く魔力剣と戦いはじめ、段々と近づいてくる魔物は減っていく。だがそれでも、一部は私本人に狙いを定めているようだ。


 ――その先頭の、一番強そうなのをアナライズ。


=============

【???】

・HP 1032/1032

・MP 49/49

・持久 239

・膂力 187

・技術 72

・魔技 96

・幸運 10


・物理攻撃力 203

・物理防御力 199

・魔法攻撃力 122

・魔法防御力 136


一つの体に二つの頭を持つウルフ系モンスター。

統率の取れた素早い動きで獲物を狩る。

魔法攻撃力は高くはないが、炎を吐くことが出来る。連射は出来ず、目くらましや援護射撃が主な用途だが、至近距離で直撃するのは避けたい。

=============


 エンチャントはとりあえず2。数値的にはこれで一撃で倒せるはず。


 アナライズの名前が???だけど……この魔物に名前を付けた者が居ない、ということなのだろうか。

 私がここで適当に『ダブルヘッドウルフ』とか呼んだら、それがこの世全ての鑑定魔法に反映されたりするのかな?


 その辺りの検証はまた次に遭遇したときにするとして、先頭の一体を斬り伏せる。


 両手を返して、次の魔物に下から斬り上げた。

 と、今度は片方の口でそれを受け止められる。

 押し上げる私と、押さえつけようとする魔物。


「giiiiiiiya!!!」

 その隙に、もう一つの口が黒い炎の弾を放ってきた。


「くっ!?」

 咄嗟に横向きにスウェーして躱す。


 体勢を崩したところで、ガンガルフォンから口を離して一気に駆け寄ってくる魔物。


「こんのっ!」

 私はそのまま後ろに倒れるように牙から遠ざかり……

 ながら、脚の補助魔法を全開。


 その上を通ろうとした瞬間、思い切り胴体を蹴り上げた。流石に、魔物相手にキュロット穿いてないとか気にしていられない。


「kywn!?」

 私の体と大して変わらない大きさの魔物が、二メートルほどの高さまで浮き上がる。


 地面に頭から落ちて、そのままその魔物は動かなくなった。

 だがその間も、右から小型のすばしっこい個体が襲ってくる。私の喉元めがけて真っ直ぐに。


 背中から倒れそうになるところを、左手を地面に。補助魔法を込めて、ショコラよろしくバク転で無理矢理立ち上がる。


 0.1秒前まで私の首があったところで、ガチンッ、と二つの歯が音を鳴らす。隙だらけの側面に、ガンガルフォンを振り下ろした。


 魔物に刃が当たる時にはすでに次の魔物を見る。手の感触だけで両断したことを確認しながら、背後から来る魔物に宙から魔力剣を落とした。


 そちらは成果を確認する間もなく、今度は左と正面を同時に。もう後ろは上手く倒せた前提で行くしかない。


 それが終われば今度は上から。

 それも捌いて次は後ろを。

 さらに次は左右の挟み撃ち。


 炎を連射できない、というのが幸いだった。これで遠距離まで強かったら手が回らない。


 のべつ幕なしに襲ってくる魔物……ダブルヘッドウルフの群れを退けたのは、それから三十分以上の時間が必要だった。

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