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12歳―30―

 そこでお茶に口を付け、お菓子も一口いただく。

 案の定エルザのよりは劣るけど、まあ悪くない。


「しっかし、準一年に現実を教えるハズが、教えられるハメになるとはな」

「あれはついカッとなっちゃって……。昔から好きじゃないの。上から力で押さえつけられるのが」

「考えてみれば確かに、お主の言うとおり騙してるわけだしのう。不愉快にさせたこと、誠に相済まぬ」

 足組みを解いて、ロマが両手を膝に付けて頭を下げた。


「別に、今はもうそんなに気にしてないよ。昨日ボコボコにしてちょっとスッキリしたし」

「脳の構造が蛮族のそれじゃな……」

「危機感を持たせるために本当の危機を味わわせる、ってのも、相当脳筋だと思うけど?」

「似たもの同士ということか」

「そういうことね」

 どちらからともなく、クスクスと小さく声を出して笑い合う。


「まあ三年も続けてれば、薄々感づいてはいたのよ。騙して理不尽な戦いを強いても、実力にはあまり繋がらないのではないか、と」

「あー、まあ、全員に有効とはいかないかもね。でも、ロマがあれだけ強くなったのは、理不尽な戦いに臨み続けたからでしょう? 間違いという事も無いと思うけど」

「そう言うてくれるのは嬉しいが……、そもそも戦いを学びに来たんじゃない者もおるからな」

「それはそうね。私もゼルカ様があの場にいなかったら、もうちょっと大人になれたかも」

 ――まあ、なれても本当にちょっとだけだっただろうけど。


「正直を言うと、きっとムカついとったんじゃろうなあ」

 どこか遠くを見るように、ロマが呟く。

「……なにに?」

「なあにがダンジョン演習だ! なあにがチームじゃ! こちとら六歳から一人で最前線で命張ってるんじゃボケナス!」

 ロマが目を見開いて叫んだ。

 びくっ、とプリーストたちやエルザが驚く。


「……とな」

 ロマは元通りに戻って、また足を組み、腕を組む。

「実力が近いクラスメイトと切磋琢磨して、徐々にレベルを上げて実力をつけていく……。そんなもんは幻想だ、と本心では思っておる。その自覚はある。ワシが強くなる瞬間は、いつだって死ぬかもしれない危機を乗り越えた時だけだった」

「……うん。分かるよ」

 私の場合は、すでに死んだ後だったけど。


「友と一緒に強くなるとか、安全な環境で強くなるとか、軟弱だ、惰弱だと、思ってしまうんじゃよ」

 ――そこだけは、ちょっと違うな。

 私はショコラが居なかったら、ここまで強くなれなかったから。


 創造神から貰った才能と、天女から貰った加護。十二歳と、十四歳。この条件下で私が勝ったのは、もしかしたらそこの違いなのかもしれない。


「じゃあ、これからはもうそんなこと言えなくなるね」

 私は真っ直ぐにロマを見た。

「……ん?」

 不思議そうに私の目を見返すロマ。


「だって、一緒に少しずつ強くなる友達が、できたでしょう?」

「……どういう意味じゃ?」

「昔から魔法戦の訓練相手が欲しかったんだけど。なかなか良い相手が居なくて。これからは一緒に訓練しない?」


 ロマは黙って私を見る。

 プリーストの三人の視線も感じた。


「私の手の内を知れるんだから、大人達も許可せざるを得ないはずよ。私たちの友情の正体が牽制と利害関係なら、とことん突き詰めましょうよ」

 言って、右手を差し出す。


「できれば将来、一緒にお風呂入ってくれたら嬉しいわ」

 暗殺を警戒せざるを得ない彼女と、そんな日が来たら素晴らしい。そう思う。


 ロマはしばらく呆然とした様子で。

 その後、小さく口元を緩める。

「誰かと風呂か。考えたこともなかったわい」

 ロマが右手を出して、私の手を握る。


「その時を楽しみにしておこう」

「お世辞じゃ済ませてあげないから。覚悟しておいてね」


 手を離すと、ロマの表情がどこか穏やかになったような気がした。

 別に剣呑とは感じてなかったけど、今となってはどこか強張(こわば)っていたのかな、と思う。


「……これが友情か。なかなか、悪くない」

 目を細めて、なにか可笑しい事でもあったように微笑んでいた。


 その笑顔を見て、決めた。


 ――絶対、死なせない。


 レナの時と同じ。前生と同じ未来は、迎えさせてあげない。

「……ところで、最近体調が悪くなったりしたことない?」

 ということで、ジャブを入れるように探りを入れてみた。


「体調? 別に、すこぶる健康よ」

「そういえば、昨日胸元に傷跡が見えたけど」

「ああ、あれは七歳の頃じゃったか。まだ極聖魔法がなじまぬ頃に、一体の悪魔に付けられた。今なら指一本、魔法の切れ端すら食らわず倒せる程度のザコだったんじゃがのう。ワシの聖女人生唯一の汚点よ」

