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46/105

12歳―28―

「肝が冷えるとはこのことか……。いやはや、末恐ろしい……」

 言いつつ、ボス少女は私から距離を取る。


「じゃが、魔力神経がもう真っ赤に焼け爛れておるぞ。もう限界近かろう。よもや1000%なぞ本気で至るつもりあるまい? このままなら最後に勝つのはワシの方よ」

「へえ。新入生を騙した上、余裕綽々で奥の手を出しておいて、ちょっとピンチになったら持久戦ですか。ずいぶんお可愛いじゃありませんか。ねえ、センパイ?」

「ぐうぅ……小生意気な……」

「挑発に乗っちゃダメよ。持久戦でどうぞ。そんな目論見(もくろみ)も全部斬り捨てて、絶望させてあげるから」

「……なんかお主の方が悪役みたいなこと言っとらんか……?」

「大昔から、私はこういう人間なので。反省したと思ってたけど、素はそうそう変わらないみたい」

 ――思えば、パルアスも私の本性言い当ててたっけ。屋敷に来た初日に見せちゃったせいだけど。


 私は再び、空を駆ける。

 ボス少女は右手を真上に掲げた。最初にゼルカ様に向けて打った魔法だろう。


「足を斬りたきゃくれてやろう! その隙に吹っ飛ばしてくれる!」

 流石、もう切り替えている。

 ただ、ついさっき『このままなら』と言っていたのと矛盾してる辺り、まだまだ心の弱さが垣間見えるけど。


 上から私を串刺しにするように振り下ろされた光足に、体幹を捩って回避。そのまま関節を斬り落とす。

「三つ……」

 瞬間、目の前で光球が爆ぜた。爆心地から足ごと巻き込んで光の渦が広がっていく。


 私が足を切りつけた瞬間にボス少女が投げつけてきたのだろう。

 護法剣で身を守る。


「そこじゃ!」

 うねるように伸びた光足が、背後に迫っていた。

 気づいたときにはすでに手遅れ。強烈に私の背中が打ち付けられる。


 きりもみしながら石床にぶつかり、ゴロゴロと地面を転がる。壁にぶつかって、私の体は止まった。

 少し目が回り、背中もちょっと痛いけれど、パルアスに吹っ飛ばされた時よりは痛くない。あの時より私の補助魔法も進歩したということか。


 ガンガルフォンを杖代わりに、ゆっくり起き上がりながら、

「……四つ」

 私の背中を叩いた光足が、地面に落ちて突き刺さった。

 

=============

・右手装備 ガンガルフォン+43

=============


 再び150までエンチャント。

 魔力神経の負荷は85%に至る。


 見上げると、ワンピースがはためいて細い薄桃色の太ももが盛大に見えた。そんな事にも気づいてなさそうなボス少女が、私の事を悔しそうに睨んでいる。


「どこまで読まれてるんじゃ……。このワシがまるで掌の上とは……」

「読み半分、反射半分よ。読みを外したからって戸惑ってたら、ボコボコにされるだけだもん」


 ショコラを相手してたら、そもそも読みなんてほぼ通らないと言って過言では無い。駆け引きの経験も次元も彼女の方が桁違いなんだから。

 今も光足を囮に光魔法をぶつけ、それすら囮に別の光足が背中を狙ってることは読めなかったから、地面を転がされる結果となった。


 大事なのは読み負けたことは即認め、即次適解を仮定し、即実行に移すこと。即興だから往々に失敗するけれど、そのトライアンドエラーの積み重ねが次の即興を成功させる元になる。

