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45/105

12歳―27―

 同時に私は走り出す。

 魔力剣たちは各々自身で判断し、その光線を防ぎ、弾き、正面から斬りながら、私が走り抜ける道を作り出した。五十の無手の剣士を引き連れているに等しいと言えるだろう。


「まさか全部が自律型なのか!? どんだけ化け物じゃ……」

「女の子相手に化け物とか言うな! そっちも大差ないくせに!」

「冗談はよせ、才能では足下にも及ばんよ」


 光線を掻い潜った後、光球群は直接私に襲いかかってくる。

 それを振り払おうとガンガルフォンを振るうと、次々と爆発し始めた。


「くっ!」

 とっさにガンガルフォンを盾代わりに構えるが、耐えきれず再び吹き飛ばされた。

 地面に二回、三回と転がされた後、その勢いで膝立ちになる。

 制服の端々が焦げていた。


「ただし現時点の実力は、ワシの方が若干上かのう?」

 ボス少女が再び浮き上がる。


=============

・右手装備 ガンガルフォン+23

=============


 今の爆発でエンチャントの半数吹き飛ばされた。小さいくせに恐ろしい光球群だ。


 ボス少女は5メートルほどの高さに留まると、その場で膝を抱えて丸くなった。ほとんどお尻まで露わになる。

 その全身に、夥しいほどの魔力が展開されていった。

 周囲にキラキラと、まるで雪の結晶のような魔力の欠片をちりばめ始める。


「はあっ!」

 ボス少女の気合い一声、一気に体を反り返す勢いで両手両足を伸ばした。

 同時に、その背中に巨大な黄金の魔法が広がる。左右に四本ずつ、計八本。


 それまでの魔法と比較にならない威圧感。攻撃されていないのにチリチリと肌に痛みが走り、制服のところどころに小さく裂傷が走り出す。

 ――マジの化け物じゃん、この子……!

