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13歳―6―

「普通のお風呂の時間には少し早いと思いますが、シウラディア様はどうしてこの時間にいらしたのです?」

 私の足下に入ったジョセフィカ様が尋ねた。

「朝から魔法の練習していたんですが、息詰まって。魔力神経も痛くなってきましたし、休息と気分転換にお風呂入りたいな、と」

 答えながらシウラディア様が足からやっくりと湯船に入る。


「今、丁度シウラディア様の話をしていたんですよ。ルナリア様が根を詰めているのを心配されてましたわ。ねえルナリア様?」

 シャミア様が言って、最後に私に振り返る。

「ええ、そうで……」

 すね、と言おうとして、思わず言葉に詰まる。


 ――浮いてる。


 シウラディア様の胸元で、お湯に浮かぶ二つの丸みに目を奪われた。

 私の視線に気付いて、一人、二人と、シウラディア様に視線が注がれる。


「なんと……」

「……まさか」

「これくらいあると、こうなるんだ……」

 貴族令嬢達の中で、動揺が広がっていく。

「……? どうかされました?」

 まだ私たちの受けた衝撃に気付いていないシウラディア様が、小首をかしげていた。


「皆さん、あまりジロジロ見ては失礼ですわ。……私が言えた口じゃありませんが」

 私のせいで注がれた視線をなんとか引き戻そうとする。

「え? ……ああ、もしかして、そういうことですか?」

 感づいたシウラディア様が両手で自分の胸元を覆い、肩までお湯に沈んでそれを隠した。


「不躾な視線で失礼しました。その……あまりの立派さに、びっくりしてしまいまして」

「い、いえ、私こそ、お目汚し申し訳ありません……」

 恥ずかしそうに頬を染めるシウラディア様は、同性の私から見ても可愛らしい。


 可愛らしいけれど……その言い回しに違和感を覚えた。

「目汚しなんてとんでもありません。むしろ目の保養でしたよ」

 ……言ってから、この言い方もどうかと思った。

 彼女が立ってるところを見てからの一連の衝撃で、まだ頭が上手く働いてないかも。


「お気遣いありがとうございます……。皆さんのような綺麗な方々の前で、こんな体を晒してお恥ずかしい限りです」

 そう言うシウラディア様からは、遠慮や社交辞令は感じられない。

「『こんな体』だなんて仰らないで。この中の誰よりも素敵だと思いますよ」

 私は湯船に入って、彼女に近づいていった。


「流石にそれはありません。ルナリア様の方が、スラッとして素敵です」

「そう言ってくださるのは嬉しいですけど、シウラディア様も女性らしくて素晴らしいと思いますよ」

「そんなわけありません。作業するにも邪魔ですし、運動するとすぐ痛くなりますし。肩も凝るし、見た目もみっともない」

 そう強く言い切ったのが、私には意外すぎた。


 前生では、勝手に『私みたいに発育の悪い女を内心、見下してるんだろう』なんて逆恨みしていたくらいだったのに。

 誰もが羨んでも手に入らない豊穣を誇ることすれ、まさか嫌っているなんて、思いもしなかった。


「……シウラディア様は、ご自分の体が嫌いですか?」

「はい、嫌いです」

 即答だった。

「男子からはからかわれるし、女子からも気持ち悪がられるし。……もちろん全員じゃありませんけど」

 ――少なくとも女子の方は気持ち悪がってるんじゃなくて、嫉妬だと思うけどね。

 けれどバイアスを持ってると、そう感じてしまうのだろう。


「……なるほど、人間、自分に無いものを羨むのかもしれませんね」

 そう言いながら、私はシウラディア様の後ろに回った。

「ただ、ご自身の体を嫌いだというのは、とても悲しいですし、寂しいです。少なくとも私は、心の底から、シウラディア様に見とれてしまいましたから」

「見慣れていないから、そう錯覚されたのでは……」

「いいえ。断言します。シウラディア様は容姿もスタイルも、トップレベルに可愛いですよ」

「か、かわ……!?」


 言われ慣れていないのか、シウラディア様が言葉を詰まらせた。

 そんな一挙手一投足が、可愛らしい。

 私が後ろから彼女の両肩に手を置くと、「ひゃぃ!?」とまた可愛い声で反応する。


「肩が凝るから嫌い、と仰るなら、こうしてたまに肩を揉ませてください」

 言いつつ彼女の肩をマッサージし始める。

「ル、ルナリア様、そんな、恐れ多い……」

 シウラディア様がどうして良いか分からない様子で、頭だけ振り返った。

 私という人間に慣れているはずのご令嬢方も、流石にびっくりしているようだ。


「邪魔になるとか痛くなるというのは、なかなかお助けできませんが。……『肩が凝る』という点だけならお役立てます。その分だけでもご自分を好きになれたら、私も嬉しいですわ」

