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12歳―40―

 殿下との話からさらに一ヶ月。一学期の長期休暇が始まった。


 初日、聖教区からトルスギット家に帰省する。

 馬車を降りて、視界一面に屋敷が広がってきた。


「うわあ、懐かしい……」

 空気の匂いから景色まで含めて、思わずそんな声が漏れる。

 ホームシックの自覚なんて微塵もなかったけど、こうして直接見てみると『家』って私の中で凄く大切なものだったんだな、と痛感する。


 門まで進む。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 門番をしていた剣兵隊長が近づいて、頭を下げた。


「ただいま。……って、なぜ隊長自ら門番やってるんですか。まさか、無理言って今日の門番代わったりしてないでしょうね?」

「無理も言います。他の若造に出迎えさせるのは悔しいですから」

「何言ってるんですか。これから何回もあるんですよ? そのたび隊長自ら門番なんて、お父様に怒られます」

「ははは、返す言葉もありません。私が出迎えなくなったら、旦那様の雷が落ちたと思ってください」

 そんなやりとりをしながら、隊長は門を開く。


「さあお嬢様、私などより早くご家族に顔をお見せしてあげてくださいませ」

「ありがとう。またあとでお話ししましょうね」

「一ヶ月ございますから、お暇なときにお付き合いさせていただければと存じます」

 剣兵隊長に見送られて門を潜る。




 屋敷の前庭を抜ける。

 正面玄関のピロティ前にパルアスの巨躯が見える。その足下にお父様とお母様、それにレナが待っていた。他にもイズファンさんや彼の弟子の青年、フランやセレン先生、執事長と侍女長までが勢揃いだ。


「皆暇なんだから……」

 そんな光景を見て、私は呆れて呟く。


「お姉様ー!」

 真っ先に私に気付いたレナが右手を振って、走り出してきた。


 レナは相変わらず可愛らしさと美しさを黄金比で兼ね備えた、その内面がにじみ出たように可憐で(つや)やかで、けれど元気さも併せ持つ、まさに神が作りたもうた美少女のままだった。


「レナ!」

 私も駆け寄って、二人で抱き合う。

「お帰りなさい、お姉様!」

 レナが満面の笑みで私の胸の中で見上げた。

「ただいま、お出迎えありがとう」

 お互いに腕の力を強めて、双方の体温を浸透させ合う。


 そこにお父様とお母様、皆が近づいてきた。

「おかえりルナ」

 母が微笑んで言う。

「ほらレナ、こんなところでルナを立たせちゃ可哀想よ。中に入りましょう」

 言いながら母がレナを私からやんわり離そうとする。


 母の手から逃すよう、レナを抱き上げた。

「わっ!」

 少しだけ補助魔法を使って、レナをお姫様抱っこする。

「お母様、私からレナを奪おうなんて許しませんよ」

「全く、変わらないわねあなたは」

 お母様は呆れたように頬に手を当てた。


「行きましょう、皆さん」

 レナを抱えたまま私は玄関に向かって歩き出す。


「ルナ」

 お父様が私の横を歩きながら声をかけた。

「少し休んだらラウンジで話させてくれ」

「別に休まなくても大丈夫ですよ」

「そうか、なら準備が出たら来なさい」


 ――何言われるんだろう。

 どっちにしても最初はお父様中心に話すことになると思ってたけど、わざわざ声をかけられるのが不穏だ。


   †


 ラウンジに家族四人が座る。お父様が正面、お母様がその隣、レナが私の横。


「単刀直入に言おう」

 その出だしだけで、お父様が家族団欒したいんじゃないと分かる。

「ここ数ヶ月、全く縁もなかった貴族や聖教会からの接触が凄い」


「接触? 手紙とかですか?」

「大概手紙から始まって、直接会いたいって話になる。こっちもやりくり大変だ」

「どんな用件なんです?」

「全部礼だ。やりとりした限り裏はなさそうではあるが……この五ヶ月いったい何してきたんだお前」


 ――なるほど、お風呂会の皆やロマから話が伝わって大人が動いたんだろう。

 曲がりなりにも公爵の娘だし、挨拶しないわけにいかなかったと思われる。


「そうですね、最初は……」


 私はかいつまんでここ五ヶ月にあったことを話した。

 ただしギリカを斬り刻んだこととか、極聖剣のこととか、悪魔を倒したこととか、殿下をフッたこことか、面倒になりそうなことは隠しながら。

 …………

 ……


   †


 お父様は後半、前のめりに眉間を抑えて私の話を聞いていた。

 お母様も、エルザとショコラ以外の使用人達も、驚くを通り越して引いてるようにすら感じる。


「……私、マズいことやっちゃいました?」

 ロマと仲良くなったところで、私は一旦話を止めてそう尋ねた。


「……別にマズくはない。マズくはないが……なんというか、言葉が出ん」

「聖教会と関係を持ったのはダメでしたか?」

 お父様は渋い顔のまま頭を上げる。


「そういうんじゃない。確かに王宮と聖教会の主導権争いは絶えんが、表向きは協力関係だ。実際聖教会に勤める貴族だって居る。未来の王妃と聖女が友人となって、良いことはあれど悪いことなど無かろう」

「あ、あはは……」

 未来の王妃、という言葉に今度はこっちのバツが悪くなる。


「これまで聖教会とつながりを持った公爵家はない。が、そこは大した問題じゃない。

 ただ、もしお前の力に目を付けた聖教会の企みだったとしたら……」

「それはありえません」

「……だろうな。どっちかというとこっちが謝らねばならん立場ですらある」

「それも違うと思います。先に騙したのは向こうなので」

「……いやまあ、それで双方納得してるならそれでいい。……良い友人ができたな」

「はい!」

 お父様の表情が緩む。


「ならば良し。お前が幸せに学園生活を送れているのであれば、それがなによりだ」


 ――瞬間、フラッシュバックするのは、前生の牢屋の前で泣き崩れる父。

 ギリカにも言ったとおり、わかり合うのはとても大切だと改めて思った。


「ところで、殿下との件はなにか聞いていたりしますか?」

 さっき貴族と聖教会しか話に出なかったから、そこが気になる。


「殿下? 特になにも聞いてないが、進展などあったのか?」

 盛大にヤブヘビだった。口は災いの元。


「……いえ、殿下が黙る選択をなされたのでしたら、私も口を噤ませていただきます」

「ふむ。なにかあったのか。まあ、二人だけの秘密ができただけ良いこと、と考えておこう」

「あはは……」

 ――ごめんなさい、お父様……!

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