 アナライズなんてしなくても、手足の震えで理解できた。


 ボス少女はゆっくりと目を開ける。

 私を見下ろす目、その瞳孔の色が金色に変化していた。


「これは出さんつもりじゃったが、加減できる相手でないことはよう察した。悪く思うなよ、白姫」

 全く悪びれた風も無く、変わらぬ不敵な笑みを浮かべるボス少女。


「聖衣に、聖光八翼……。まさか、貴女は……?」

 殿下がダン様に起こされながら、驚愕の声を上げた。


「その名を知る者が居たか。全く、これを翼と言うのは(いびつ)じゃろうに」

 背中から生えるそれは、確かに広げた瞬間翼に見えなくも無かったけれど……翼と言うには細長く、羽根も無い。

 尖った先端の爪に、中程にある間接部分。それは、むしろ……


「正しくは聖光八足。蜘蛛足よ。少なくともワシのイメージではな。周りの大人たちが勝手に翼と吹聴しとるだけじゃ」

 白いワンピースの少女の背中から巨大な光の蜘蛛足が生えている姿は、ダンジョンという非現実的な空間においてなお、異質な光景だった。

「『博智(はくち)の蜘蛛』とはワシのこと。翼のようなご大層なもの、似つかわしくなかろうて」


「……別にどっちでも良いけど」

 エンチャントをかけ直す。ピリピリとした軽い痛痒が全身を襲った。アナライズで見ると、魔力神経負荷が30%まで上がっている。


「空飛ぶ蜘蛛を退治するだけよ」

 魔力剣を十本。普段よりMPを消費して、どれもガンガルフォンより大きく強力に。


「ルナリア嬢、彼女は……」

「小僧。そこから先は内緒じゃ」

 蜘蛛呼ばわりした私を窘める殿下。その殿下を小僧呼ばわりするボス少女。

 ――なにやら殿下が心当たりある人物らしいけど……


「貴女は教師とグルになって私たちをハメた、ここのボス。今は、それで充分よ」

「くくく、いかにも。それ以上でも以下でもない!」


 私は一気に駆け出した。

 ボス少女のところまで魔力の足場を作り出し、それを蹴り繋いで空を跳ぶ。

 ――二年前のショコラのアドバイスが、まさかこんな時に役に立つなんて。


「空中戦もできるか!」

 八本の光足VS十本の大剣。

 数は大剣が上だが、抑えられた光足はわずか二本。六本が私をはたき落とそうとしてくる。


 一本目をいなし、二本目は一本をいなした勢いで回転して回避、三本目は側面を蹴って逸らして、四本目を弾いたところで、五本目が右、六本目が左から同時に襲いかかった。


 右はなんとか剣で防ぐも、左が私の脇腹をなぎ払った。

 咄嗟に小さな護法剣を左手で持って防御したが、所詮は魔力剣の一種。防ぎきれず、私の体は撃鉄に打たれた銃弾のように空中に放り出された。


「ぐぅっ!」

 すぐに足場を作って、その上に両足で着地。ズザザー、と滑る。靴底がかなり削れちゃっただろう。


「おっかないおっかない。あとちょっとでお主の攻撃圏内じゃったな」

 粉々にされた十本の大剣の魔力残滓が舞い散る中、ボス少女が微笑む。


 だが、その微笑は先ほどよりも大分余裕が無いというか……余裕があるような虚勢を張っているように見えたのは、私の願望だろうか。


 護法剣越しにもかかわらず、左腕はビリビリと痺れて、まるで力が入らない。しばらくは無理そうだ。

 おまけに魔力剣もほとんど通じない。一応、格上相手でも使えるように改良したとっておきだったんだけど……

 ――まあ、やっぱりこうなるか。しょうがないね。


「……毎度おなじみ。ゴリ押しの時間よ」

 エンチャント。もう数は数え切れない。


「無理するな。それ以上は魔力神経が焼き付くぞ。ぱっと見、もう40%は超えておるじゃろ」

「ご心配なく。1000超えても死ななかったので」

「1000!? ……なるほど、無彩の体は、そういうことか」

「もう後戻りできないわ。騙されて、引っ(ぱた)かれて、今更退けるほど人間できてないから」

「短気じゃのう。そんなんじゃ嫁の貰い手もおらんくなるぞ」

「うん、知ってる。……文字通り、死ぬほどね」


 トントン、と左右の靴の爪先を叩いて整える。

 小さく息を吸って、足の補助魔力を全力でかけ、再び駆け出した。


=============

・右手装備 ガンガルフォン+114

=============


 光足が伸びて私に襲いかかる。

 切っ先で逸らして、先ほど同様に体を回転。

 その関節に、遠心力たっぷりにガンガルフォンを振り上げた。


「なにを……」

 瞬間、魔力と魔力がぶつかる鈍い激突音。

 魔力の火花が飛び散って、周囲の石壁や石畳に穴を空けていった。


 この光足が邪魔して本体にたどり着けないのだから。


 ――一本ずつ、ぶった切ってやればいいだけの話……!


「やああああああああああああああ!」

 凄まじい抵抗力に、ちょっと気を抜くとガンガルフォンがすっぽ抜けそう。全力で握力と膂力を補助する魔法を展開し続ける。


「馬鹿なことを。腐っても天女(てんにょ)の加護、よもや魔法破壊など叶うわけ……」

 ボス少女が言い終えるか否かのところで、バシュッ、と音がして抵抗感が消える。

 私とガンガルフォンは急に空中に放り投げられたように、光足の反対側へと通り抜けていった。


「なっ、なんじゃと!?」

 慌てて足場を作ってそこに立つ。振り返ると、光足の半分が地面に落ちて、ドゴン、と石床を砕いた。


「……まず、一つ」

 私が言うと、ボス少女は見開いた目を私に向ける。


=============

・右手装備 ガンガルフォン+7

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 ――100ちょっとじゃギリギリだったみたい。

 エンチャントをかけ直す。


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・右手装備 ガンガルフォン+161

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 これくらいあれば、もう少し余裕を持ってぶった切れるかな?

 魔力神経負荷は58%まで上昇。

 パルアス戦より魔力神経も強くなっているし、なにより慣れたのもあるのだろう。予想よりは負荷の上昇率は高くない。

 ――うん。これなら、勝つまでなんとか保ちそうだ。


 再びボス少女に向かう。

「ちぃっ!」

 気を取り直したボス少女がこちらに光足を差し向けた。

 波状攻撃で、もう一本を斬らせないよう間断なく攻撃を仕掛けてくる。


 我慢の時間。一本一本を避け、逸らし、躱し、いなし、弾く。

 積極的に前に出ようとせず、防御に徹すれば、そんなに難しいことではない。

 そうして、淡々と次の狙いを待つ。


「くっ、小癪な……」

 こうなると、我慢の時間は相手も一緒。

 ましてや、一つ手を(足だけど)壊された彼女の方が、焦燥感は強いだろう。


 ――ここまで話した感じ、私と似たような脳筋みたいだし。

 そうなると次の手を読むのは、割と簡単で……


「もう堕ちよ、白姫!」

 力尽くでのゴリ押しである。


 私に一撃を加えられた成功体験もある。

 そしてついさっき、一本をけしかけて一本斬られたばかり。

 その結果、左右からの二本同時襲撃である。


 自身の防御に回したのが三本、私にいなされたのが二本、残った二本で、右上と左下から挟撃してきた。

 ――やっぱり、思った通り。

 対人での戦闘経験は、そんなに多く無さそうだ。


「はっ!」

 予定通り、左側に護法剣を展開。

 先ほどは咄嗟だったので小さくなってしまったが、今度はちゃんと準備した、私の二倍くらいのサイズ。

 それでも、真正面からまともに防御するのは難しいだろう。


 ……だから。

 護法剣が左の光足を迎え撃つ。

 そして私は、右の光足にガンガルフォンを振り上げた。


「残念じゃったな!」

 その瞬間、ボス少女がもう一本、防御に回していた足を正面から伸ばしてきた。


 私のこめかみに突き刺さろうとする直前……

「こっちのセリフよ」

 左の光足が、正面の光足の側面に突き刺さる。狙いは逸れて、私の正面上方向に吹っ飛んでいった。


 護法剣は、光足を防ぎにいったのではない。ただ、その進行角度をおよそ五度ほどずらしただけである。

「馬鹿な、こんな……」

「これで、二つ」


 左の光足、人間で言うふくらはぎの辺りを叩き斬る。

 元の威力が上がったおかげで、一本目よりも簡単に両断できた。


=============

・右手装備 ガンガルフォン+69

=============


 すぐにまた、150前後までエンチャントをかけ直す。

 魔力神経は77%。

 ズキズキと焼き付く魔力神経に、むしろ懐かしさすらこみ上げてくる。

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