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12歳―41―

 そのまま昼食を摂り、食休みを経て、私は運動着に着替えて中庭に出る。ショコラもいつものツーピースだ。

 セレン先生とパルアスを呼び出して、対面する。


「「お帰りなさいませ、ルナリア様」」

「二人とも久しぶり!」

 手を挙げて振って見せる。


「ルナリア様、本当に模擬戦するんですか?」

 セレン先生がおずおずといった形で聞いてきた。

「今日くらいは帰路の疲れを取るのに使った方がよろしいかと存じますが」

 パルアスもそれに続く。


「別に二時間馬車に乗っただけで疲れないわよ。それよりパルアスこそ、この五ヶ月勉強ばっかりで鈍ってないでしょうね?」

「……そう言われないよう、鍛錬も怠らずにきたつもりです」

「よろしい、ならば闘争だ!」

 鞘を付けたままのガンガルフォンを構える。

 パルアスとセレン先生はお互いに見合い、苦笑いで再び私に向き直った。


   †


 その後は五ヶ月前と同じように、レナとショコラとお風呂へ。

 お互いの髪と体を洗い合い、湯船に入る。


「はあ~~~♪」

 皆と入る大浴場も良いし、一人か少数で入る小さなバスタブも良いけど、この三人で入るトルスギット家のお風呂は格別だ。


「お姉様、お膝の上よろしいですか?」

 入るや否や私に近づいて、レナがおねだりしてきた。

「もちろん、当たり前でしょ」

 五ヶ月ぶりにレナと肌を合わせる。


「本物のお姉様だ……」

 私に背中を預けてレナが呟いた。

 後ろからぎゅーっ、とレナを抱きしめる。


「ホント仲いいな、お前ら」

 ショコラが言いながら対面に入った。


「本当に懐かしいね」

「懐かしすぎて、ちょっと泣いちゃいそうです」

 レナが僅かに声を震わせる。


「今月はずっと一緒に居ようね」

「はい」

 一通りいちゃいちゃする。


「レナはこの五ヶ月どうだったんだ? 勉強だとかマナーとかやってたんだろうけど」

 一方ショコラは広々と腕を広げて足を伸ばし、脱力してお湯に浸かりながら私たちを見渡していた。


「はい、貴族教育はもちろん。治癒魔法も少しずつ覚えてきました」

「セレン先生からも聞いたけど、順調みたいね」

 さっき世間話をしていたとき、『やっと普通の貴族令嬢に教えられるようになりました』なんて冗談めかして言っていた。失礼しちゃう。


「あと、手技も初めまして」

「手技? 編み物とか?」

「編み物もなんですけど、生地から服を作れるようになりたいと思ってます」

「なんでまた?」

 そこで一瞬レナは言葉を止めて、ちらりと私を横目で見る。可愛い。


「……半年前、お姉様から指輪をいただいたのが、私、本当に嬉しくて。なにかお返しできないか、と考えたんです。それで、結婚といえば、ウェディングドレスだろう、と」

「ウェディングドレス作るの!?」

「ゆくゆくは。それを着て、その……結婚式とかできたらいいな、なんて考えてます」

「すごい! えらい! かしこい!」

 感動してレナを抱きしめる。


「お、お姉様、苦しいです……、あと甘やかしすぎです」

「いやだって! 指輪からドレスっていう発想が天才よ!」

「いえ、正直、普通かと……」

「俺もそう思うぞ。自分で考えて行動に移したのは良いことだけど」

「レナが私のためになにかしようとしてくれるだけで、嬉しいのよ」

 ――まあ、レナもショコラも今が当たり前と思ってるから、共感されなくても仕方ないけどさ。


「ああ、今から式が楽しみだわ」

「でも、だとすると、どっちかは男装するのか? そっちの服もレナが作る?」

「それはちょっとまだ悩んでて。でも、二人ともドレスを着た結婚式もいいかな、とも思ってます」

「まあ、確かに。どっちも男装似合わなそうだしな」

「大々的にできるものでもありませんし、好きにしちゃっていいかなって」

「ドレス作りかあ……、頑張ってね」

「まだまだ先になると思いますが、頑張ります!」

 両拳を握るレナ。


 ――私は世界で一番幸せなお姉ちゃんね。


   †


 夕飯後、レナの寝室で三人で川の字になってベッドに入る。

 ベッドに入るや否や、レナは私とショコラを両腕で抱き寄せてきた。


「えへへ」

 幸せそうに笑うレナ。

「ベッドに入ってすぐ暖かいのが、夢みたいです」

 レナの言葉に、私とショコラは視線を交わす。どちらからともなく、自然と私たちも笑みが零れた。


 ――きっとこの五ヶ月、寂しかったんだろうな。

 私もレナと、その向こう側のショコラを抱き寄せる。


「……ごめんね」

 レナを見下ろして、心から謝った。

 レナは不思議そうに私を見上げる。


「『私が居ないと安眠できない子になって』なんて言っちゃって、ごめんなさい。今冷静に思い返しても、やっぱり酷いわね」

 私にはショコラがずっと居たし、それに加えてロマともベッドを共にする仲になった。


 一方レナはずっと、一人きりの夜を過ごしてきたわけで。

 残酷だったと、思うのだ。

 シン、と静まる寝室。


「……確かに、最初は寂しいだけでした」

 レナがゆっくりと、語り出した。

「でも段々、分かってきたんです。一人の夜を過ごす意味。

 お母様やお姉様と一緒に寝ていた頃は、ただ何も考えず、幸せに眠るだけでした。けど、一人になると、色々なことを考えるようになったんです。その時間が必要なものだから、貴族はすぐに子供を一人で寝かせるんだろうな、って気付いたんです」


 一人で寝るようになると、寝付くまでの間が考え事をする時間になるのは確かだろう。年齢が上がったのもあると思うけど。


「ただ、私は七歳じゃそんなの無理で、ただ寂しくて辛いだけで……。十歳になった今こそ、必要な時間なんだ、って思えるんです。だから、全然、お姉様がご自分を責める必要なんてありません」

「すごい! かしこい! やさしい! かわいい!」

 感動して、レナをまた抱きしめた。


「お姉様、語彙が……」

「本当に、半年見ない間にすっごく成長したね。……このままなら、私なんてすぐに要らなくなっちゃいそう」

「そんなわけありません! 今日お姉様と会えると分かってたから、なんとか生きて来れたんですから! 要らなくなるなんて、言わないでください……」

「レナ……」

「だって、私たち、結婚したじゃないですか。お姉様が居るうちは、めいっぱい甘えさせてください」

 上目遣いで私を見て、レナは私に身を寄せる。


「……そうね、分かったわ。イヤってくらい可愛がるから覚悟しといてね」

「イヤになるなんてあり得ないです」

 くすくすと笑い合う私たち。

 ショコラは黙って、そんなレナの頭を優しく撫でていた。

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