9歳―1―
頭痛がして目が覚めた。
視界は暗いけれど、暖かい布団に包まれているのが分かる。
布団をどかすと、そこは馴染み深くて懐かしい、実家の自室の寝室だった。
久しぶりのように感じるけれど、昨日も全く同じように目覚めたような気もする。
体を起こすと頭痛が少し強くなった。
頭を抑えようと上げた私の手は、ずいぶん小さい。けれどやはり、昨日と変わらないような気もした。
そんな、不思議な違和感。
――これが、回生したということ?
――回生したのなら、今は何歳の頃だろう?
そっと首に触れる。傷跡こそ全く無いけれど、まだ生々しい斬首の記憶が残っていた。
ゆっくりとベッドを出る。窓際にある姿見の前に立った。
そこに映った女の子は、多分八歳から九歳くらい。
お気に入りのライトブルーのネグリジェ姿。アンバーの瞳に、ブロンドの髪を肩甲骨の下まで伸ばしている。動きづらいので本当はショートカットにしたいのだけれど、許してもらえないことが不満だった。……なんてことを思い出す。
「……私、こんな顔だったっけ」
前生の記憶だと、もっと目つきが悪かったのだけれど。
ただ、今生の記憶では特に違和感無い。
この頃の私はまだ、精神的に充足していたから。
「本当に、回生したんだ……」
頭痛の原因は、前生十四年分の記憶が戻って小さな脳が負担を訴えているかもしれない。時間をおけば直るかな。
コンコン。
ノックの音がした。
「どうぞ」
カチャリとノブを回す音がして、ゆっくりとドアが開く。
「おはようございます、ルナリアお嬢様」
一人の侍女が、そう言って一礼した。
専属の侍女、エルザ。
私より六歳年上で、たしか私が十歳の頃に寿退職したんだっけ。
「本日は九歳の誕生日、おめでとうございます」
あ、今日で九歳んだ、私。
「久しぶりね、エルザ」
思わずそう言ってしまった。
「……はて、昨日もご一緒させていただいておりましたが」
「あ、いや、ごめんなさい。……ずいぶん長い夢を見ていたの。それで、つい」
「それはそれは。楽しい夢でしたか?」
「楽しくは、無かったな。もう二度と、見たくないくらい」
「そうでしたか。それでは、今夜は良く眠れるハーブティーをご用意いたします」
「ええ、お願い」
それから二人で隣のメイクルームに移る。
髪を梳かしてもらった後、服を選んで、今日のコーデを決めた。
「今日、剣の先生は来る日だっけ?」
ネグリジェを脱がせてもらいながら、私は尋ねる。
昨日まで、定期的に先生を呼んで剣術を指南してもらっていたはず。前生の記憶が確かなら、それが最後だったけれど。
とはいえ今生の私がそれを知ってるのもおかしい。私は何も知らないふりをして、エルザに探りを入れてみた。
「……流石にお誕生日ですから、今日は習い事の類いはお休みでございます」
一瞬言い淀んだのを、私は見逃さなかった。どうやら、すでにエルザは知っているようだ。
「誕生日だからって鍛錬は怠りたくないんだけど……まあ仕方ないわね」
言ってる最中に、エルザが私の服を全部脱がせ終える。
それからエルザは無言で私に服を着せていった。
エルザと話したお陰か、頭痛はあまり感じなくなってきた。今生の記憶と前生の記憶も、しっかり区別できるようになってくる。
――それにしても、あらためて、不思議な気分。
死を宣告されて、死を覚悟して、実際に死を経験したのに、またこうして、私から離れたはずのエルザに着付けてもらう時が来るだなんて。
「お待たせしました」
エルザが一歩下がる。
「ありがとう。それじゃ、行きましょうか」
姿見に映る私は、ピンクを基調としたベアトップドレスに、白のチョーカー。アクセサリの類いは、お父様が「年齢にふさわしい恰好をしなさい」とあまり好きではないので、細いネックレスのみで控えめに。
今日は誕生日ということで、ちょっとおめかししておいた。
