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88/105

14歳―1―

 それからまた少し時が経って、私は十四歳になり、二年生になった。


 前生では、いよいよ死刑にされる年齢。

 三ヶ月後には裁判が起こり、その翌月に断頭台に乗せられる……。


 今の時期はすでに、ゼルカ様をはじめとした取り巻き達から裏切られていた。学園に行けば物が投げつけられたり、罵声を浴びせられる日々が嫌になって、寮に引きこもっていた頃だ。


 今生ではもちろんそんなことなく、ゼルカ様とも引き続き関係は良好だし、私に物や罵声をかけてくる者もいない。シウラディアは生きているし、今は『シウ』『ルナ』と呼び合うくらい仲良くなった。


 だからここからの学園生活は、私にとっても初体験。周りの皆と同じように。

 そのことが少しだけ不安で、けれどとても楽しみだ。



 さて、毎年恒例のアナライズしてみよう。


=============

【ルナリア・ゼー・トルスギット】

・HP 149/149

・MP 11323/11323

・持久 96

・膂力 20

・技術 215

・魔技 527

・幸運 1


・右手装備 なし

・左手装備 なし

・防具   中央学園制服

・装飾1  なし

・装飾2  なし


・物理攻撃力 23

・物理防御力 309

・魔法攻撃力 187

・魔法防御力 513


・魔力神経強度 中

・魔力神経負荷 0%

=============



 相変わらずな伸び方してるMPはまあ良いとして……。

 去年と比べて魔技の伸びはかなり大人しい。今の生活で伸びる限界値がこのあたりということだろう。


 そろそろ卒業後を見越して、持久やHPを伸ばすことを考えた方が良いかもしれない。

 そもそも冒険者になるかどうかもまだ、決めかねているわけで。まずは進路を決めるところからね。


   †


 二年生が楽しみに思える理由の一つが、

「お姉様ー♪」

 レナが準一年生として入学してきたことだ。

「レナー!」

 お互い手を大きく振り合う。


 レナの準入学測定が終わった昼下がり、私たちは寮の前で合流した。


 こちらに小走りで駆け寄ってくるレナの後ろには、フランとセレン先生がいる。

 レナが勢いそのまま私に抱き付いてくるから、私はそれをぎゅっと抱き留めた。ふわっ、と良い匂いが鼻先を掠める。


「制服姿のお姉様、すごく素敵です」

「ありがとう。あとでレナの制服姿も見せてね」

「はい!」


 次いでレナがショコラとエルザに挨拶をする中、少し遅れてフランとセレン先生が追いついてくる。


「一週間ぶりでございます、ルナリア様」

 二人は丁寧に私に礼をした。


 先週まで帰省していた中で、二人がレナの侍女として来るという話は聞いていた。


 フランは元々レナの専属だし、セレン先生はお父様とお母様が『護衛ができる者を連れて欲しい』ということで抜擢されたそうだ。私兵団の女性で一番地位が高いからだろう。

 そもそも私兵の中に女性は極めて少ない。レナの魔法の師匠でもあるし、気心知れた仲というのもありそう。


「あらためてになりますが、引き続きレナのこと、よろしくお願いします」

「はい、もちろんでございます」


 セレン先生は三年前のあの日、パルアスを含む野盗に襲撃された現場に居た一人。私が誰よりレナを大事にしていることを、とっくに知っている。

 私みたいに自分から首を突っ込まなければ、学園生活で危険なことなんてまず起きないとは思うけれど……。それでもセレン先生がレナの側に居てくれるのは、私としても心強い。




 それから寮に入って、窓口で鍵を受け取り、レナの部屋に行く。

 私の部屋から一つ上の階で、間取りはほとんど同じだ。私の時と同じく、ベッドの上にレナの制服が用意されている。


「準入学測定はどうだった? 上手くできた?」

 フランに着替えさせられているレナにそう尋ねてみた。

「筆記は、ちょっと難しくて……。正直、あんまり自信ないです。でもマナーと手技は先生にもお褒めいただけましたし、上手くできたと思います!」

「分かる、筆記難しいよね」


 ……言ってて、二年前の苦い記憶を思い出してしまった。


「明日の結果発表が憂鬱です……」

「まあまあ、重く考えず。現状把握のためだと思いましょう」

「そう、ですね。見て見ぬ振りしてちゃ、ダメですね」


 そんな話をしていると、レナの着替えが終わった。

「こんなに軽いのに、鎧より頑丈だなんて、なんだか不思議」

 レナは自分の体を見下ろして、スカートを翻したり、腕の裏側を覗いたりしている。


 ――かっわいっ……!


 思わず両手を口に当てて、世界一可愛い存在にひたすらに感動を覚えていた。

 この二年で少し伸ばした髪とブレザーのコントラストは、ため息が出るほど愛らしく、美しく。そこにレナの笑顔がプラスされるだけで、この世の全てに感謝したくなる。


 この目で学園の制服を着たレナを見られる日が来るなんて、夢みたい。

 ――創造神様、本当に私を回生させてくれて、ありがとうございます……


「レナ」

「はい」

「……ぎゅっ、てして良い?」

「そんなの聞くまでもありませんよ、お姉様」


 少しだけ頬を染めて笑うレナは、完璧なまでに至高の美少女で。

 レナの方から両手を広げてトコトコと近づいてくれる仕草が、可愛すぎて悶えそうになる。


「えいっ」

 なんて、私の心臓を打ち抜くようなかけ声で、私に抱き付いてきてくれた。


 ――フランとセレン先生には、くれぐれも、学園で変な虫が付かないように見張ってて貰わないと。

 こんな可愛いくて尊い存在に、下手な輩を近づけさせるわけにはいかない……!




