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13歳―3―

「流石ですねルナリア嬢、立派なお考えです」

 低く通る軽涼なこの声は……

 振り返るまでもなく、ガウスト殿下が私たちの前の席にカバンを置いた。


「初対面でもうそこまで仲良くなられるとは、見ているこちらも癒やされる気持ちです」

 シウラディア様の口角を上げる私の左人差しを見て、ガウスト殿下は微笑んで見せた。

「お褒めにあずかり誠に光栄です、殿下」

 背筋を起こして、両手を太ももに置いて深く座礼する。


「で、ででで殿下!?」

 ――なんかキャラクター名みたいになっちゃった。

 殿下は小さく声を出して笑い、

「学園では地位など関係ない、と仰っていたではないですか。せっかく言いのけたのに、貴女がそのような態度を取ったら、そこのお嬢様にも信じて貰えなくなってしまいますよ」

 と、どこか楽しそうに言った。

 ぐうの音も出ない私。


 ――パラッシュ様じゃないけど、建前ってもんがあるのよ! あなたが分からないわけ無いくせに!

 最近分かってきたけど、そこそこ腹黒よね、この王太子様。


「初めまして、ガウスト・エル・オルトゥーラと申します。殿下などと呼ばれることも多いですが、ルナリア嬢が仰ったとおり、お好きにお呼びください」

 言って握手を求める殿下。

「は、初めまして、シウラディアと申します。お会いできて光栄です」

 二人の――近い将来夫婦となり、英雄となる二人の――初めての握手が、私の目の前で交わされた。

 ダン様や護衛の人達は、気が気でない様子で見てるけど。

「すごい、本物の王子様と握手しちゃった……。ありがとうございます、家宝にします」

「あはは、握手は家宝にするのは難しそうですし、他のモノにした方が良いですよ」


 ――うんうん、馴れ初めとしてはなかなか良い雰囲気じゃないかしら。

 前生の私というマイナス要素もないし。

 二人の未来に、幸の多からんことを願って……


「……ルナリア様、どうして拝んでらっしゃるんです?」

 シウラディア様がきょとんとして尋ねてきた。

「いえ、私の事はお気になさらず。お二人ともどうぞ、お話を続けてくださいませ」


   †


 正一年生の入学式兼進級式が終わったタイミングで、新入学生達の入学試験の結果が張り出された。

 そこで初めて、シウラディア様が実技で『手技』を選択していたことが判明する。


 ――そうか、今生では、そうなるのか……

 前生で彼女は『戦闘』の魔法を選択し、その才能をすでに披露していた。

 だが今生では、まだその魔法の才能が見つかっていないようだ。


 本人に聞いてみても「魔法ですか? 使ったことはもちろん、見たこともほとんどありませんね……」という返事が返ってくる。

 前生でロマが悪魔に乗っ取られた後に、聖教会は聖女候補の選定を始めたはず。シウラディア様の才能が見つかったのは、そのタイミングだったのだろう。

 そこから聖教会で魔法の勉強をしてからの入学だった、と考えるのが自然だ。


 そうなると、彼女から聖女候補という未来を奪った私がその役目を担わなければならない。

 というわけで、まずは現状確認のためにも彼女にアナライズをかけてみた。


=============

【シウラディア】

・HP 89/89

・MP 244/28470【状態異常:漏洩】

・持久 49

・膂力 24

・技術 39

・魔技 91(有効分)/4923(無効分)

・幸運 77


・右手装備 なし

・左手装備 なし

・防具   中央学園制服

・装飾1  なし

・装飾2  なし


・物理攻撃力 29

・物理防御力 248

・魔法攻撃力 139

・魔法防御力 266


・魔力神経強度 弱【状態異常:損傷】

・魔力神経負荷 --%(激しく明滅している)【状態異常:暴走】


人間。

出生時に悪魔の影響を強く受けた個体。魔法関係全般の機能に異常を来たしている。

MPの漏洩の解消と、無効分の魔技を有効化できれば絶大な魔法が放てると見込めるが、発動後は議論の余地無く死に至ると想定される。

=============


 ――なに、これ。

 情報が、上手く理解できない。


 MPどうなってるの?

 魔技も良く分かんないし。

 魔力神経が状態異常って、つまりどういう状態?