肩を出したドレスは、腕を動かしやすいから好きだ。エルザも分かってるから、クローゼットのドレスをしまってる区画に肩まで覆うタイプは少ない。
メイクルームを出て、廊下へ。そのまま食堂に向かう。そろそろ朝食の時間のはず。
しっかり斜め後ろをつかず離れず、エルザが付き従ってくる。
「……お嬢様、昨夜何かございましたか?」
不意にエルザがそう尋ねた。なんとなく、さっきからなにか言いたそうな気配は感じていたけれど……。
「何かって、何?」
「うまく申せませんが……今日のお嬢様は大人びてらっしゃるというか……」
「……私も九歳だもの。一日でも早く、お父様とお母様の娘として恥ずかしくない人間にならないと」
なんて、咄嗟に言い逃れしてみる。
正直に言っても信じてもらえるわけ無いし。もし万が一信じられたら、それはそれで面倒なことになりそうだし。
「流石、ご立派でございます」
優しい目で私を見下ろすエルザ。
――うーん、仕方ないとはいえ、騙してごめんね。
食堂に入る。
すでに家族全員――両親と妹が揃っていた。
その光景が、あまりに懐かしくて。
「おはようございます! お誕生日おめでとうございます、お姉様!」
まだ元気だった頃のレナが、私の顔を見て嬉しそうに笑う。
「今朝は貴女の好きな卵料理ばっかりにしてもらったのよ」
お母様は、まるで子供が褒めてもらいたがるように、そんなことを言って。
「あまり食べ過ぎて、お腹を壊さないようにな。夜にはパーティもあるんだから」
厳しいときは厳しいけれど、基本はいつも私を思ってくれるお父様が、少しだけ苦笑いを浮かべる。
――気付いたら、頬を涙が伝っていた。
止める暇も無いくらいに、早く。段々と、多く。
どうしてだろう、と考えれば、すぐに答えに行き着いて。
前生の後半から常に渇望していた幸せの具現が、この光景だったからに違いない。
†
大泣きした後、一度部屋に戻り、落ち着いてから少し遅い朝食を食べた。
気持ちもすっきり、お腹も満足。
寝室に戻って、ベッドに倒れ込む。大の字になって天井を見上げた。
天井で光る魔法光石の照明に、右掌を伸ばす。
「……今度こそ、後悔しないように」
今生の最大目標を呟いて、そう拳を握りしめた。
――その目標を叶えるためにも、まずは状況を整理しよう。
前生では、九歳で剣の鍛錬を禁止され、同時に王太子の婚約者の候補の一人に上がる。抵抗するも、お父様は認めてくれなかった。女が剣を持つことへの偏見に負けたわけだ。
そこから私の人生の目標は、王太子――ガウスト殿下との結婚にすり替わった。
その後、十二歳で中央学園に入学。
十三歳の時に、次の聖女候補である平民のシウラディアとガウスト殿下が接近したため、シウラディアと険悪な関係になる。
そんな私の意図を汲んだ取り巻き達も、シウラディアに嫌がらせをしはじめる。私もそれを看過し、時に加担した。
――本当、シウラディアには悪いことをしちゃったなあ……。
その後、十四歳の時に大量の悪魔が襲撃。国家崩壊の危機に、シウラディアが覚醒。ガウスト殿下を蘇生させ、見事に悪魔を全滅させる。
全国民が両者を英雄と讃え、特にシウラディアの人気はもはや神格化されていった。
聖女でありながら、ガウスト殿下と結婚……つまり一国の王妃という立場が許されるなど、歴史を見ても彼女以外に居なかったくらいに。
もし私が死刑にならなければ、一生迫害されて生きることになっただろう。死刑宣告は、むしろ裁判長の優しさだったのかもしれない。
いずれにしても、私は王太子との結婚ができないと言うことが分かっている。なので、未来の王妃を目指すことはしない。そもそもなりたかったわけでもない。
剣の道を行けば、自然と王太子の婚約者候補から外れるだろう。つまり、私はこれからも剣を続ける必要がある。
だが、剣を続けるには、今のお父様に許しを得なければならない。
――いや、許しをもらうなんて絶対無理だ。
