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13歳―4―

 翌々日。新年度三日目。

 正一年生になって初の戦闘実技の授業があった。今日は模擬戦の方だ。

 準一年生は貴族しかいないから、学園側も気を遣って三ヶ月猶予を持たせたのだろう。正一年生では三日でいきなり授業開始である。


 貴族達は準一年生の頃と同様に中庭の東側で模擬戦を行い、初見の平民達は中庭の西隅で実力測定を行っていた。

 平民のほとんどは、学園に来る前に戦闘の練習や魔法の習得などしない。たまに一部裕福な家の子が、独自にしている程度だ。


 ――そこから実戦に不向きと判断されると、座学のみになるのよね。

 座学で貴族は唯一私だけだったから、平民に混ざることが最初の頃は悔しくて、屈辱だったっけ。


 今思えば、そんなストレスもシウラディア様に酷いことをした一因だったのかもしれない。何かに憂さ晴らししたくて。

 ……まあ、その辺の懺悔は心の中でするとして。


 気になるのは、今生のシウラディア様。

 潜在能力だけで言えば、自身を殺めてしまうほど強力な物を持つ彼女だ。私が初めてセレン先生の前でエンチャントしたときみたいなことが起きないか、一抹の不安はよぎる。


 ――いやまあ、普通に考えたら、そんなすぐに魔法は使えないとは思うけどさ。

 魔法で重要なのはイメージだ。私は前生の経験があったけれど、彼女はまだ十三年しか生きておらず、魔法を見たことすら稀だという。

 それなら、いくら才能があっても一日で魔法を使う段階に至ることすらできないだろう。


 懸念があるとしたら、今日平民を担当してるギルネリット先生の指導力か。彼女が有能なら、あっさりシウラディア様の才能を引き出してしまうかもしれない。

 ――いやいや、いくらなんでも変な心配しすぎよね。きっと……

 そうであって欲しい、という願いも込めて、心の中で呟く。


 そんなことを考えながら、私は目の前の槍を持つ男子生徒に魔力剣を放った。

 後ろから来る剣撃は鞘に入れたままのガンガルフォンで弾き、右上から落ちてくる蹴りの戦技『イーグルクロウ』は魔力足場から宙に跳んで交差するように回避。


 真上からガンガルフォンを振り下ろして、『イーグルクロウ』の男子をダウンさせてから、私はゆっくりと地面に降りた。ふわりとスカートが舞い上がるも、もちろんキュロットを忘れていないから大丈夫。


 周囲を見渡すと、いつの間にか今日の相手である七人が全員倒れ込んでいた。

 ……準一年生の二学期の後半から、こうして集団戦の時間が設けられている。

 ドーズ先生が約束を守ってくれたわけだ。


「おい」

 そんなドーズ先生が、いつの間にか真横に来ていた。全く気づけなかった。

 ――ついさっき、索敵してたはずなのに。


「なにか気がかりでもあるか?」

 ドーズ先生は無表情に私を見下ろしてそう尋ねる。

「……なんですか、急に」

 私は微妙に回答を避けた。

「動きが荒くて集中もしてないようだった。気になることがあるか、あるいは嫌なことを思い出しでもしたか、と思っただけだ」

 ――この人、心でも読めるの?

「……どっちも多分正解です」

「だそうだ、お前ら」

 ドーズ先生は私の相手をしていた男子全員を見渡した。


「お前らごとき集中しなくても造作ない、だとよ。ここまでコケにされて悔しくないのか」

「コケッ!? 別に、そんなこと言ってません!」

 なんかニワトリみたいになっちゃったけど、慌てて否定する。

「口でそう言ってもフォローにならん。お前自身、良く分かってるだろ」

 ――いやまあ、ぐうの音も出ませんけども。

 次にドーズ先生は見学していた他の貴族達に向き直った。今日は魔法組の子達もここに居る。


「魔法組。次回からお前達も参加だ。ローテーションはこっちで決めるから、今日のうちにルナリア対策を練っておけ」

「えっ」とか「そんなっ」という声が聞こえてくる。

 まあ、シャミア様やアリア様あたりはそんな声が聞こえていたのか微妙だけど。

 二人を始め、ファンの子達はさっきからずっと私の事を熱い視線で見ていた。魔法組が武術組の実技を見るのは今日が初めてだったから。


 ――なんか大事になってきちゃったなあ。

 去年、ドーズ先生の集団戦の話に乗ったのはミスだったかもしれない。

 私はひっそりと、目立たず剣を振れれば、それで良かったんだから。

 そんなことするより、ドーズ先生が本気で戦ってくれれば良いのに……


 なんて考えていた、次の瞬間。



 ドオォン!!!



 続いて話そうとしていたドーズ先生の口を遮って、轟音が中庭に響き渡る。

 音の発生源は見るまでも無く、中庭の西側。平民の子達が魔法の測定をしている一角だ。


 ――嫌な予感しかしない……

 私は咄嗟に足場を展開して、空を跳んでそちらに向かう。ドーズ先生に呼び止められたような気もするがお構いなし。


 空から見ると、何が起きたか良く分かった。

 木でできた的は消し飛び、周囲の地面は大きく抉れ、周辺にはちらほらと魔法の炎が燃えている。


 その近くで右腕を振り、水魔法を放って消火するギルネリット先生の後ろ姿。

 そしてギルネリット先生の背後で、杖を両手で持ちながら尻餅をついてるピンク髪の女子。


 私はその女子の顔が見える場所に降りた。

 ……まあ、予想通りシウラディア様である。


「ル、ルナリア様……」

 未だに驚きが抜けないらしい、シウラディア様の声。

「これは、シウラディア様が?」

 そう尋ねると、シウラディア様は目の前の光景と私を一回、二回と交互に見てから、

「そう……なんですかね……?」

 と、呆然と聞き返してきた。


「間違いなく貴女の魔法によるものよ」

 そこで消火を終えたギルネリット先生が近づいてきた。

「貴女、本当に魔法は初めて? 間違いなく魔技80以上あるわ! 一度も鍛えないでこれなら、希代の天才よ!」

 セレン先生が初めて私の魔法を見た時のような、キラキラした目でギルネリット先生がシウラディア様に言う。


「……天才? 私が……?」

「間違いない。この学園でちゃんと基礎から学んでいけば、卒業までに……いや、二年生の後半には、世界有数の魔女になれるわ!」

 その言葉は、シウラディア様の死への片道切符に等しい。


 ――まずい……!

 なんとか割って入りたい。

 入りたいが……そのための理由や言葉が見つからない。


「本当、ですか……?」

 シウラディア様の、縋るような声。

 彼女の目は、ギルネリット先生に負けず劣らず、輝いていた。

 ――それだけで、止められない、と悟ってしまう。


「本当よ。これから一緒に頑張りましょうね」

 ギルネリット先生はそう言って、にっこりと微笑みかける。

「はい!」

 シウラディア様は満面の笑みで、大きな声で頷いた。

 それは、人生をどこか諦めていた少女が得た生きる希望だったのだと、横から見ていても分かってしまって。

 私はそれ以上なにも言えず、することもできなくなってしまった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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