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11歳―3―

 アナライズで見た通り、私を真っ先に排除しようとギガースも菜の花畑まで追ってくる。

 ギガースの攻撃を避けながら、あらためて剣を持った自分のことをアナライズ。要点を絞って確認する。


=============

・右手装備 コカルト樹の木剣


・物理攻撃力 73

・物理防御力 44

・魔法攻撃力 86

・魔法防御力 60

=============


 なかなか成長は見えるけれど、ギガース相手には遠く及ばない……。


 ギガースの技術が低めだからか、ショコラの速さに慣れた私なら、回避だけなら簡単だ。

 だが、持久の差で先に疲れるのはどう考えても私だろう。どこかで攻勢に出ないと、このままあの剣で叩き潰されるだけだ。


 ――そんなこと言っても、相手はHP6000、防御力900のモンスター。

 魔力剣は遠距離に投げられる分、攻撃力が低い。

 このステータス差で、さらに弱い攻撃を仕掛けても意味など無い。


 となると、活路はエンチャントだけ。

 アナライズの表示を視界の隅で出したまま、エンチャントを掛けた。数値の違いを見てみる。


=============

・右手装備 コカルト樹の木剣+1


・物理攻撃力 167

・物理防御力 44

・魔法攻撃力 179

・魔法防御力 60

=============


 もう一回!


=============

・右手装備 コカルト樹の木剣+2


・物理攻撃力 270

・物理防御力 44

・魔法攻撃力 279

・魔法防御力 60

=============


 一回あたり、100ずつくらいアップか……

 ということは、九回重ねがけして、やっとギガースの防御力と並ぶくらい。

 そこから、さらに6000のHPを削る必要がある。


 ――考えてただけで目眩がしそう。

 二重でさえ、数分の戦いで魔力神経が浮かび上がるほどだったのだ。九重エンチャントしたまま長期戦なんて、無謀にもほどがある。


 ――せめて、もっと魔力神経が成長してからであれば。

 なんて、思っていても仕方ない。


 引き続きギガースの攻撃を避けながら、エンチャントを掛け続ける。

 三重、四重、五重、六重……

 と、七重掛けた瞬間、突き刺すような頭痛がした。それと共に、目の前が真っ白になる。


 ――ヤバッ!

 直前に見えたギガースの動きだけを頼りに、木剣で防御する。

 大砲で撃ち抜かれたような衝撃。


 一瞬意識が飛ぶ。意識を取り戻した時には、宙に浮いているのが分かった。

 受け身も取れずに菜の花畑に落ちる。そのまま地面を転がった。四回ほど転がったところで、やっと止まる。


 平衡感覚はぐちゃぐちゃで、背中を強打したせいで上手く息ができない。

 なんとか視界が戻って来た頃、飛び上がって私に剣を突き立てようとするギガースの姿が見えた。


「くっ!」

 死ぬ気で腕の補助魔法を全開! 腕の力だけでなんとか横に転がって回避した。

 剣が地面に突き刺さった衝撃で、菜の花と一緒に私の体も吹き飛ばされる。

 なんとか空中で姿勢を整えて、両足で着地。


=============

・右手装備 コカルト樹の木剣+3

=============


 視界の端で、そんな絶望的な数字が見えた。

 エンチャント四回分が、たった一撃防御しただけで吹き飛んだ、ということだ。


 けれど視界はまだモヤが掛かったようにボンヤリだし、頭痛は元気に私の脳みそをズキズキといじめている。

 ギガースが剣を抜いて、こちらに構える。


 ――これ、勝てないなあ……

 一瞬脳裏をよぎる、絶望。


 ――全くさ。十一歳の女の子にさせていい苦労じゃ無いでしょ、ホント。

 中身はプラス十四歳だとしても。


「……でも、泣き言言っても、誰も助けてくれないもんね」

 創造神だって、死ななきゃ助けてくれなかったし。次はそんな助け望めない。


 私だけの話じゃない。

 私がここで殺されて、ギガースが野盗達の元に戻れば、全滅だ。

 レナが上手く逃げ延びていなければ、前生と同じ未来が来るだけ。


「……それだけは、許せないんだ」

 さあ、そろそろ年齢だの女の子だの、って甘えは脱ぎ捨てよう。

 エンチャント。エンチャント。エンチャント。エンチャント……


 ――頭痛? 我慢しろ。

 ――目が見えない? レナがかすり傷でも負う方が重大だ。

 エンチャント。エンチャント。エンチャント。エンチャント……


 ――全身が焼けるように痛い? 名誉の痛みだよ。

 ――死ぬのが怖い? レナが野盗の慰み者になる恐怖に比べたら、へでもない。

 エンチャント。エンチャント。エンチャント。エンチャント……


 ――魔力神経が壊れたって構わない。私の体が不随になってもオールオーケー。

 ――『体もできてない幼い女の子だから負けました』なんて言い訳、誰かが許しても私が許さない。


「━━━━━━━━━━━!」

 ギガースが襲いかかってくる。 


 ――体の痛みは、最早マヒしてきた。

 ――やればできるじゃん。これでまだまだ、エンチャント出来るね!

 エンチャント。エンチャント。エンチャント。エンチャント……


「……狂化されてなかったら、もしかしたら手練れだったのかな」

 愚鈍な剣を躱して、呟く。

 返事は、もちろん無い。


「今生の貴方を殺して、レナを助ける。これは、私のワガママよ」

 そう言ったつもりだったけれど。

 もしかしたら、喋ることすらできない体になったことに気付いていないだけかもしれない。


 木剣を脇に構えて、向かってくるギガースに向けて踏み込む。

 咆哮と共に、渾身の力で斬り上げた。


=============

・右手装備 コカルト樹の木剣+71


・物理攻撃力 7270

・物理防御力 44

・魔法攻撃力 7498

・魔法防御力 60


・魔力神経強度 弱

・魔力神経負荷 1232%

=============


   †


 ……のちに、エルザ達から聞いた話では。

 月夜を切り裂くように、菜の花畑の中央から天に向かって青白い魔力の光が迸ったという。

 それは魔法に疎い者でも分かるほど、悍ましい魔力を有しており。

 身が竦むと同時に、なぜか一筋、涙がこぼれたらしい。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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