 それに最後の文章……


『絶大な魔法が放てると見込めるが、発動後は議論の余地無く死に至ると想定される』


 ――何言ってるの? だって、前生では……

 そこまで考えて、ふと思い至る。



 悪魔と戦った後、彼女の姿を誰か見た者は居ただろうか?



 その想像にいたって、背筋が粟立った。

 ――それじゃ、まさか、前生で覚醒以降のシウラディアは、全部虚構だったということ?


 聖女になった、というのも。

 ガウスト殿下と結婚した、というのも。

 彼女が私を訴えた、というのも。

 全部ぜんぶ嘘っぱちで。

 私が死刑になる頃には、とっくの昔に命を亡くしていた、ということなのか。

 ――他全員の命を蘇らせて、国も救って、貴女だけ死んでしまった、ということなの……?


「……ルナリア様?」

 急に一言も話さなくなった私に、シウラディア様が心配そうに覗き込んでくる。

 体の芯から、無数の感情が込み上げてきた。

「あなたは、どうして……」

 どうして、そこまでできたの……?

 全部理解していて、あなたはその力を解放したの?

 真実は分からないけれど、そりゃあ英雄と讃えられるわけだ。


「ルナリア様、大丈夫ですか……?」

 オロオロとシウラディア様が私の前でオドオドし始める。

 その様が本当にハムスターみたいで、思わず笑いが込み上げてきてしまった。


「あなたは、本当に優しい子ね……」 

「え? 私がですか?」

「謝っても、謝りきれない。あなたを尊敬します」

「???」

「……今度は、私があなたを助けるから」

 口の中だけで言って、私は一つ、強く拳を握りしめた。


   †


 さて。そうなってくると色々と前提が崩れる。

 彼女の魔法の才能を伸ばす、というのはダメだ。


 おそらく聖教会の鑑定にかかれば見抜かれてしまう。そして、聖教会は『MPの漏洩の解消と、無効分の魔技を有効化』できる手段を持っていたのだろう。

 前生と今生では身につけている物も違い、前生では装飾品をたくさん付けていた。聖教会の庇護下にあることを誇示するためだと思っていたけれど……あれは魔道具だったのかもしれない。


 だが逆を言えば、一般的な鑑定では見抜けないだろう。

 ならば、とにかく聖教会や王宮など、高度な鑑定が使える組織と接触させてはいけない。今本人も周囲も思っている『平凡な平民』としてのシウラディア様のままで居て貰うべきだ。


 ――力が知られれば、利用する者が現れる。

 死んでなお、政治の道具にした聖教会と王宮しかり。


 だがそうなると、悪魔襲撃は私とロマでなんとか死者0に抑えなければならない、ということになる。

 ――そんなこと、本当に可能なの……?

 絶望感がすごい。


 ……でも。

 シウラディア様の命を犠牲にするのも、言語道断だ。

 ――やってるわよ。

 一人、ガンガルフォンを握って、誓う。


 私を誰だと思ってるの。

 欲しいものは全部手に入れるでおなじみの、ルナリアよ!

 ……なんか怪盗のキャッチフレーズみたいになっちゃったけど。



 

 それ以外にも、気になることはある。

 殿下とシウラディア様の結婚、という虚報は、果たしてどういう理由によるものなのか。


 私が知る限り生前から好き合っていたようだし、結婚ということにしたのは、その遺志を継いだのだとは思う。それなら、全然良い。

 けれど、殿下は以前、私にプロポーズしたときに言った。

『この国のため』と。


 であるならば、結婚という虚報は『この国のため』ではなかっただろうか?

 もし、あの状況でシウラディア様が「死んだ」と正直に発表したら、国民の絶望は計り知れない。


 悪魔の攻勢で疲弊したところに他国が攻めてくるかもしれない。

 蘇生の奇跡は健在だと内外に報道することこそが、『この国のため』だったとしたら……。

 もしそうなら、今生の二人が男女の関係になるか分からなくなってくる。おっぱい好きだと思ってたのも、単に男の子の本能に抗えなかっただけだったかもしれない。


 ――とはいえ、真相はもう分かるはずも無いんだけど。

 ……前生では想い合っていた二人は死後婚姻し、今生では生きて式を挙げる……

 そんな恋物語であることを、願うばかりである。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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