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12歳―15―

 シャミア様の場合。


「一日目にルナリア様が馬車を降りるところを丁度目にしたのですが……ドレス姿に剣を担ぐ姿が、あまりに美しかったので」

「美しい……ですか?」

「はい。昔読んだ絵本にも似たようなシーンがあったんですが、目の前で見たルナリア様は、それよりも圧倒的でした」

「絵本……」


 私の心臓が跳ねる。

 女の子がドレス姿で剣を持つ絵本なんて、心当たりは一つしか無い。


「その後、準入学測定の様子も聞きました。同じ戦闘実技を受けたギルバートという男がいるんですが、彼は従兄弟でして。『白銀の剣花』を直接目にした彼を羨ましく妬ましく思ってます。先日、その片鱗を垣間見られて良かったですが」


「あの、絵本というのはもしかして、リンとロウですか?」

「はい! ご存じですか?」

「ええ、私が一番好きな絵本です!」

「まあ、なんと!」

「ドレス姿で戦う場面は、私も痺れました!」

「それはもう! 牢面悪爵と再誕の獣に追い詰められたところで……」

「瓦礫の中をかいくぐって……」

「「ロウがマキナを連れて来る!」」


 そこからすっかり話に熱が入ってしまう。

 周囲の冷たい視線に気づいたときは、他のご令嬢方が所在なさげにしていた。


「……コホン。失礼しました」

「いえ、楽しそうで何よりです」

 ゼルカ様がにっこりと微笑んでくれる。優しい子。


「今度、リンとロウを持ってきましょう。是非読んでいただきたいですわ」

 シャミア様が言う。

「そうですね。私も実家から持ってきてるので、お貸しできますから」

 私もそう追随した。



 それからしばらく、皆の間でリンとロウがブームになる。

 私のパーティーに来ていない子に勧めてくれる方も居たようで、気づけばクラス中に広まっていったらしい。


 それがきっかけで私のパーティーに参加してくれる女子も少しずつ増えてくれたから、何が奏功するか分からないものである。


 ――それにしても、まさか私以外にもリンとロウが好きな女子が居たなんて……

 シャミア様は前生でも私の取り巻きの一人だったというのに、何も知らなかった。

 ジョセフィカ様もそうだけど、あらためて、威厳などという小さな事に気を取られて、大事なことに気づけなかった愚かさが身につまされる。


   †


 アリア様の場合。

「父に『とにかくトルスギット令嬢とのパイプを作れ』と口酸っぱく言われたので」

 と正直に言ってしまうものだから、他のご令嬢も、彼女の使用人も騒然となった。


「いやだって、ルナリア様はもう見抜かれてますし。隠しても無駄でしょう?」

「ふふっ、そうですね。むしろその方が気持ちいいです」

 いやもう、本当に。


「ただ、きっかけはそうですが、奴隷に蹴っ飛ばされても翌日一緒に仲良く謝りに来たり、親関係なく仲良くなってやる、と宣言されたり、今も失礼なことを言った私に笑いかけてくれたり……。気づけば、そんなルナリア様のファンになってます」


 またもアリア様の使用人達が大騒ぎである。

 私に謝る方、アリア様に「目上の方のファンになった、とか無礼にもほどがあります!」と忠言する方に分かれた。

 使用人に注意される姿は、なんだか親近感が湧いてくる。


「謝る必要ございません。ファンになっていただけて、素直に嬉しいですよ。私なんかが、とは思いますが」

「ファンにならない人とか居ます?」

「あらら、すっかり目が曇ってますね……。うちの侍女も似たようなこと言ってきますけど」

「そうなのですか? その侍女の方とは話が合いそうですね」

「ご所望であれば、のちほどご紹介いたしますよ。あんまり気は進みませんが……」

「実は、ルナリア様のファンクラブを作ろうとしてるのですが……」

「ファンクラブ!?」


 ――なにをしれっと言い出すのこの子!?


「実はもう何人か手を挙げてくれた方が居まして。ルナリア様、第0号会員になっていただけます?」

「ちょ、ちょっと待ってください。急な話すぎて……」

「会員全員に配布用の写影を用意したいので、今度ルナリア様の写影を撮らせていただきたいんですが、よろしいですか?」


 写影とは、物体や景色を平面の像として記録し、紙や布などに投影する魔法である。高度で高負荷な魔法のため、一枚撮るだけで馬三頭以上の金額がかかる。

「写影を配布!? お、お待ちください、ドンドン話進めないで……」

 ――ファンって怖いな、と思った。


   †


 エープル様の場合。

「まず、その節は申し訳ありませんでした。ルナリア様の思いも知らず、愛玩用などと……」

「そんな、お気になさらず。一方的に無理矢理するなら賛成はできませんが、亜人側もそれを良しとするなら、ペットのような関係も良いと思いますよ」

 ――ちゃんと自分を可愛がってくれるなら、その人の下でいい、という亜人もいるだろう。世の中には、きっと。


「我が家は犬や猫をはじめとした動物を多く飼っています。そのおかげで、私も動物が好きでして。ルナリア様が仰った、モフモフする幸せというのも、良く分かります」

 ヴェローノ侯爵は動物愛護団体の代表でもある。別名『博愛卿』と称されることもある。


「ただ、お父様は亜人が嫌いで。奴隷も雇わないため、亜人は見たことが無かったのです。初めて亜人を見たのは、七歳の頃サーカスを見に行った時だったのですが……もう、皆可愛くて!」

