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13歳―10―

 その後、学園やギルネリット先生によって、なんとかシウラディア様は一命を取り留める。……そう、一時は命の危険すらあったのだそうだ。

 寮から出され、今は学園の敷地内にある治療院に入っている。

 今でも魔力神経の痛みに苦しまされているという。



 私は、部屋に置いておいた杖剣を手に取った。

 これを活用するのは、今だ。


 私の力では、状態異常を治すことはできないだろう。

 けれど楽にしてあげることならできるはず。

 魔力神経の負荷が原因で暴走が過暴走、となってしまうなら、負荷を軽減してあげれば良い。

 魔力神経の機能を補助する魔法をエンチャントできれば、それが叶うのではないか。


 ――いや、叶えさせる。できないなんて、私の魔法剣の才能に言わせない。

 筋力を補助する魔法が『魔法剣の才能』の範疇なんだから、魔力神経の補助が範囲外なはずがない。現に、多分私もパルアスと戦ったときに無意識に発動していたはずなのだ。でなければ十一歳の体で1000%超の負荷に耐えられたはずがない。


 それに、杖というのは元々魔法使いが魔法を使うための補助として用いる道具。

 今回は杖剣なんだから、『魔法剣の才能』で及ばせる!

 私がイメージできたなら、できないことなどないのだから。


 ということで、エンチャントできた杖剣を試してみる。

 全く同じ座標に魔力剣を複数生成し、魔力神経に負荷を与えてみてから杖剣を手に持つ。

 アナライズで観察すると、30%ほどまで上げた負荷がみるみるうちに0%まで下がった。


 一応ロマや他の令嬢の方にも試してもらい、私でなくても機能することも証明できた。


 ――待っててね、シウラディア様。

 今、助けに行くから。


   †


~幕間~


 ズキズキという全身の痛みで、目を覚ます。

 時計を見ると、一時間ほど寝れたらしい。最近にしては上々。


「……喉、乾いたな」

 サイドベッドの水吸瓶に手を伸ばす。

 そこから二口ほど水を吸って、戻した。


 ――私、どうなっちゃうんだろう。

 慢性的な睡眠不足で思考はそぞろ。

 お母さんはどうなったのか、あれから続報もない。一応、手紙の後半には『今は休んでもらってる』とは書いてあったけど……。


 一度帰りたいな。

 でも、そんなの無理か。

 なにせ貴族に……しかも公爵様に、暴言を吐いてしまった。死刑になるかもしれない。


 ――何で、私、あんなこと言っちゃったんだろう……

 あれだけ私を心配してくれていたのに。

 胸が痛い。魔力神経よりも、ずっと。


 とはいえ『アナライズが使える』なんて、ルナリア様らしくない下手な嘘だったとは思うけど。

 それだけ、私を止めるのに必死だったのかな。


「……ルナリア様、ごめんなさい」

 独り言で謝るけれど、そんな意味のない謝罪が空しくて、罪悪感が募るばかりだった。


 コンコン。

 そこでノックの音がした。

「……どうぞ」

 私が言うと、病室のドアが開く。


 お医者様かギルネリット先生か、それともお見舞いの友達か……。

 それくらいしか来たことがないこの部屋に、見慣れない黒尽くめの人が入ってきた。


 頭は深い頭巾をかぶり、目元は見えない。肩から足下までも真っ黒なコートをぴっちりと締めていた。

 唯一見える口元で、かろうじて女性だと分かるくらいだ。


「……どちら様?」

「君の味方だよ」

 微妙に答えになってない答えを返して、女性は私の枕元まで歩いてくる。

「安心してくれ。ちゃんと許可は取って入ってきてる」


 ――こんな怪しい恰好で許可なんて取れるんだ。

 この施設の防犯は見直した方が良いと思う。

 まあ許可を取ってから今の服に着替えたのかもしれないけど。


「味方である証拠……というわけでもないが、これを見てくれ」