 それから寮内を一通り案内して回る。

 大浴場にさしかかったときには、「私も次のお風呂会からは参加させてくださいね」なんて言われた。以前お風呂会の話をしたときから、ずっと参加したがっていたレナだ。


 そして最後に私の部屋まで案内する。

 と、その道中、廊下の合流地点でシウとロマの二人にばったり出くわした。


「おっ、タイミング丁度じゃったかの?」

「だね」

 二人にレナを紹介しようと、前もってこの時間に呼び出しておいたのだ。


「何度か話してるけど、こちらクラスメイトのシウラディア。こちらは、この前卒業したばっかりのロマ」

 レナに向かって二人を紹介する。


「この子はレナ。さっき準入学測定したばっかりの、私の妹よ」

 次に二人に対してレナを紹介した。


「お初にお目にかかります。ルナリアお姉様の妹の、レナーラ・ダア・トルスギットと申します」

「初めまして、シウラディアです」

「ロマ・ラダゴリカじゃ。近所住みじゃから、今後もちょくちょく顔を見せるつもりでおる。これからよろしくの」


 ロマは卒業して寮の部屋はなくなったけれど、私とショコラとの訓練は以前通りだし、夕食を私の部屋で摂るのも相変わらずだ。厳密に言えば部外者なんだけど、この寮はOGの出入りに甘くて、管理人も顔パスである。


「はい! お二人ともよろしくお願いします」


 ロマの側近であるヒルケさん達とも軽く挨拶を交わし合った後、私の部屋に入った。


「ここがお姉様のお部屋ですか」

 同じ間取りにもかかわらず、レナは興味深そうにキョロキョロと内装を見渡している。二年前まで私の部屋にあったインテリアもあるし、懐かしいのだろう。


 それから四人でソファに座る。間もなく、エルザがお茶とお菓子を用意してくれた。


「あらためて、いつも姉がお世話になっております」

 レナが恭しく二人に礼をする。


「こちらこそ、ルナリアには世話になりっぱなしじゃ。年長者の威厳など吹き飛ぶくらいにのう」

 そう答えて、体が小さくなって以降猫舌なロマはお茶をふーふーと冷ましている。


「ね? 可愛いでしょ? 私よりずっと」


 二人には前々から、『妹は私の数十、いや数百倍は美少女なのよ!』と力説してきた。今日、やっとそれを証明できたわけである。


「お姉様! 他の方にもそういうこと言うのは、おやめになった方が……」

「? もう何度も言っちゃってるけど……」

「お姉様……」


 レナは私に向けてた視線を二人に戻した。

「……お姉様がいつもご迷惑をおかけしております……」

 妙に恥ずかしそうに、レナはもう一度頭を下げた。


「かかかっ、姉妹仲が良いのは結構なことじゃて。肉親が居ないワシからしたら、迷惑でもなんでも無い。安心せい」

 そんなレナをロマは笑い飛ばしてくれた。

「ありがとうございます。……私がいくら訂正しても、ダメなようでして……。付き合わせてしまって申し訳ございません」

「なるほど。お主もなかなか苦労してそうじゃな」

「褒められること自体は、嬉しいんですが……」

「これルナリア。大事な妹に心労揉ませるでない」

「……なによ。私は別に、ただレナが可愛いって真実を……」

 私は抗議じみて言う。

「それだけ聞けば、まあ真実と言っても良かろう。価値観は人それぞれじゃ」

 そして、ロマは小さく息を吸って……



「じゃが、客観的にはお主の方が圧倒的に可愛いし、美しいと言わざるをえん」



 そう、はっきり言い切った。


 足下が急に崩れ、視界が暗転し、後頭部をハンマーで殴られたような衝撃。


「なっ……そんな、ロマ、なにを……?」

「お主が事前にハードルを上げに上げまくるから、実際目にしたワシらの第一印象は『まあ可愛いけど、言うほどじゃないな』となってしまう。なにせ毎日のように、似た顔でもっと綺麗なルナリアを見とるんじゃから」


 周りを見渡すと、レナが何度も深々と頷いていた。

 他の人も、ロマの言葉に同調するように、私から目を逸らしたり、無表情を貫いたりしている。


 ――そんな、そんなことって……


 縋るようにエルザやフランを見るが、いつも従順な二人ですら困ったように眉を寄せていた。

 それを見て、私はドーズ先生と戦った時以上の、絶望感に包まれる。

 ……ショコラだけは、面白そうにニヤニヤしてたけど。


「繰り返すが、可愛らしい子じゃぞ? 十二分に美人と言える。が、お主が余計なことを言うから、聞かされた方はちょっと肩透かしだし、なによりレナーラ本人が一番恥ずかしい思いをするんじゃ。

 レナーラは自分とお主の容姿の差を客観的に理解できておる。

 妹という色眼鏡が掛かっていることに気づけぬうちは、今後もずっとレナーラに恥を掻かせ続けることになるぞ。ゆめゆめ、是正せい」


 ぐぐぐっ、と思わず拳を握る。

 反論したくて……けれど、上手い言葉が思い付かない。


『お姉様の方が可愛いし綺麗』


 その言葉は、レナからずっと言われていた言葉だったから。

 ロマから別角度で同じ事を言われて、私は認めざるを得なくなっていた。


「だって、だって……、うぅっ……」

「……なにも泣くことないじゃろ……」

 絶望に打ちひしがれて、私は両手を床に付く。



「レナは、世界で一番可愛いんだものーーーーーーーーー!!!」



 私の叫びは部屋中に木霊して、やがて消えていった。

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[良い点] そうでした、色々な学園事件のせいで忘れましたけど、妹のレナさんこそルナさん一番の本命でしたね〜 可愛くて尊いwww
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