しばらくは隠れて、自主訓練することとしよう。
「よし」
当面の方針は決まった。
だが剣を続けた先は、どうなるか分からない。女は騎士になれないし、将来性は低い。
――女でも剣で職にありつける国に移住するか……
と考えたところで、ふと思い出す。
あの絵本の主人公は、世界中を旅する冒険者だった。
ベッドから降りて、本棚へ。
そこにあった絵本を一冊とって、開いた。
前生から大好きだった絵本。タイトルは『リンとロウ』。リンという少女剣士と、その相棒のロウという大狼の冒険物語。
女の子が主人公の冒険物なんて、後にも先にもこの作品しか知らない。あまり世間で人気はないが、私は大好き。
「冒険者、か」
怖いという気持ちもある、けれど……。
王族や貴族の世界で生き続ける人生よりは、楽しいかも。
コンコン。
「どうぞ」
答えて、絵本をしまう。
「失礼します」
入ってきたのは妹のレナだった。
私の二歳下だから、今は七歳のはず。こうしてきちんと姿を見るのは、前生で九歳(私が十一歳)の頃が最後だ。その時と違って、瞳に生気があふれている。
「お姉様、大丈夫ですか?」
心配そうに近づいてくる。
私と同じブロンドだけど、似てるのはそれくらい。
肌は剣の鍛錬をしている私よりもずっと白く、少し垂れた目は円くて愛らしい。
――こんなに可愛かったっけ?
思わずびっくりしてしまった。
精神年齢が上がって、小さい子が可愛く見えるようになったのもあるかもしれない。
いやでも、それにしても、可愛い! 天使!
「……うん、大丈夫よ。ごめんね、心配かけて」
なんとか平静を心がけて、そう答えた。
レナはなにかを言おうとしたが、言葉が出なかったか、小さく頭を左右に振った。
――世界一可愛い生き物が目の前に居た。
思わず近づいて、抱きしめてしまう。
自分でも不思議なくらい、この子への愛情が溢れて、止まらない。
「わざわざ来てくれて、ありがとう」
レナは少し戸惑ったようだが、少しして、抱き返してくれた。
†
レナは九歳の頃、家族で移動中に野盗の襲撃に遭う。
私とレナは同じ馬車だったが、御者とともに三人で走って逃げた。だが、途中でつまずいたレナだけが捉えられてしまう。
すぐに追っ手が迫っていた中、立ち止まった私は御者に抱きかかえられて、その場を離脱させられた。
野盗の中にはギガース(小型の巨人族)も居たし、彼の判断は責められない。
けれど……、レナがこちらを見る目が、今でも脳裏で私を苛む。わずか九歳で見捨てられた時の絶望は、果たしてどれほどだっただろう。私なんかでは想像もできないに違いない。
それから十日後、騎士団がレナを保護するも、酷い有様だった。
帰ってきたレナは、他人、特に男性への極度の恐怖症を患い、外出が不可能になる。
他の貴族達からも傷物と見なされ、結婚を受けてくれる相手も居なくなってしまう。
前生における、一番のトラウマと言っても良い。
――あの襲撃の日、自分が同じ目に遭っていてもおかしくなくて。
たまたま助かった私は、レナのためにも、なんとしても我が家を王家の傍流にのし上げなければ……と、誓ったのである。
†
「今度は、私が守るから」
レナの耳元に、誓う。
「……?」
両手をレナの両肩に乗せて、そっと体を離した。
「ねえレナ。なにか私にして欲しいことは無い?」
まっすぐレナの目を見つめる。
見返すレナは、ぱっちりした瞳を二回、三回と瞬かせた。
「私、レナともっと仲良くなりたい! レナに何かあっても、レナが私を頼ってくれるような、そんな姉で居たいの」
前生でも仲が良い方だと思っていたけれど、騎士団から引き渡されて以降、レナは家族にも心を開かなくなった。
……きっと、自分一人を見捨てて逃げた卑怯者達、とでも思われていたのだろう。
そんな未来を避けたくて、気付いたらそんな言葉が口をついていた。
「それは、私もです。お姉様ともっと仲良くなりたいです」