「そんな、私は平民で、ルナリア様はお貴族様なのに……」

「入浴に貴賤なし。さらに言うと、友情に上下もありません。……どうですか? 多少は楽になってきましたか?」

「……す、すみません、緊張して、あんまり良く分かりません……」

「ふふっ、それでは少しでも楽になるまで続けましょう」

「そ、そんな……」

 それ以上は言葉が思い付かないようで、シウラディア様は借りてきた猫のように私に揉まれるがままだった。


 それでも少ししたら慣れてきたようで、段々気持ちよさそうな声を出してくれるようになる。

 ただ私も疲れてきてしまったところで、ショコラが「替わりましょうか?」と提案してきた。少し考えて、私より力が強いショコラの方が適任かもしれない、と替わってもらう。


 シウラディア様はそのタイミングで「もう結構ですよ!」と言うも、「ダメです、まだ凝ってますから」と却下させていただいた。

 替わった効果はすぐに出て、案の定、私の時よりもシウラディア様の声は高く、大きくなった。


 ――部屋に戻ったら、私もショコラにしてもらおう。

 気持ちよさそうな彼女を見て、私は密かにそう決める。


   †


 翌週。火曜日の放課後。


 この日は週に二回ある寮市の日。寮市とは、寮の前庭に多くの店舗が軒を連ね、寮生達に物を売る日だ。

 寮から出られない寮生達は、ここで生活物資や娯楽品を購入することができる。各店舗は学園から審査があるため、あまりハメを外したものは売ることはできないけど。


 平民向けと貴族向けの区画に分かれているが、今日は(も)平民向けの区画にやってきた。

 本当はシウラディア様と一緒に回ろうかと思ったが、平民の友人達と回る先約があるということで断られた。

 ……正確には、なんだか言いづらそうにしてるところを聞き出し、「そういうことならご友人を優先ください」と私から言ったのだけど。


 シウラディア様は席こそ隣だが、休み時間や放課後も平民の友人達とどこかへ行くことがほとんどだ。

 ということで、今日はショコラとエルザと私、いつもの三人。


「ルナリア様、今日の貴族区画は旅楽団の演奏や、ツェリードニヒ商会の出店もあるそうですが……」

「あんまり興味ないわ」

 エルザを一蹴して私は平民区画を進んでいく。

 貴族向けの買い物なんて屋敷にいるときからしてるし、準一年生の時も時々している。こっちの方がお店の種類も多く、ずっと見てて楽しかった。

「ルナ、あれなんだ?」

 ショコラが左の方の出店を指さす。

「分かんない、見に行こ!」

 ショコラの手を取ってそちらに早足で向かう。

「……はあ……」

 エルザのため息は聞こえなかったことにした。いつものことだし。




 いやまあ、楽しんでるのも事実ではあるけれど。

 今日こちらに来たのはちゃんとした目的もある。

 シウラディア様の件だ。


 彼女が魔法を習得すると決めたのなら、もう後悔していても仕方ない。せめてここから先、道を間違えないようにしてあげるのみだ。

 そう考えたものの、私にできることなんて魔法剣しか無い。

 なので、なにか役に立てる物が無いか探しに来たのである。


 ……まだ具体的にどうすればいいかは朧気で、とにかく動きたい気分だったのもあるけど。

 なにはともあれ最優先なのは、『MPの漏洩の解消』と『無効分の魔技を有効化』を避けることだ。


 これらを避けつつ、シウラディア様が魔法を使い続けても良いようにする。

 たとえば、鑑定魔法を妨害するエンチャントができれば良い。


 シウラディア様は再来月、専門の鑑定魔法使いに鑑定してもらうことが決まったらしい。なんでもギルネリット先生の知り合いで、学園に許可をもらったそうだ。

 その人がアナライズが使えるとは思えないが、状態異常は見抜かれてしまうかもしれない。そうなると、最悪聖教会と協力して、魔術具で解決……なんて未来もあり得る。


 だが問題なのは、エンチャントは基本的に『剣そのもの』以外に効果を発揮しないこと。

 なので『所有者を鑑定から守る』ことが果たしてエンチャントで可能なのか、怪しい。

 怪しいが、他に私にできることも見つからないため、こうして手頃な剣を探しに来たのだ。


 ――剣の形をしていれば、多分首飾りとかでもエンチャントできると思うんだけど……

 貴族向けに売ってる物では、平民の女の子が付けるには豪華すぎて窃盗などの危険もある。平民区画で探すのが一番だろう。

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