 エープル様の声が一オクターブ上がる。


「あの耳ナデナデしたい! あの大きな尻尾に包まれたい! と。お父様は動物好きなあまり、人と獣が混合した見た目が受け付けないようですが、私は逆だったのです。人っぽさと獣っぽさの融合に惹かれてしまったのです」

「なるほど、分かる気がします」

 私は大きく頷く。


「分かっていただけますか?」

「先日、私がショコラを褒めたことがあったんです。その時、ショコラは無表情で冷静なフリしてるんですが……尻尾がブンブン左右に振られてて」

「あぁ、それ、可愛いですねぇ」

 うっとりした様子でエープル様が微笑む。

「……言うなや」

 照れた様子で言うショコラも、またエープル様にご満足いただけたようだった。


「それで亜人、というか獣人ですね。欲しいと思っていたんですが、父が許可してくれませんから。学園で一人暮らしが始まったら、獣人をそばに置くのが夢だったんです」

「そういうことだったんですね」

「最初は、隠れてどこかで飼おうと思ってましたが……ルナリア様を見習って、ただ一方的に飼うのでは無く、信頼関係を築ければと考えを改めました」

 ――お父上のこと、周囲の目線、色々と障害はあるだろうけれど……

「お考えは良く分かりました。私にできることならご相談ください」

「ありがたきお言葉。その時は是非、先達としてご教授いただければ幸いです」

「ですが、獣人を連れていたら、私のように避けられてしまうかもしれませんよ?」

「ふふっ、ルナリア様と同じようになれるのでしたら、むしろ光栄ですわ」


 ――この子もファンに片足突っ込みかけてる……?

 そっちの方が、私にとっては不穏だった。


   †


 そして、ゼルカ様の場合。

「私、私は……」

 その引きつったような表情で、大体察せようというものだ。


「その、皆様のように強い思いのようなものは、ございません。申し訳ございません……」

「謝るようなことではございません。私も、他の四方(よんかた)がここまで言ってくださると想像もしていませんでした」


 唯一、何も無かったらしいアリア様もファンクラブ作るとか言い出すし。

 ――皆、方向性は違えどなかなか極端なのよね。


「ですが、一日目にお隣に座られたとき、お美しいと感じたのは真実です。銀の髪に、白亜の肌、真紅の瞳、どれも神秘的で……」

「ごめんなさい、変なお世辞言わせてしまって」

「いえ、そんな!」


 私の言葉に、ガバッと顔を上げる。

 ……その表情に、妙な違和感。

 まるで、私の『お世辞』という言葉を忌避するような必死さが見えたような気がした。

 だが、その正体が上手く言葉にできない。


「私の体の色は、後天的なものです。詳しい事情は申せませんが、私はこの色を誇りに思っています。大事な者を守れた、証ですから」

 ゼルカ様はどこか、すがるような目で私を見る。

 それもまた、奇妙に思えた。


「……もしかしたら、この見た目で私を避けた方もいらっしゃるかもしれません。それを褒めていただいたことは、素直に嬉しいです。ありがとうございます、ゼルカ様」

「ルナリア様……」

 微笑みかけると、ゼルカ様は少し救われたように、その表情を安堵させた。


「いえ、見た目が美しいのは満場一致かと」

 そう言ったのはアリア様だった。

「アリア様の評価は信用できないんですが……」

 と私が言うと、皆さんがドッと笑う。


「……笑ってしまいましたが、私も同意見です。その神秘的な見た目に大剣というインパクトがあったから、『白銀の剣花』の異名ができたのでしょうし」

 そう分析するのはシャミア様。


「実は私も、見た目にはそれなりに自信がありましたが……ルナリア様を前にしたら、いかに滑稽だったか、思い知らされました」

 と言うエープル様に、示し合わせたように全員が深く頷いた。


「いやいや皆様、言い過ぎですよ。ちょっと珍しい色だから、変なバイアスがかかってるだけです」

 そうですかねぇ、なんて消極的に否定してくる皆。

 ――なんか皆、アリア様に流されてません?


   †


 そんな風に五人と語らいあってから、数日後。

 アリア様が会長となり、私のファンクラブが勝手に設立されていた。

 五人全員が会員となり、私の手元にも第0号の会員証が配られる。


 ――皆さん大変ね。親に言われて私に近づいた結果、仕方なくこんなものに参加する羽目になって。

 申し訳なさと同時に、同情してしまう。

 ……仕方なく参加してるわりには皆、妙に熱量が高い気がするし、男子への勧誘も盛んで、いつの間にか殿下も会員になった、なんて噂まで聞くけど。

 全部気のせいよ! 私は知らないこと! うんうん!

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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