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12歳―26―

 霧を抜けた先は、もはや裏山の頂上を遙かに超えるような高さと、裏山をすっぽり覆えそうな幅と奥行きがある石造りの部屋だった。

 天井の石が光を放ち、視界は明るい。


 ――この大きさは、なんだろう。ガーゴイルとか、大巨人(ティターン)とか?

 巨大な部屋があるだけで、そこに見合う大きさのボスの姿は見えない。四人全員で上下左右を見渡す。



「ほう、四人揃ってここまで来れたか。準一年の坊主たち」



 おそらく若い女性のものだろう、部屋中に反響して声が聞こえた。

 天井の光に紛れて、淡く光を放つ少女が一人、ゆっくりと宙を降りてくる。


「……む? 女子もおるのか。今年の準一年のトップはなかなか変わり種じゃの」

 少女は3メートルほどの高さからこちらを見て、面白そうに犬歯を剥き出す。

 腕を出したワンピースの羽衣は、全体的に微かに光を発していた。どことなく、創造神の服装と雰囲気が似ている。露出度は似てないけど。


「何はともあれ、よくぞ初見でレベル3ダンジョンの最奥に辿り着いた! ワシがここのボスじゃ。まあ、今日限りじゃがな」


 両手を腰に当てて、空中で仁王立ちするボス少女。

 年齢は十四、五歳ごろだろうか。よく手入れされた艶やかな蒼い長髪は、彼女の浮遊魔法で空に舞っている。ぷるぷると潤うスカイブルーの瞳は、私たちを……これから蹂躙する相手を値踏みするように、不敵に睥睨していた。


「いやはや、ワシの出番が無いかとヒヤヒヤしたが、杞憂で良かったわい」

 見た目にそぐわない古風な喋り方で、年齢不相応にコキコキと首を左右に曲げる。


 授業では卑怯と思い、ここまで敵にアナライズはしてこなかった。けれど、場の雰囲気に似合わない正体不明のボス少女の登場で、つい使ってしまう。


 瞬間、ボス少女の目前で火花が弾けた。


「ぬおっ!?」

 ――アナライズが弾かれた!?

 ボス少女は口に出して、私は内心で、同時に驚く。


「……なんじゃ、鑑定スキルか? このワシが全く発動に気づけぬとは……。なるほど、どうやら化生(けしょう)(たぐ)いが混じっておるな。誰じゃ?」


 ――十二歳(中身プラス十四歳)の女の子を捕まえて化け物呼ばわりは酷くない?

 と言いたいが、アナライズできることはあまりバレたくないので言えない私。


「まあ良い、今に分かるじゃろう。……さて。それじゃ、ボス戦開始と行こうかの!」


 右手を真っ直ぐ上に掲げて、掌の上で急速に魔力を集約し始める。

 アナライズできなくても全身が震えるほど、それは強大な神聖魔法だった。


「皆さん下がって!」

 ゼルカ様が前に出、結界魔法を展開する。

「前に出る勇気は良し! 褒美にど真ん中にくれてやろう! 頑張って防げよ!」


 振りかぶって、ゼルカ様に直接魔法を投げつけるボス少女。

 真っ向から受け止めようと、力を込めるゼルカ様。

 結界の正面に魔法球がぶつかる。


「……?」

 だが、特に何も起きず。球は結界の前に留まっていた。

「なんだ……?」

 と殿下が呟いた、瞬間。


 渦巻くように急激に球が拡大し始めた。

 暴力的な光の竜巻は結界を破壊し、全員を光の奔流に巻き込んでいく。


「うわああああああ!」

 絶叫も轟音で掻き消されながら、私たちは方々に吹き飛ばされた。

 私は入り口の霧にぶつかって、地面に落ちる。


「そうそう、言い忘れた。お主らが入ってから、この部屋の中に結界を張っておる。この結界の中ではフリップフロップは発動せん。故に、タリスマンの許容を超えたダメージは、そのまま体に行くから気をつけるんじゃぞ」