 言って、女性は薄い鏡のようなものを取り出した。反射して、私の顔が写る。すっかり魔力神経が焼き付いて、遠方部族のペイントみたいになってる私の顔が。


「これは憶映晶(おくえいしょう)。脳内にある記憶や情報を映像として投影できる魔法が施された水晶片だ」

 ゆっくりと私の顔が歪んで、ここではない別の風景が徐々に映し出されていく。

「今から映すのは私の憶映。どうせ一人で痛みに耐えるだけの暇な時間を過ごすだけだろう? 暇つぶしと思って付き合ってくれたまえ」



 そこからの映像は、とても不思議なものだった。



 最初の映像は、私が入学して間もなくだろう。

 制服姿は変わらないけど、見覚えのないキラキラした装飾品をあちこちに身に付けていた。ネックレス、イヤリング、指輪は左右に三個ずつ、腕輪も右に三個、左に二個で、重たそう。


 その後、ルナリア様が出てきた。今と違って肌の色は普通だし、髪も綺麗な金髪で、こっちのルナリア様も目眩がするくらいの美人だ。


 けれど、違和感があった。

 目つきが悪い。全然笑わない。


 前から二列目に座った私の前に立つ。後ろには他のご令嬢が並んでいる。お風呂会の時には居ない方も多かった。


「平民が座ったおかげで私が座れなくなったじゃない。書いてあることが建前と言うことも分からない低脳と同じクラスだなんて、吐き気がするわ」

 声と顔は確かにルナリア様なのに、あまりに表情とセリフが合わなすぎる。まるで質の低い演劇を見せられてるみたいだ。


 けれど映像の中のルナリア様は私の事が大嫌いのようで、しきりに突っかかってくる。

 そして一番違うのは、ガウスト殿下とすでに婚約を交わした中である、という脅し文句。


 ――こんなよく似た別人も居るんだ……

 と、最初は思ったものの……


 それから、ルナリア様やその取り巻き達からされたことを見させ続けられていると、なんだか段々、本当にあったことのように思えてくる。


 ――そうだ。階段の前で足を引っかけられるのは日常茶飯事。一時は、毒を飲まされそうになったこともある。

 ……どうしてか、少しずつ、そんなことが事実としてあったような、そんな錯覚に陥った。


 次に、魔力測定。私は周囲を光魔法……いや、聖魔法? 分からなかったけれど、少なくとも今の私じゃ使えないとんでもない高火力の魔法で、周囲を圧倒させていた。

 それからダンジョン演習に抜擢されることも、現実と同じ。違うのは、そこにルナリア様がいないこと。


「ああ、彼女は……。魔法の才能が0で、どんな魔法も習得できなかったから、指揮や兵法を座学で勉強しているよ」

 と、ガウスト殿下がどこか言いづらそうに、映像の中の私に説明していた。


 それからは驚くことに、殿下が私を食事に誘ったりするようになっていく。私も彼をお忍びでデートに誘ったりなんかして、恐れ多いというレベルじゃない。

 男女の関係になるまで、時間はかからなかった。


 ――こんな時だというのに、あくまで映像の中にもかかわらず、痛みよりも恥ずかしさの方が辛くなってきた。


 けれど、ルナリアの悪行から守ってくれる彼の存在は、確かにとても、心強い。

 味方になってくれる人が一人でも居ることの嬉しさは、今の私でも分かるから。




 と、そこで映像が途切れて、再び今の私の顔を映し出す。

「君は本来、次期聖女候補の一人として学園に入学するはずだった。だが、今の君は聖女候補でも何でもない。なぜか分かる?」

「なぜって……。聖女様は生きてますし」

 聖女は基本的に、崩御されない限り次を探すなんてしない、と聞いたことがある。聖女本人が擁立した場合は別だけど。


「そうだ。君が入学する頃には、聖女は死んでるはずだったんだ」

「……死んでる、はず……」

「だから君は聖教会に一足早く才能を見いだされ、次期聖女として順調に成長する。今は魔女を目指してるらしいが、魔女よりも遙かに格上の存在だ。本当だったら君も、君の家族も、一生食うに困らなかっただろうな」

