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25/105

12歳―7―

 着替えを終えた男子生徒達が戻り、模擬戦の順番にベンチに座らされる。

 私は一足先に先生達から聞いていたので、すでに六番目に座って待っていた。ガンガルフォンは後ろの壁に立てかけている。


 皆、私の姿を見ると、ぎょっとしてから横目で窺うように自分の場所に座る。私の隣、七番目に座るガウスト殿下と、八番目のダン様も同様だった。


「ルナリア嬢、その恰好は……?」

 運動着も異様に似合うガウスト殿下が、座りながら尋ねる。

「お恥ずかしながら、着替えを用意しておりませんでしたので。このまま測定を受けることにいたしました」

「言っていただければ予備を貸せましたのに」

「初対面のお二人に、そんな無礼は申せませんよ」

「これからは学友なのですから、気になされず良かったのに」


 ――うん、そういう方々なのは、知っている。

 だからこそ、変な恩や関係を作りたくないのだ。できる限り無縁で居たいんだから。


「それに、ドレスで戦うのって、なんだか楽しそうだと思いましたので」

 言って、二人に微笑みかけた。

 二人は珍しい動物でも見るように私を見返す。


 ――よしよし、ヒいてるヒいてる。

 ただでさえ女なのに大剣を携えて、ドレスを引き裂いてまで戦うような野蛮な行為、王族や貴族の常識からしたら異常に映るだろう。エルザがそうだったように、男性目線もっと変なハズ。


 こうしてこれからも殿下の不評を買っていこう。

 実際ドレスのまま模擬戦するのが楽しみなのは本音だし、まさに一石二鳥である。


 ――くっくっく、自分の婚約者候補筆頭がこんな女なんて、嫌でしょう?

 この調子でこれからもドンドン顔を引きつらせていければいいな。


「全員揃ったな。じゃあ、簡単にこれからの流れを説明するぞ」

 男の先生の合図で、皆がそちらに注目する。


 これから順番に、一人ずつどちらかの教師と模擬戦となる。

 武術を選択した者は、男の先生――ドーズ・ブラッダメンと名乗った――と。

 魔法を選択した者は、女の先生――ギルネリット・ネイヤーと名乗った――が、それぞれ相手になる。


 形代の魔法を用いるため、怪我の心配は無い。戦わない方の教師が審判となり、試験を行う。

 戦闘実技の測定結果は非常にシンプルで、このような定義となっている。


・優:担当教師に終始優勢で戦えた

・良:担当教師に複数回、有効な攻撃を当てた

・可:担当教師に一回だけ有効な攻撃を当てた

・凡:担当教師に一度も有効な攻撃が当てられなかった

・未:担当教師に攻撃を仕掛けることすらできなかった


『有効な攻撃』とは、形代に傷が付くレベル、とのこと。形代には水晶玉が用意されているため、ヒビやへこみも傍目に分かりやすい。


 形代の魔法を知らない人向けに説明があった後、いよいよ一人目が呼び出された。

 中庭の中央で、剣を構えるドーズ先生と、同じく剣を持つ一人目の男子生徒。

 ギルネリット先生がその二人に形代の魔法を施し、ついに実技測定が始まった。


 ――果たして、私がドーズ先生に敵うだろうか……?

