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11歳―5―

「うぅ……」

 全身の疼痛で目を覚ます。


 見覚えのある天井と照明に、寝慣れたベッドと枕。

 ……これが幻覚で無いなら、目は普通に見えていているようで少し安心だ。


 周囲を見渡す。私の寝室だ。いつもと違って、レナもショコラも居ないけど。


 ゆっくりと体を起こす。ズキズキと淡い痛みが全身を巡る。魔力神経は通常の神経の近くにあるというから、そのせいだろう。

 アナライズを自分にかけてみると、魔力神経負荷は50%程度。体に浮かび上がらない程度までは回復してくれたらしい。


 後遺症が怖い限りだが、今のところはちょっと痛い以外はあんまり異常無さそう。


「……そうだ、レナや皆は……?」

 あのあと野盗達が援軍を引き連れた可能性だってある。

 こんなところでのんびり寝てられない!


 布団を剥いで、床に降りる。

 誰かが着替えさせてくれたのか、いつものライトブルーのネグリジェを着ていた。


 そのままドアの方に向か……おうとする前に、なんとはなしに姿見を見た。

 映ったのは、まるで見覚えの無い姿だった。


 緋色の瞳に、肩甲骨の下まで伸びた髪は、染めてもそうはならないだろう、というくらいに綺麗な白だった。肌も同様に真っ白である。

 一瞬、見知らぬ誰かが立っていたのか、と錯覚する。けれど間違いなく、鏡に映った姿だ。


「……どういうこと……?」

 と呟いてから、見覚えのある切れ長の吊り目に気付く。

 ――あれ、もしかしてこれ、私……?

 ………………

 …………

 ……


「……わぁお……」

 鏡の中に居る白髪の少女が口を丸くした。


 右手で前髪を取って見てみる。

 ――うん、真っ白だ。

 私の目がおかしくなったのだろうか……?


 コンコン。

 と、そこでノックの音がした。

 寝室を出て、リビングに出る。


「はい、どうぞ」

 反射的にそう返事すると、勢いよくドアが開く。


 入ってきたのは、蒼白な顔をしたレナだった。

「お姉様!」

 ドアを閉めるのもそこそこに、レナが駆け寄ってくる。

 そのまま私に飛びついてきたレナを、優しく抱き留めた。


「良かった、目を覚ましてくれて……」

 涙声でレナが私の胸の中で呟く。

 ……そんなレナの髪の毛は、間違いなくいつもの綺麗で愛らしい、天使のごとき金色だ。


「レナ。あの後、何も無かった?」

「はい、お姉様や私兵の皆さんのお陰で……」

「良かった、本当に……」

 心底から言って、レナを抱く力を強める。

 ――暖かくて、柔らかい、私の宝。

 小さく泣いているレナと、しばらくの間そうしていた。


 レナが無事なら、私の姿が変わったことなんて些細である。

 ……安心したら、なんだかお腹が空いてきた。

 ――そういえば、あれからどれくらい時間が経ったのだろう?

 王都の前に居たはずだから、最低でも一日は経っている計算になるけど……


「ねえレナ。私、どれくらい寝てた?」

 互いに少し体を離す。


「今日で三日目です……」

「三日!?」

 ――そりゃあ、お腹も空くわ……

 多分、水は飲ませてくれてたんだろうけど。




 その後、開いたままのドアを見て、エルザもやって来た。

「無事で良かった」と言ったら、「こっちのセリフです」と、安心や嬉しさ、それに呆れが入り交じったような、初めて見る顔で言われた。


「旦那様と奥様を呼んで参ります」

 と言って、すぐにお父様とお母様を呼んでくる。


 レナと同じような表情でやってきた二人と、ハグをした。

「もう大丈夫なの?」

 お母様の心配そうな声。

「少し体が痛むのと……あと、凄くお腹が空いてること以外は、元気です」


 と答えたら、スープを用意してくれた。ただし具は無い。使っていなかった胃が元気になるまでの間は、固形物を食べてはいけないらしい。


 スープを飲みながら、あの後の顛末を聞く。

 まず、こちら側の死者はゼロだった。野盗達が魔法にあまり精通してないのが幸いして、セレン先生を初めとした魔法隊が特に活躍したという。


 あのとき倒れていたイズファンさんも、治癒魔法を掛けた後、少しの休暇を経て、今では普通に仕事に戻っているという。

 だが私兵団の中には、重傷者も何人か出てしまった。治癒魔法では回復しきれず、今も療養中の者もいるそうだ。


 あの戦いの後は、お父様達と合流し、王都入り。

 捕らえた野盗達は騎士団に引き渡し、その時にギガース――名は確かパルアス――も連行されることとなった。

 うちの奴隷に引き取れれば、戦闘訓練の相手が増えたのに……それだけが少し残念だ。


 それから国王の許可の上、お父様だけで参謁を行う。

 国王は私が目覚めるまで王都に居て良い、と言ってくれたため、お言葉に甘えて丸一日滞在。


 その際、王宮の治癒術士に私のことを看てもらう。

 髪や肌の色が失せ、瞳が赤くなったことについて『精神的、肉体的なストレスと魔力神経の負荷により、全身の色素が壊れたため』との診断だった。


 髪や体の色素が無くなるのは、老化や生まれつき以外に、ストレスが原因になることがあるという。

 数日もすれば目が覚めるだろうと言われ、お父様とお母様は帰領を選択。領地での公務があるのも理由だけれど、私が慣れたベッドの方がよく眠れるのではないか、と考えたそうだ。

 ちなみに国王が用意してくれた帰りの護衛は、三倍以上だったらしい。


 その後、無事屋敷に着き、エルザや他の侍女、それにレナやショコラにお世話されながら、今日になった。


「……もしかしたら、色以外にもダメージが残ってるかもしれない。しばらくは安静にしていなさい。習い事なども休むように。もちろん剣を振るなんて論外だ」

 と言うお父様に、うんうん、と頷いて見せるお母様。


「はい。そうさせていただきます」

 素直に受け入れる。


「それにしても、単独で狂化状態のギガースを撃破するとはな。王宮で軽く騒ぎになったよ」

「あのときはもう、精一杯で……」

「陛下と話し合った結果、ルナのことは公表しないことにした。僅か十一歳の子供にしては目立ちすぎる。政治的にも、戦略的にも、狙われる存在になりかねない。なので、ギガースを撃破したのは、うちの私兵団、ということになっている」

「そうですね。それが良いと思います」

 そう答えると、お父様は意外そうにした。


「……てっきり文句を言われるかと思ったが」

「まさか。言ったじゃないですか。別に、剣で名声を得たいわけではありません。レナや皆を守れたなら、それで充分です」

「……そう言い切れるのか、お前は」

「言い切れますよ」

「凄いな。私がその年の頃だったら、きっと功績を奪われたと、抵抗しただろうに」

 まあ、実際は精神年齢プラス十四歳なんですけど。


「名声なんて、持っていても面倒なだけですから」

「ははっ、全く、違いない」

 思いのほか大きな声で笑ったお父様は、その後も笑いが収まらない様子だった。


 ――私が権威主義に育っていないことが、嬉しいのかも。

 少し経ってから、そんな風に予想した。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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