「聖女……私が……?」

「その上で、未来の王妃の座にも着く。歴史上初めて、聖女であり王妃となる君は、この国のあらゆる問題を解決し、英雄と謳われるようになるのさ」

「英雄……」


 ――上手く思考が働かない。痛みと寝不足のせいか。

 女性の言葉が妙に、私の心に突き刺さる。

 まるで、本当にそんな未来が存在していたかのように。


「だが、現実では先代の聖女は生きているし、王太子は君よりルナリアを意識している。つまり、君や君の家族を不幸のどん底に叩き落とそうとする者が居ると言うことだ」

「私と、私の家族を? ……そんな、酷いこと、誰が……」

「薄々分かっているだろう?」

 再び、憶映晶の映像が歪んで、私じゃない人物を映し出す。


 映ったのは、私へ罵声を浴びせる、醜く顔を歪めたルナリアだった。


「ルナリア・ゼー・トルスギット。この女が諸悪の根源だ。君の幸せを奪い、君の家族ごと地獄へ落とそうと暗躍しているんだよ」


 ――彼女と初めて会ったときのことを思い出す。

 純白に真紅の瞳をした神秘的な美人。でも愛嬌も満点で、私は一瞬で心を奪われてしまった。

 平民の私にも優しくて、私の口端を持ち上げて笑顔にしてくれて、お風呂では肩まで揉んでくれて……。


「そんなもの全部、君に取り入るための策略だ。なにせバレたら、英雄とまで呼ばれる君の強力な魔法で焼き尽くされるかもしれない。内心では君のことを不幸にして、惨めに餓死か凍死でもさせたいとしか思っていないよ」


 ――ああ、そうだったんだ。

 確かに、そう考えれば納得も行く。

 公爵家の娘が平民と友達になるなんて夢物語より、そっちの方がよっぽど説得力がある。

 ――やっぱり、ルナリア様……いや、ルナリアは、私の敵だったんだ。


「ああ。だから、君があの女に暴言を吐いたなんて悔いることはない。むしろ当然だ。このままあの女を信じたら、殺されるところだったんだから」

 ――気づけて良かった。教えてくれて、ありがとうございます。

「礼には及ばない。なにせ、今のところ結局あの女の思い通りになってしまっている。魔力神経が過暴走したのも、ルナリアがなにか呪術を外部に依頼したのかもしれない。とにかく、このままではヤツの思うつぼだ」

 ――そんな。それじゃ、私は、どうしたら……

「簡単さ。そもそもはルナリアが先代聖女を生かした事が原因。あの女が生きてる限り、先代聖女も死なない」

 ――そうか、それなら……


「ルナリアと聖女を殺せば良い。そうすれば、君は聖女に返り咲き、家族とともに幸せになれる」


 そこで、私の手に冷たい物が触れた。

 視線を落とすと、女性が私の手の上に大きめのナイフを置いている。革製の鞘に収められていた。


「これは、すべての魔法防御を突き破る短剣。我が家に伝わる宝具の一つ。これをルナリアに突き立てるんだ。おそらく近いうちにご機嫌を取りに見舞いに来るだろう。その時、背中から心臓を突き刺すと良い」

 金属の柄は銀色に光り、ずしりと重たい。

「聖女……ロマの方は君では接触が難しいだろう。でも大丈夫。そちらは私の手の者に動いてもらうつもりだ。君はとにかく、ルナリアを殺せばいい」


 ――ルナリアを、殺す。

 ルナリアを、殺せば……

 私が、人殺しになれば……



「お母さんは、助かりますか?」



 女性は一瞬、驚いたような素振りを見せてから、その口元に微笑を浮かべた。

「もちろんだ。だから、泣かないで」

 そう言って、女性は手を伸ばして、私の目元を優しく拭ってくれた。気付かず、私は泣いていたらしい。




 次に気がついたときは、誰も居なかった。

 窓の外は日が暮れ始めている。どうやら眠っていたらしい。

 ただ私の手にある金属の重みだけが、あの女性は夢でなかったのだと教えてくれた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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