 どう見ても歴戦の勇士である。たった一度、狂化状態のギガースに勝った程度の私で相手になるかどうか。


 実際、狂化状態でないパルアスは比べものにならないくらい強い。ちゃんと回避や読み合いもするし、状況に応じて戦技を自在に操れるのだから、当然だ。

 ギガースの中でも特に理知的な彼が、あの時に敵として現れていたら、今頃私は生きてここには居なかっただろう。


 ……などと考えているうちに、一人目が終わる。

「お疲れ様です。一撃与えられたから、可になりますね」

 基準が明確なため、その場で結果が言い渡される。


 ――ダメだったとき、公開処刑みたいになりそうね。

 それもきっと、先生達は計算尽くなのだろう。


 それから二人目、三人目、と試験は進んでいく。

 二人目はギルネリット先生だったけど、三人目はまたドーズ先生が生徒と模擬戦を行っている。

 その最中、対戦相手予定のドーズ先生にアナライズをかけてみた。


=============

【ドーズ・ブラッダメン】

・HP 12956/12956

・MP 879/1013

・持久 181

・膂力 118

・技術 86

・魔技 21

・幸運 77


・右手装備 ドーズのシミター

・左手装備 竜紋章の小楯

・防具   辺境騎士の軽鎧

・装飾1  ピーカブーのアミュレット

・装飾2  ピーカブーのアミュレット


・物理攻撃力 261

・物理防御力 175

・魔法攻撃力 22

・魔法防御力 146


人間。騎士。

貴族の出身ではないが、その勲功から当代の王女よりブラッダメンの(あざな)を授かる。

ドーズのシミターを装備することで技術に補正がかかると共に、専用戦技『斬鉱断鉄』を使用できる。

ドーズのシミターはもとはただのシミター。使い込む事で自身専用の特級武器に昇華させた。

=============


 ――え?

 HPのわりに、ステータスが全体的に妙に低い。HPだけ成長したと言うことだろうか?

 苗字を得るほどの勲功を立てたのに、うちの剣兵隊長より弱いのは不自然だ。


 あらためて確認していくと……ピーカブーのアミュレット、が気になる。二個も装備してるし。

 ピーカブーは聞いたことがある。『いないいないばあ』の別称だ。

 ――いないいないばあのアミュレット、ってなに? 

 詳しく見てみることにした。


=============

【ピーカブーのアミュレット】

・重量    6


装備者のステータスを大きく下げる。

オルトゥーラの国で開発され、同国やその周辺国などで流通。主に騎士や兵士が格下相手と戦闘訓練するために装備される。

ピーカブーは子供をあやす児戯の意。

=============

 

 なるほど、手加減のために装備してるわけだ。

 納得ではある。ではあるが……少し、残念だ。


 一個でどれくらいステータスが下がるか分からないけど、元は一体どれほど強いのか……

 いつか、本気の彼と手合わせしてみたいものだ。

 戦闘実技の授業の中で、いずれそんな日も来るかな?




 そして四人目が終わり、五人目も結果が出たところで、私の名前が呼ばれる。

「はい」

 立ち上がり、剣を取る。ベルトは着けず、そのまま肩に担いで持って行く。


 中庭の中心で、ドーズ先生と向かい合った。

 ギルネリット先生が水晶玉を二個持って、まずドーズ先生に形代の魔法をかける。

「……不思議な気分だ」

 ドーズ先生が私を見ながら呟いた。


「戦うに不釣り合いな服装と容姿。大剣に不釣り合いな小さな体と細腕。……だと言うのに、間違いなく強いことが分かる。こんな感覚は初めてだ」

「あら先生。後で『見た目に攪乱された』なんて言い訳は無しですからね?」

 さっきの先生のセリフをもじってからかう。

 先生は小さく口元を緩めた。


「口先は見た目通り、生意気でなによりだ」

「生意気でなければ、剣を持てませんでしたので」

「嘘だな。君は生来、生意気な人間だろ」

 初対面で完璧に見抜かれ過ぎてて、私も思わず可笑しくなる。

「先生モテないでしょう。女の子の言うことには適当に相づち打っておけば良いんですよ」

「剣を担いでくる女に言われたくないな」

「あははっ、確かに」

「ふっ」

「……ドーズさんが笑ってる……」

 ギルネリット先生が珍しいものを見たように、小声で言った。


 形代の魔法の準備が終わり、ギルネリット先生が離れる。

「抜剣どうぞ」

 左手で鞘の中程にある取っ手を持つ。鞘のスリットを開くと、ガシャン、と音が鳴った。そこからゆっくり抜剣する。

 手に持っても、背負ったままでも、どちらでも抜剣できるように開閉式のスリットが鞘の横に用意されているのだ。


 いつの間にか隣に来たエルザにちょっと驚きながら、差し出された両手に鞘を置く。

「ありがと」

 エルザは頭を下げて去って行った。


 正面に視線を戻すと、左腰に下げた鞘からシミターを抜き、片手で構えるドーズ先生が居た。

 私も両手で持って、構える。

「それでは……始め!」

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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