「そーいえば、さっきも六歳で前線、って言ってたわねー」

 棒読みにならないよう、努めて意識する。


「なんか急にギクシャクしとらんか?」

「そ、そんなことないわよ……」

「……ふむ、そうか」

 ――ロマの勘が良いのか、私の演技が単に下手なのか……


「一応聖女に任命されたのは六歳の頃じゃった。天女も驚いたらしい。なもんだから、昨日まで自分は天才と思っておったんじゃがな」

「いや、天才には変わらないでしょ。それ以上が目の前に居ただけで」

「その通りだから、いちいち言わんで良いわ」

 つまらなそうにロマが吐き捨てる。


「聖女って、そんな年齢でなれるんだね。知らなかった」

「まあ、ワシは少々特殊かもしれん。古竜に育てられた(ゆえ)

「古竜? 太古の時代から生きてる、人語を操るっていう?」

 エンシェントドラゴンとも呼ばれる、希少種である。確か、今は世界に十体も生存していないはず。


「ワシの育ての親は、『博智の古竜』と呼ばれている個体での。この喋り方も親譲りじゃ」

 それから、ロマは自身の身の上を訥々と語ってくれた。




 博智の古竜は聖教区の外れにある霊峰を寝床にしている。ある朝、そこに生後間もないロマが捨てられていた。


 古竜は、自分の姿を見たら泣き出すだろうと思い離れようとした。だが、古竜が身動きする音で目覚めたロマは、古竜を見て笑ったらしい。

 古竜は「これも縁だし、面白そうだ」と、ロマを育てるようになる。


 一体誰が、なぜわざわざ登山しそこに子供を捨てたのかは、今でも不明だ。聖教会の中には、空から舞い降りた天の子なのではないか、と信じる者も居る。そんなわけない、とロマは一笑に付していたけれど。


 毎年、親交や情報交換のために聖教会の職員が古竜の元に訪れることになっているが、その年の訪問でそれはそれは驚いていたという。去年まで居なかったのに、いきなり人間の幼児が古竜のそばに居たのだから。


 そこから、聖教会と古竜の共同で育成体制が始まった。

 当時の聖女からも、ロマは面倒を良く見て貰ったという。


 ロマには異常な点があった。当時の知識では、古竜が存在しているだけで放つ強大な魔力に、普通の人は長時間居られなかったのだ。

 だが、ロマは平気な顔をして古竜のそばで遊んでいる。


 人間の魔力耐性は、幼児期の環境に大きく作用することが判明した、歴史的な瞬間だったのだ。

 魔力神経の強度はおよそ人間の平均からかけ離れ、まさに古竜と同等の強靱さを持っているし、そんじょそこらの魔法では防御しなくても傷一つ負わない。私のガンガルフォンでも聖衣しか斬れなかったのは、幼児期から古竜の魔力を数年間浴び続けていたからだ。


 だが、古竜のそばで居続けられる人間なんて早々いない。結局今でもロマ以外のサンプルが無いため、その情報は公にされていないそうだ。

 博智の古竜も「うっかり踏み潰しそうで怖い、二人目はもういい」と言っていることもあり、まさにロマは唯一無二となった。


 その後、五歳時点ですでに簡単な論理思考もでき、言葉も流暢に話すことができるようになる。これも古竜の影響なのか、ロマ個人の才能によるものなのかは、やはり不明である。他に同じ環境で育った人間が出てこない限り、不明なままだろう。


 六歳になり、先代の聖女が崩御。彼女に懐いてたロマは、「自分が後を継ぐ」と名乗り出る。

 素養は申し分ないものの、年齢から反対もあった。だが、ロマは自ら有用性を示し、そんな声を封殺した。


 その後、人里に降りて初めて見た蜘蛛を「かっこいい!」と気に入り、聖光八足を発想する。極聖の指輪の力を持って生み出した、最初の極聖魔法だった。


 今でも好きな生き物一位はダントツで蜘蛛だと言う。多くの人が蜘蛛を嫌悪する理由が良く分からないロマである。


 博智の古竜になぞらえて『博智の蜘蛛』と名乗り、その極聖魔法にも『聖光八足』という名を付けるが、「流石に聖教会のイメージがありますので……」と、公には『聖光八翼』ということにさせられた。


「あの時、『蜘蛛を名乗らせないなら聖女やめてやる』くらい言っとけば良かったわい」

 なんて、本気なのか冗談なのか良く分からない顔でロマは言った。

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