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9歳―2―

 翌日。午前十時すぎ。


「剣を握ることを禁止する」

 呼び出されたお父様の執務室で、私はそう言われた。


「また、今日から自分の周囲の管理をするように。予算を与えるから、使用人の費用、衣服や装飾品、本や娯楽品など、自分自身に関するものの管理を任せる。私やお母さん、また使用人も関与しない。とはいえ、アドバイスはいくらでもするから、遠慮無く聞きなさい」

 これも我が国ではオーソドックスな貴族教育である。子供のうちからお金の動かし方を学ばせる。


「……管理についてはかしこまりました。ただ、剣を禁止される理由はなぜですか?」

 素直に引き下がるのも不自然だろう。そう尋ねた。


「お前はガウスト殿下の婚約者候補の一人。これまでは子供の遊びと許してきたが、これから教育科目が増えてくる。剣の鍛錬で疲れ、勉強やダンスの練習ができない、なんてことになっては困るからな」

「ちゃんと体力を付け、どちらもできるようになってもダメですか?」

「ダンスと違い、剣は掌も硬くなるし、肩や腕に筋肉も付く。そうすると、手を取った相手を嫌な気分にさせるだろうし、袖の無いドレスを着た時に醜くなる」

「……ですがお父様。私は……」

 一応、喰い下がってみる。


 と、父は私の両肩をガシッ、と掴んできた。

「ルナ。はっきり言おう。我が家が今、一番有利な位置にいる。他の公爵家は殿下と近しい年齢の娘が居ない。こんな好機はめったに無い。よほど殿下の機嫌を損ねなければ、国王陛下はルナを選ばれるであろう。殿下とは同い年だし、将来中央学園でも近づく機会は多いはず。我が国の女性の中でも、希有なほどに幸福な状況なのだよ」


 前生では負けてしまった、お父様の威圧感。

 ――可哀想に。将来後悔してしまうというのに。


「だが剣を持つ女では、殿下や陛下、それに王宮にも認められないだろう。どうしても、野蛮と思われる。どうか、ここは公爵令嬢としての幸せを掴んではくれないか」


 前生ではここから数日説得されて、最終的に折れた。

 このトルスギット家が王家の傍流となれば、その影響は計り知れない。家族を、この家を、よりよい物にしたいという父の気持ちは、今ならよく分かる。


 分かるけれど……ごめんなさい、今生のお父様。

 ――その未来は、私の……ひいては、おそらくトルスギット家そのものの凋落に繋がるのです。


「お気持ちは分かりました。以後、剣の鍛錬はいたしません」

 少し意外そうに目を見開くお父様。そしてゆっくりと、目元と口元を緩める。

 実はイエスとは答えていない。あくまで『鍛錬』をしないだけで、『素振り』はしないとは言っていない。というへりくつ。


「……すまない。分かってくれてありがとう」

 お父様の目元が優しくなり、より笑みを深めた。

「お父様」

「なんだ?」

「今度は、人並みに親孝行できる娘になりますから」

「……言い回しが気になるが、ありがとう。嬉しいよ」

「気になされないでください。子供の言葉遣いですから」




 自室に戻って、ポフッ、とソファに寝転がる。


 さて。

 というわけで、いよいよ第二の人生が始まった。


 昼のレッスンや学業をこなし、予算管理をし、隠れて剣を振るうという時間割になるわけだが……剣を振るう際に、掌が硬くなったり、筋肉が付くことを抑える必要がある。そうでないとバレた時、いよいよ強制的にやめさせられるだろう。


 魔法剣の才能をつかって、なんとかできるだろうか?

 創造神は「剣にまつわる魔法と、魔法にまつわる剣の専門職」と言っていた。だが具体的にはどんなことができるのか、よく分かっていない。


「……待てよ、そういえば」

 具体的に分からないと言えば、アナライズのスキルもそうだ。

 早速アナライズを使ってみることにする。もしかしたら手がかりが得られるかもしれないし。


「って、どうやって使うんだろ……」

 天井を見上げる。

 とりあえず念じてみることにした。


 ――アナライズアナライズアナライズ……


 ピィン――


 小気味良い高音が響いた気がした。だが耳から聞こえたわけでは無い、不思議な音。

 周囲を見渡すと、見慣れない矢印のようなマークが、そこかしこに表示されていた。どうやら物の上に現れたようだ。


 視線を動かすと、矢印が順々に点滅する。アナライズをかける対象を選択しているのだろう。

 試しに足下にあったクッションを選んでみる。

 ――これ!