 起き上がって周囲を見る。

 ダン様は右の床に、殿下は左の壁際に、ゼルカ様はボス少女の向こう側に、それぞれ倒れていた。


「……くっ……!」

 霧の壁に手を突いて立ち上がる。

 首から下げたタリスマンを見ると、ボス少女の言うとおり黒くくすんで形代効果が切れた事が分かる。本来なら転送が発動するハズだが、私の体はまだここから離れない。


「ボスを倒すつもりで入ってきたんじゃから、問題なかろう? まあ安心せい。殺しはせん」

 言いながらボス少女が地面に降りた。

 右手の人差し指で私を指す。


 ゾクッ、と悪寒がした次の瞬間、私はとっさに横に飛び退いた。

 さっきまで私が手を突いていた霧の壁が、バチンッ、と音を立てて光の粒子を散らせた。


「じゃがもし『授業だしとりあえず入るか』と安易に踏み入れたのなら見当違いじゃ。授業だからこそ、無謀へのしっぺ返しは教えねばならん。転送して、はい終わり、じゃ勉強にならんゆえ」


 左手を腰だめに構えて、魔力を練るボス少女。

 そのまま下手投げで放ってきた光は、途中で十数本に分岐して、私に回避方向を絞らせない。


「くっ!」

 直撃したら、当たり所によっては怪我では済まないかもしれない。

 魔力剣を二十本展開! ドーズ先生の縛りを破ることになるけど、背に腹はかえられない。


 分岐してきた光線に魔力剣を次々とぶつけて消していく。

 掻い潜ってきた光線は、エンチャントしたガンガルフォンで斬り落とした。


「……ふむ、化生はお主か」

 顎に手を当てて、楽しそうに笑うボス少女。


 私は黙って、魔力剣を再展開。とりあえず五十。エンチャントも五十回重ねがけ。

 測定の時、ドーズ先生に二十で留めて痛い目に遭ったので、最初から多めに施した。


「なんとも愛くるしい猛者だこと。こんなに美しい無彩者は初めて見たかもしれん。それが強いとなれば、なおさら」

 それを言ったら、ボス少女も美少女だし、女性にしてはあまりに強すぎる。


「……貴女こそ。道中の敵からしたら明らかに強すぎる。最初からこのダンジョンをクリアさせないつもりだったのね」

「明察。貴族社会という狭い世界で育ってきた小僧小娘に、地べたの味を覚えさせるための(はかりごと)よ」

 周囲に無数の光の球を浮かばせながら、ボス少女は答える。球の群れはくるくると衛星のように旋回していた。


「……地べたの味なら、散々味わってきたわ。確かに、なかなか感慨深い味ではあるかもね」

「左様。自身の未熟を知り、それでも立ち上がるときに噛み締めている味じゃ。戦いに携わる者は特にな」

 最初は牢獄で、その次はショコラとの特訓の時。

 どちらも確かに、私の成長の瞬間に味わっていたと言えるかもしれない。


「状況は分かったし、この学園の教育方針も納得はできる」

「理解が早くて助かるわい」

「ただ、だからって、騙されたことを許すかというと、また別よ」

 ガンガルフォンを構える。雷属性をエンチャントしていないけど、動いて擦れた五十重の魔力が電気のように刀身を駆け巡った。


「ムカつくのはムカつくもん」

「それはまあ、仕様あるまいな」

 ボス少女は一見可愛らしい笑顔で……見方によってはニヤニヤして、私を見つめてくる。


「子供を力でねじ伏せることを教育と言い張るなら、その子供に力でねじ伏せ返されることもある、って私が教育し返してあげる」

「くくくっ、お主の場合それが大言(たいげん)にならんから困ったもんじゃ」

 ボス少女が右腕を真横に振る。光球群が一斉に真横に一直線に並び静止した。


「大いに結構。やってみんしゃい、白の姫。このワシ相手にまかり通せるならな!」

 魔力球群が一斉に光線を発射した。

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