「それが楽しいから、小さい頃から剣が好きだったの」


 何度目になるか分からない、魔力足場を走って跳ぶ。


「残り四本か。半分もあれば上等よ!」

 ボス少女が両手で光の粒をまき散らす。

「お主が全部斬り落とすのが先か、その前に体が限界を迎えるのが先か、勝負じゃ!」


 ――まあ、勝負は勝負よね。

 ただ、勝負どころはそこじゃないんだけど。


 光の粒が襲いかかってきて、次々爆ぜる。

 護法剣を盾に強行。目くらましの爆発に紛れて四本の爪が私に肉薄する。


 ただそれは、歯抜けの四本。

 波状攻撃はすでに成り立たず、隙間だらけ。

 八本が四本というと、数字の上では半分だが、戦力で言えば50%減では済まない。


 軍や騎士団では、二割の兵士が戦闘不能になることを『全滅』と定義している。それと同じ理屈である。

 二本斬られた時点で、とっくに全滅以下の崩壊状態だ。


 私の魔力神経負荷なんて比では無いくらい、ボス少女はとっくに追い詰められていることに気づいていない。

 襲いかかってくる光足を悠々と捌く。もちろん、もう足破壊は狙わず、真っ直ぐにボス少女の元へ向かう。


「こやつ……!」

 目の前で簡単に突破されて、ボス少女も気づいたらしい。

「なんで足を斬ってたか考えなきゃ。貴女に近づくのに邪魔だったから、どかしただけ」


「ちぃっ!」

 両掌を私に向けて広げてくる。

 光の花弁のような盾が展開されたけれど……


「まあ、貴女なら死なないでしょ。タリスマンもまだ生きてるみたいだし」 

「ぬわあああああああああああ!」

 右腕一本でガンガルフォンを振り下ろし、盾ごとボス少女を斬り裂いた。


   †


 ボス少女が石床に叩き付けられる。光足がクッション代わりになってから、ゆっくりと消えた。砕けた石床の上に大の字で横たわる。


 私は足場を階段状に生成して、ピョンピョンと跳び降りた。

 ゼルカ様や殿下たちの方を見ると、壁際で三人で身を寄せ合っている。怪我などもないようだ。


 石床に降りる。警戒しつつボス少女に歩み寄る。

 よろよろと立ち上がるボス少女。


「いやはや、参った。降参じゃ」

 両手を挙げて見せてくる。……ワンピースの襟からおへそ辺りまで縦にパックリ斬られたにもかかわらず。

 ギリギリ致命的なところは見えてないけど、動いたら簡単に見えちゃいそうだ。


「ちょっ……、殿下、ダン様、こっち見ちゃダメです!」

 慌てて男性陣に叫んだ。

 彼らも状況を理解してくれたようで、目を逸らしてくれる。


「別にそんな大層なもん付いとらん。気にせんでええ」

「私よりは大層だから。貴女は気にしなさい」

 私の目を見ていたボス少女の視線が、幾分か下がった。


「……ふむ。なるほど、確かに」

「やかましいわよ」

 私より僅かに大きい二つのふくらみ。その間、胸の中心には、大きな杭でも突き立てられたような痛ましい古傷が見えた。


「お主、一体何者じゃ? 強いとかいう次元じゃないぞ」

 ボス少女が再び私の目を見る。


「尋ねる前に、まずそっちから名乗るべきじゃない?」

「ワシはロマ・ラダゴリカ。二年生じゃ。鑑定してくれても構わん。聖衣を破られた今、抵抗する術もないからの」

 お言葉に甘えてアナライズしてみる。


=============

【ロマ・ラダゴリカ】

・HP 103/103

・MP 13692/20898

・持久 55

・膂力 25

・技術 44

・魔技 856

・幸運 1096


・右手装備 極聖の指輪

・左手装備 極聖の指輪

・防具   天の聖衣(全壊)

・装飾1  なし

・装飾2  なし


・物理攻撃力 29

・物理防御力 9

・魔法攻撃力 1411

・魔法防御力 3018


人間。196代聖女。

6才で聖女に就任して以降、オリジナルの極聖魔法を多く開発。

近、中距離戦における攻守の要である『聖光八足』が象徴的で、悪魔討伐数は近年の聖女の中でも図抜けて多い。

ひとえに悪魔討伐に特化し、戦う距離を選ばず、地上・空中戦も得手としている。

聖教会への布施額が年々増加しているのは、彼女の存在に寄るところが大きいと分析する者も多い。

============= 


 ――聖女……?

 あまりにびっくりして、思わず声が出そうだった。


 聖女とは、天女――天界に住む創造神の従者たち――に認められた人間の女の事だ。

 天女から極聖の指輪を伝授され、突発的に湧き出す悪魔を討伐する任務を課せられる。


 社会的地位は王族と同等に扱われ、悪魔から人を守る職務上、人気も高い。

 前生のシウラディアなんか、もはや全国民が熱狂して信奉していた。


「……極聖の指輪って……」

 なんとか説明文には触れず、装備の方を口に出せた。


「いかにも。聖女に任命された時に天女から賜った、神聖魔法を極聖魔法に引き上げる装備じゃ」

 そんな説明に、再びボス少女……ロマに意識を戻す。


「……なんで、こんなところに……?」

「三年前か。学園の教師に相談されての。ダンジョン演習に誰も危機意識がなく形骸化しているため、どうしたらいいか、と」


 確かに、この部屋に入った最初の方に言っていた。「『授業だしとりあえず入るか』と安易に踏み入れたのなら、見当違いじゃ」と。


「んなもん、実際に危険な状態に置いて、予想外のボスでも置けば良かろう、と答えた。フリップフロップは安全で便利じゃが、そのせいで危機感が湧かん。今頃、主らの同級生は皆、二年生や三年生のボスに死なない程度に痛めつけられておるじゃろう」

 教師とグル、と言ったけれど、生徒であるロマからの発案だったということか……。


「……さて。そっちのことも(ようよ)う聞かせて欲しいが、こんなところで立ち話もなんじゃ。教師たちも待っておるだろうし、一旦お開きとするか」

 ロマがこちらに近づいてくる。

「お主、名は?」

「……ルナリア。ルナリア・ゼー・トルスギット」

「トルスギット……確か公爵家だったか」

「ええ」

「ルナリア。また今度、茶でも飲み交わしながら聞かせておくれ」

 フリップフロップのタリスマンが光り出した。ロマが結界を解いたのだろう。


「今回をクリアと認めるかどうかは教師の仕事じゃが、まあ多分ダメじゃろう。次回は普通のボスが置かれるだろうから、その時また頑張れ。ではな」

 目の前からロマの姿が掻き消えて、次の瞬間、私たち四人は洞窟の入り口、裏山の広場に立っていた。


   †


 それからの記憶は、非常に曖昧だった。

 ギルネリット先生がなにやら色々声をかけてきた気もするし、殿下やダン様、ゼルカ様たちも言ってきた気もする。

 けれどその間、私はずっと、考え事をしていた。


 ――前生の記憶が確かなら、今の聖女は準一年生の半ばに亡くなっていたはずだ。


 亡くなったからこそ、シウラディアが翌年、次期聖女候補として入学してくるのだから。

 聖女の情報はあまり公表されない。年齢も死因も不明だったから、前生ではてっきり『老いによる寿命かな?』とか思っていた。


 だが、実際は私と同世代で、元気すぎるくらい元気な少女だ。

 今から三ヶ月前後で亡くなると考えると、病気ならこんなところで下級生をイジメている場合ではないはず……。急病という可能性もあるにはあるけれど。


 だから私はどうしても、自然死ではない死因が脳裏をよぎる。

 つまり、何者かに殺されるのではないか、と――

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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