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12歳―5―

 それから十分ほどして、粛々と入学式が始まる。

 今年の準入学者は二十三名。男子十名、女子十三名。当たり前だが前生と変わりなし。


 聖教会らしく淡々とした学園長からの祝辞と、簡単な施設説明のみ。ものの三十分で式は終わった。王宮や貴族が主導だったら、こんなあっさりした式はあり得ないだろう。もっとごちそうが振る舞われ、談笑する時間があり、ダンスや演奏で盛り立てるのが常だ。

 これも生徒達に『お前達は特別じゃないんだぞ』と教えるためなのかもしれない、と今なら思う。


 その後、私たちの担任になる先生が壇上に上がり、名乗りの後、準入学測定の説明が始まった。

 筆記、マナー、実技の順で測定がされるとのこと。

 筆記はこのままこの場で実施。マナーは奥の部屋に三名ずつ呼び出され、教員達の前で実施。そして実技は、それぞれの選択に合わせて場所を変える、といった流れが説明される。


 測定は三種とも共通で、優、良、可、凡、未、の五段階評価。

 測定の結果は明日、門を入ったすぐのところに全員分が張り出される、とのこと。

「これは、今のうちから周囲と比較されることに慣れていただくためです」と先生は説明した。

 ぬくぬくとした貴族生活で育ってきた子供達に現実を教えるためだ。王族ですら例外ではない。


 学園では入学後も、ことあるごとに他者と比較される。あまり賢くない私にとって、良い思い出がない制度だ。運動は多少自信あったけど、女子はダンス以外はあんまり褒められないし。


 説明が終わると、そのまま筆記の測定用紙が配られる。

 語学や算術、魔法知識などの一般常識を測る程度で、平民が受ける入試よりは大分簡単らしい。


 時間は前半五十分、その後十分休憩を挟んで、後半また五十分。

 今生では勉強の成績が落ちれば剣を取り上げられるかもしれなかった。なので、この数年真面目に取り組んできたわけで。前生の知識もあるし、わりと余裕を持ってできたと思う。


 マナーも同様。簡単なテーブルマナー試験を終えると、担当教師と三十分ほどの面接で所作や言葉遣いを見られる。その後、男性教師とダンスを踊った。ダンスは平民の入学試験にはなく、貴族の準入学者のみの項目らしい。


   †


 それから少し遅めの昼食時間を挟み、いよいよ実技の時間。

 三つの実技のうち、『戦闘』は中庭が測定場所となっている。

 案内板に従って渡り廊下を進み、エルザ、ショコラと共に中庭に出た。


 ピロティの下に『準入学測定者待機場所』という看板を見つけた。

 そこに行くと、先生が二人立っていた。その後ろに男子が五名、ベンチに座っている。当然、私以外の女子は居ない。


「おい」

 先生の一人がこちらに声をかけてきた。男性で、背が高い。190cmはあるだろう。一見細身だが、服の下は相当鍛えているだろう事が、その佇まいからなんとなく察せた。

 前生で見た記憶がないので、戦闘科目の担当教師なのだろう。


「ここは戦闘の測定をするところだ」

 上から見下ろすように先生は言う。……まあ、流石にパルアスほど上からじゃないけど。

「はい。戦闘の測定を受けに来ました」

 答えると、周りの男子達が僅かに反応を示す。

 驚愕、動揺、嘲笑、唖然……といったところか。


「貴女、お名前は?」

 女性の先生が尋ねてきた。

 大きな帽子にゆったりとしたローブはどちらも真っ黒で、分かりやすいくらい魔女だ。その手には生徒を記録するためだろう、バインダーとペンを持っている。


「ルナリア・ゼー・トルスギットと申します」

「ルナリアさん、本当に戦闘でいいの? 実技は三種類のうち一つしか受けられないけど」

 先生は前屈みになって、小さい子相手にするように私と視線を合わせて尋ねる。


「はい。説明を聞き逃したりしていませんので、ご安心ください」

 きょとんと目を丸くしてから、小さく笑って先生は立ち上がる。

「分かりました。では、武術と魔法を選んでいただきますが、どちらで?」

 バインダーに向けてペンで書き出そうとする女先生。


「……武術と魔法、ですか」

「ええ。武術が武器と戦技を使う方で、魔法は文字通りです」

「それはなんとなく分かるんですが……」

 言い淀む。

「?」

 怪訝そうな女の先生と、その隣で腕を組んでこちらを見ている男の先生。


「あの、武器と魔法の両方を使う場合、どっちを選べば良いですか?」

「両方……?」

 そこで、男子の数名が堪えきれないように笑い出した。

 小声で、

「おいおい、マジかよ」

「亜人卿やべーな」

「世間知らずってレベルじゃねーぞ」

「こんなところに奴隷連れてくるし、いかれてる」

「やめろよ、周りの大人が何も教えてくれなかったんだろ、笑っちゃ可哀想だ」

 などと聞こえてくる。

 公爵の娘だからか、表だって言っては来ないけど。


 ――ふふっ。そうやって見下してるが良いわ。

 見下してくれれば、それだけ与しやすいというものよ。


「得物はその背中の大剣か?」

 男の先生が尋ねてきた。

「はい。魔法剣を使います」

 男の先生は私の目をジッ、と見つめてくる。


 ――あっ、見抜かれてる。

 なんとなく、そう直感した。

 世の中には、鑑定スキルなど一切使わなくても、相手の力量を見抜ける者が存在する。いわゆる、達人と呼ばれる域に居る者である。


「ギル、武術の方で登録してくれ。俺が相手する」

「良いですけど……やり過ぎないでくださいよ?」

「そんな心配は、多分無用だ」

 ギルと呼ばれた女性が怪訝そうに見返すも、男の先生は視線を切って、私の方を見た。

「この辺で待ってろ。開始時間になったら、到着順に試験を開始する」

「分かりました」


 開始時間は、確か午後一時半からだったはず。

 エルザに懐中時計を見せてもらうと、あと十五分ほどだった。


 ここでも子供と使用人の待機場所は分けられており、エルザとショコラは五メートルほど離れた中庭の下、テーブルがある場所に案内されて行った。

 私は男子達の小声が聞こえないくらい離れた壁際で待機する。彼らも陰口を聞かれたくないだろうし。


 目を閉じて、魔力神経に意識を向ける。ショコラやパルアスと模擬戦する前にもしている、集中タイムだ。


 ――ちょっと緊張してるかも。

 僅かに震える自分の体で、そんなことに気が付く。


 筆記とマナーの測定は前生でも経験済みだから、正直緊張なんてほとんどなかった。

 が、戦闘の測定は初めてだ。 

 あの男の先生と模擬戦をするんだろう。

 ショコラとパルアス以外と戦うなんて……野盗襲撃の日以来。


 ――早く、戦いたい!

 その気持ちは、緊張とも少し違っていて。

 もしかしたら、武者震いというヤツだったのかもしれない。

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