レナが健気に言ってくれる。
「ありがとう。それじゃ、なにして欲しいかな?」
「でも、今日はお姉様のお誕生日なのに……」
「して欲しいことを言ってくれるのが、私への誕生日プレゼントだと思って」
「私がして欲しいことを言うのが、プレゼントなんですか?」
「ダメ?」
「ダメじゃないですけど、変だとは思います」
「ふふっ、私はレナのためになにかできるのが、一番幸せなのよ」
「変なお姉様」
私が小さく笑うと、レナも釣られて笑った。
笑顔がめちゃくちゃ可愛くて、悶える。
「……私、お姉様と一緒に寝たいです」
しばらく考える素振りをした後、恥ずかしそうにレナはそう呟いた。
絞り出すようなその願いに、はっ、とさせられる。
「一人で寝るのが、今でも寂しくて、時々泣いちゃうので……」
我が家のみならず、この国――オルトゥーラ王国――の貴族は、自立を尊ぶ。
親と同衾で眠るというのは、貴族として未熟である、と見なされる。
そのため、レナは六歳でお母様と寝室を分けられた。
ちなみに私は四歳の時に自分から言い出したから、寂しいとはあまり思わなかった気がする。それよりも「早く子供扱いをやめて欲しい」と思っていた。
――けど、そうか、レナはずっと寂しかったんだ……
「やっぱりダメ、ですか?」
考える私に、レナが上目遣いで見る。
「まさか」
安心させたくて、にっこりと微笑んでみる。
「そもそも貴族基訓には、こう書いてある。『両親や使用人に頼らず、自身の睡眠時間を管理すること』……つまり、姉はダメじゃないのよ」
「……? なる、ほど……?」
「親や使用人だけが禁止されているのは、大人の方が先に死んでしまうし、精神的な依存の原因にもなる。けれど、年の近い兄弟姉妹となると、交渉も必要だし、協力も必要だから。将来的にお互い協力して、時に利用し合って家を盛り立てなきゃいけないんだから、それができるならむしろ良いことなのよ」
意気を巻いてそう解説すると、レナはポカンとしていた。
――流石に七歳の子には難しかったか。
「お姉様、凄いです」
「そんなことないよ。ごめんね、難しい話しちゃって」
「あと二年で、私もお姉様みたいに賢くなれるでしょうか……」
――冷静に考えれば、九歳の子でも早かったかも。
「い、いや違うのよ、これはその……受け売りだから。私も本当は良く意味が分かってないのよ」
「そういう感じでは無いような……」
「そうだ!」
肩に置いた手を左右に揺すって、レナの言葉を強制的に中断させる。
「寝るだけじゃ無くて、お風呂も一緒にどうかしら! お互いの体を洗い合ったり、お湯の中で遊んだりするの! 楽しそうじゃない?」
勢いでゴリ押しする。
瞬間、レナの目がキラキラと輝いた、気がした。
「楽しそう!」
予想以上に反応が良くて、今度は私がポカンとする番だった。
寝室が分かれたタイミングでお風呂も侍女と二人きりになったはずだから、そちらも寂しく思っていたのかもしれない。
レナは専属侍女と仲が悪いというわけではなさそうだけど、やはり家族と使用人では、気持ちも変わるだろう。
「よし、じゃあ今日からお風呂とベッド一緒に入ろー」
そう右拳を突き上げる。
「入ろー!」
レナも嬉しそうに、勢いよく左拳を突き上げた。
私もレナも自然と笑い出す。しばらくの間、二人きりで笑いあっていた。
†
その夜。親族や関係者達を招いたパーティを適当にこなす。
事務的に終わらせた後、二人で大浴場に向かった。
侍女達にも事情を説明し、服を脱がせて貰った後は退室してもらう。
お互いの体を洗い、湯船に浸かった。
「なんだか、ちょっと緊張しちゃうね」
隣のレナを見て言う。
「はい……」
レナが小さく頷く。
実を言うと私はそうでもなかったけれど、レナはまだどこか気恥ずかしそうだった。