 ピコン――


 また音がして、空中に文字が表示された。

 頭を動かしても表示される位置が変わらないから、私の目に貼り付けるようになっているのか。


 アナライズにはこう表示されていた。


=============

【ピンクのクッション】

・攻撃力   1

・防御力   2

・魔法攻撃力 0

・魔法防御力 1

・重量    3


▽補正

・膂力 E-

・技術 E


何の変哲もないクッション。

貴族が持つ高級品で、中の綿にはキルフェバードの羽毛がふんだんに使われている。

=============


 攻撃力0ではないんだ、が最初の感想だった。

 これがアナライズ、なんかちょっと面白い。

 補正というのがよく分からないが……。


「人間に使えるのかな?」

 クッションの表示を閉じるよう念じる。すぐに見えなくなった。


 再びアナライズを使うよう念じる。

 矢印が出たとき、自分、と念じてみた。

 またピコン、と音がして、表示される。


=============

【ルナリア・ゼー・トルスギット】

・HP 29/29

・MP 1022/1022

・持久 9

・膂力 6

・技術 50

・魔技 65

・幸運 1


・右手装備 なし

・左手装備 なし

・防具   貴族の服

・装飾1  貴族のブローチ

・装飾2  なし


・物理攻撃力 9

・物理防御力 17

・魔法攻撃力 31

・魔法防御力 39


・魔力神経強度 脆弱

・魔力神経負荷 0%


人間。トルスギット公爵家の長女。回生者。

創造神の加護によりMP・技術・魔技が上昇。

剣(物理剣、魔力剣問わず)を装備すると、HP・MP・幸運以外のステータスが一般より多めに上昇する。

魔法剣の範囲に限り、スキルや魔法の習得に時間を要さない。

鑑定系スキルの最上級であり、唯一概要文を閲覧できる『アナライズ』を所持している。

=============


 なんともバランスの悪い数値である。

 クッションの時に補正と書いてあった項目があるから、同じ項目の数値が関連するのだろう。


 MPや魔技(魔法技術)が高いが、魔力神経が脆弱なのでほとんど使いこなせないだろう。こればっかりは成長に期待するしか無い。

 あと、幸運低すぎ……?

 アナライズ以外の鑑定スキルでは概要文を見れないようだが、逆に言うとアナライズを使える人に会うと自分が回生者とバレてしまう。


 ……そんなこと言ったって、気を付けようも無いんだけど。

 別に、バレたらバレたらだしね。


 二回使ってもMPは減っていないし、アナライズはかなりありがたい。

 ただ、手の皮と筋肉問題の解決に繋がるようなものは見つからない。


「うーん……」

 もう一度概要文を読んでみる。

 強いて言えば、『魔法剣の範囲に限り、スキルや魔術の習得に時間を要さない』の部分がなにか使えそうな気はするが……


 もう一度よく考えてみよう。

 ――そもそも、手の皮が固くなるのはなぜか。

 剣を直接手に持ち続けるためである。

 つまり、私は直接剣を持ってはいけないのだ。


 直接持てないのなら……魔力を纏って、その上から剣を持ってはどうだろう。私の手は魔力しか握っていない、その魔力に剣を握らせる、という状況にするのだ。


「できるかな?」

 がばっ、と体を起こす。

 棚の上に置いてある、訓練用の木剣を握る。


 再びソファに戻り、腰掛けた。

 試しに右の掌にだけ魔力を纏うイメージ。MPを使い、全身の魔力神経に流し込み、掌に集めていく。


 掌に負荷無く、でも剣はしっかり保持できるように。

 ちなみに九歳の時点では、貴族といえど魔力の扱いは習得させて貰えない。まだ魔力神経が弱いため、傷つく可能性が高いからである。けれどまあ、このくらいなら大丈夫だろう。


 右掌が淡く、青白く光る。

 左手の人差し指で右掌をつつくと、人差し指には堅い感触が、右掌には柔らかい感触が、それぞれ返ってきた。

 木剣の柄を握る。


「おっ、良い感じっぽい?」

 試しに軽く振ってみる。

 うん、すっぽ抜けたりしなさそう。


 掌の負荷については、どうだろう。前より全然感じないけど、こればっかりはしばらくやってみないと分からない。

『掌の負荷を減らして剣を保持する』ことが魔法剣の範疇なら、多分問題ないと思うのだが。


「とりあえず掌問題はこれで試してみるとして……」

 次は筋肉問題。

 筋肉が付くのは、剣を振ると筋肉に負荷がかかるせいである。


 ならば簡単、『体への負荷を減らして剣を振るう』ことが魔法剣の才能の範疇であることを願うのみである。


 魔力を右腕に纏う。腕を動かす筋肉を補助してくれるイメージ。

 こちらも試しに振ってみる。普段よりもずっと軽い。全然腕が疲れない。これなら多少疲れた夜でも、無理なく素振りできそう。


 掌も筋肉もわりとあっさり解決しそうで助かる。概要文でも『スキルや魔法』という表記だったし、剣を保持し、振るうスキルと考えれば、才能が適用されてくれるだろう。




 そちらの問題はなんとかなりそうなので、次に剣を装備したときのステータスを見てみることにする。

 木剣を持った状態で、再びアナライズを自分にかけた。


=============

【ルナリア・ゼー・トルスギット】

・HP 29/29

・MP 1022/1022

・持久 21

・膂力 7

・技術 91

・魔技 103

・幸運 24


・攻撃力   20

・防御力   21

・魔法攻撃力 56

・魔法防御力 49


・右手装備 コカルト樹の木剣

・左手装備 なし

・防具   貴族の服

・装飾1  貴族のブローチ

・装飾2  なし

=============


 魔技と技術がかなり上がっている。

 他もそれなりだが、膂力だけはほとんど上がっていないから、こればっかりは自分でなんとかするしかないようだ。


 比較対象がないのでなんとも言えないが、九歳としては強い方なのではないだろうか。

 次に、木剣も見てみよう。


=============

【コカルト樹の木剣】

・攻撃力   9

・防御力   8

・魔法攻撃力 1

・魔法防御力 3

・重量    11


▽補正

・膂力 D+

・技術 D


コカルト樹を原料とした木剣。

コカルト樹は堅くしなる特性から、訓練用の木剣に良く用いられる。

============= 


 よくよく見てみると、各項目の詳細も見られるらしい。早速『補正』がなんなのか見てみる。


=============

【補正】

装備者が武器の性能に与える影響度。

S>A>B>C>D>E の順で装備者のステータスが強く反映される。

=============


 うーん、つまり、クッションはEかE-だから、膂力や技術が高くてもあんまり強くないけど、DかD+の木剣はクッションより膂力や技術で強くなる、ということかな?


 強い武器を持てば強くなれるわけでは無く、持ち主自身の鍛錬も必要というわけだ。

 まあ、木剣より強い剣なんて持たせてくれるわけもないので、どっちにしても私にはあんまり関係なさそうだけど。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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