13歳―17―
刃競り合いののち、ドーズ先生は一度離れる。
その隙に、多重魔力剣を生成。全く同じ座標に複数の魔力剣を生成することで、威力と強度を増したものだ。
護法剣もそのまま、周囲に浮遊させる。
「……護法剣といったか。厄介だな」
呟いたドーズ先生は、その場で「はっ」と呼吸をした。
瞬間、全身から金色の……なんだろう? 魔力ではないはずだけど、私がエンチャントしたときの青い光と似たような光を纏い始めた。
恐らく戦技の類いなんだろう。
アナライズしてみる。
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【ドーズ・ブラッダメン】(闘神気)
・HP 13497/13497
・MP 915/1015
・持久 1251
・膂力 1556
・技術 1398
・魔技 43
・幸運 77
・右手装備 ドーズのシミター
・左手装備 竜紋章の小楯
・防具 辺境騎士の軽鎧
・装飾1 なし
・装飾2 なし
・物理攻撃力 12011
・物理防御力 9615
・魔法攻撃力 31
・魔法防御力 7389
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なに、これ?
一瞬アナライズの不具合かと見紛うような数字の羅列だった。
――膂力なんてパルアスに匹敵してるけど……?
闘神気? なにこれ。
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【闘神気】
戦技の一種。闘気系戦技の究極。
自身の膂力、技術を大幅に引き上げ、また装備の補正値の係数も上昇させる。
術者の熟練度によって上昇幅は変わる。
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最早、乾いた笑いしか出てこない。
これが、ドーズ先生の本気と言うことか。
私の護法剣を破るには、それが必要だと判断したんだろう。
初めて会ったとき、『いつか本気の彼と手合わせ願いたい』なんて思ったけれど……
――こんな形で叶うなんて、嫌でしたよ、先生……
「斬鉱断鉄」
いつの間にか間近に迫ったドーズ先生の一撃に、私の護法剣は一秒も持ちこたえられず、砕け散った。
……多重魔力剣は、私が気付かぬうちに斬り捨てられていたらしい。
その一秒未満で、なんとか私は後ろに避ける行動だけはできた。
けれど、僅かにかすっただけの先端と、振り下ろした衝撃波が、私の全身をズタズタに破壊する。
「きゃあっ!」
気付けば地面に転がっていた。
制服はボロボロで、もしこれが普通の服だったら、私の体の方がこうなっていたことだろう。
「う、く、うぅ……」
なんとか立ち上がろうとするけれど、上手く力が入らない。
かすっただけで、この威力。
全身が痛みと、恐怖と……なにより、絶望で、これ以上動かなくなってしまっていた。
ザッ、ザッ……
ドーズ先生の靴が砂利を踏みしめる音。一歩ずつ、こちらに近づいてくる。
――ダメだ。このまま私が死んだら、シウラディアも、ロマも……殺されちゃう……!
そう、自分を奮い立たせようとするけれど……
意識はとうとう、そこで途切れた。
†
~幕間~
思いのほか吹き飛んで行ってしまったルナリアを追って、ドーズは近づいていく。
(もうすこし踏ん張りが利く子だと思ったんだが)
彼は口にはしないまでも、そう思う。
(……それだけ、俺が敵に回って心が折れたか)
だとしたら良心が痛まないでもないけれど、仕方が無い。
ドーズ・ブラッダメンにとって、自分の良心なんて些末だ。
あるとしたら、それはたった一人にしか向けられない。他者に向けるつもりもないし、そんな資格すら無い。
「おいおい、何がどうなってんだ……?」
ドーズがその気配に気付くと同時に、少女の声がした。
次の瞬間、メイド服を着た犬あるいは狼の獣人の少女が、空から降りてルナリアの前に立ちはだかる。周囲の木を伝って来たのだろう。
「説明してくれや、センセー」
とは言いつつも、おおよそ察している様子で、少女はドーズを睨む。
「ルナリアの従者か。見事な気配遮断だ。手練れと思っていたが、ここまでとはな」
「……テメエが俺の主人をこうした、ってことで良いんだな?」
言いながら、勢い良く両腕を左右に広げる。ジャキン、と音を立てて爪を……戦爪を伸ばした。
「隠れて監視してたんじゃないのか?」
「……近くは警戒してなかったんだよ。なんせ、あんたが居たからな」
そう言って、狼少女は悔いるように歯を食いしばる。
「無益な殺生は好まん。ここを離れて、また別の飼い主を探すが良い」
ドーズは再び歩みを進める。
「あいにく、コイツ以外の首輪はかけないと決めたんでな」
少女が闘気を帯びる。ドーズすら感心するほど鮮やかな発動だった。
「……彼我の力量差が分からないわけあるまい」
「忠犬が主を守るのに力量とか関係ねーんだよ」
その言葉は、今し方自分が言ったセリフと少し似通っていて。
僅かにドーズは口端を緩めた。
「……そうだな。確かに、その通りだ」
急に笑い出したドーズに、少女――ショコラは僅かに目を丸くする。
「敬意を表す。君は犬では無い」
そしてまたいつもの無表情に戻って、鞘を地に置きシミターを両手で持つ。
「主人と同じ棺に入れてやる。あの世で仲良くすると良い、狼」
重心を前にし、駆け出そうとした。
「シャアッ!」
その瞬間を見計らって、ショコラは十の戦爪を大きく振るう。
一瞬、遠距離攻撃の戦技を警戒するドーズ。
だが、その爪が斬ったのは空気ではなく地面。
轟音を立てて、土煙が周囲に舞い広がる。
(目くらまし……)
気配遮断を見抜けないことを正直に言ってしまったことを密かに悔いるドーズ。相手がそこにつけ込むのは当然だ。
気配探知に注力する。
……だが、しばらくして段々土煙が薄くなってきてもなお、襲いかかってくる様子がなかった。
「……謀られたか」
土煙が消えた後、そこに居たルナリアとショコラは綺麗に居なくなっていた。
振り返ると、シウラディアはまだそこに居る。流石に彼女の回収は諦めたようだ。
土煙が届かない位置だったし、ドーズを挟んで反対側。そこから回収して人二人抱えて逃げるのは、闘神気を纏うドーズに通せないと判断したのだろう。
やはり、彼我の力量差が分からぬ愚鈍であるはずない。
(むしろ、見誤ったのは自分の方)
言った方が見誤ってるのだから、世話はない。
獣人の足が相手では、今から追いかけてももう追いつけないだろう。
ドーズは諦めて闘神気を止め、シミターも納刀した。
シウラディアの元に戻る。彼女の手から落ちた杖剣を拾い、そのまま両手で抱き上げた。
そうして山を下りて行く。
(このままこの国を出て、身分を隠し、俺たちに見つからないよう生きてくれ)
なんて、飼い犬にあるまじき、教師の感情が強まっていることを自覚しながら。
まさかあの少女が、そんな選択するわけ無いということも分かりつつ。
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