よくよく考えると、私も使用人以外とお風呂に入るなんて、小さい頃の母を除けば初めてだ。けれど、緊張とかはあんまり無い。むしろ嬉しいし楽しい。私は姉で年上だからかも。
ふと思い付いて、レナを後ろから抱きしめた。
レナの肌はすべすべで、暖かい。
「お姉様?」
「昔、お母様にこうしてもらってたな、って思って」
「……そうですね。膝の上に乗せてもらいながら」
「やってみよっか」
レナの体を持ち上げて、その下に脚を伸ばす。
レナと私の頭の高さがほぼ同じになった。
レナがこちらを振り返って、至近距離で見が合う。すぐにレナが視線を前に戻した。
「なんでこっち見てくれないの」
「だって、こんなに近くて……」
「まあ、普段こんなに誰かと近づかないもんね」
レナのお腹の前に手を回して、抱き寄せる。
しばらく、そうしていた。
――レナと触れ合っている箇所が、時間が、ひどく心地良い。
「ねえ、レナ」
「はい」
「不思議なの。こうしていると、レナのことがドンドン、好きになっていく気がする」
「分かります」
「大好きよ、レナ」
「私もです、お姉様」
レナが振り向く。今度はすぐに目を逸らさない。
段々と、今度は私の方が恥ずかしくなってきた。つい目を逸らすと、レナに小さく笑われた。
お風呂を終え、ナイトウェアに着替え、レナの部屋に二人で入る。
脱衣所から送り届けてくれた二人の侍女に振り向く。
「それじゃ、今夜から二人で寝るわね」
「かしこまりました」
エルザが頭を下げる。
「ルナリアお嬢様」
レナの専属侍女、フランが私を呼んだ。
「……ありがとうございます」
そう言って、フランは深々と頭を下げた。
これまでずっと、レナが寂しがっていることを気に病んでくれていたのだろう。
「お礼言われるようなことじゃないよ」
私がそう答えると、フランはゆっくり頭を上げて小さく微笑んだ。
「それじゃ、また明日」
「「お休みなさいませ」」
ドアを閉めて、レナと二人になる。
寝室に行くと、一気に眠気を覚えた。パーティのお陰で、いつもより寝る時間がかなり遅い。
「レナ」
私の隣で目をこするレナの手を引いて、二人でベッドに倒れ込む。
「お姉様」
「ん?」
「……お誕生日なのに、ご迷惑かけて申し訳ありません」
「また言う。一緒に寝たいって言われて、喜ばない姉はこの世に存在しないのよ」
「そうとも限らないかと……」
「こんな可愛い妹なら、余計にね」
掛け布団を持ち上げて、二人で包まる。
「あの、お姉様、なにかありましたか?」
エルザと似たような質問をされる。
そりゃまあ、毎日一緒に居れば分かるか。
「どうなんだろう。今日になって、急に、レナがすっごく可愛いっ、て感じるようになったの。私じゃなくて、レナが可愛くなったんじゃない?」
まあまあ嘘ではない。
「私は、別に……」
「ともかく。おしゃべりはまた明日にとっておいて、そろそろ寝ないと。明日辛いよ」
「そうですね」
レナがゆっくりと手を伸ばしてきた。
そのまま私にしがみつく。私の胸に額を押しつける。
「……お布団に入ってすぐ、こんなに暖かいなんて、夢みたいです」
私もそっと抱き返す。
「私も。こんなに気持ちよかったんだね」
お互い小さいから、体温が高めなのもあるのかもしれない。
「だいすき、です、おねえ、さま……」
段々と声が小さくなっていく。
それからすぐに、すうすう、とレナの寝息が聞こえてきた。
天使みたいな寝顔が、前生から荒んだ心を綺麗に洗って、癒やしてくれる。
改めて、何度でも、心に決めるのだ。
――今生こそ私もレナも、幸せに生きてみせる、と。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
もし「良かった」、「続きを読みたい」、「総文字数が増えたらまた見に来ようかな」などと思っていただけましたら、
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