エピローグ
森での戦いのダメージも癒え、以前と同じ生活に戻れるようになった、二年生一学期の後半。
前世の死の運命を退け、私の知らない人生が始まって、早数ヶ月。
「あ、お姉様ー」
少し遅れてロマの寝室に入ると、ベッドの上からレナが手を振ってくる。
すでにショコラとロマも居るのは、もう二年生になってからおなじみの光景なのだが……
今日はさらにシウとリゼが、すでにパジャマやネグリジェ姿で待っていた。
「今夜はずいぶん多いわね?」
誰にともなく尋ねる。
「シウは私がお呼びしたんです」
レナが言う。最近、この二人は妙に仲が良い。
なにか共通の話題ができたようで、私に内緒で良く二人で居ることが多くなっていた。
――この二人がこんなに気の合う親友になるなんて、前生では想像も付かなかった。
二人が楽しそうに笑い合ってる姿を見ると、私も嬉しい。
レナを見捨てた罪が、シウを虐げた罪が、洗われるようで。
「リゼとは、今日の昼に食事に誘われてな。つい、いつも一緒に寝とることを喋ってしもうた」
最近はリゼとロマが窓口になって、王宮と聖教会の関係が急速に改善に向かっているらしい。
二人が口を揃えて私の名前を出すものだから、当初はどちらの陣営からも私に接触が多かった。「面倒だから、二人だけでなんとかして」と言ってからは、あんまりなくなったけど。
「シウラディアはともかく、リゼの方は邪魔ならお主が追い出してくれ」
「ルナリア様、お邪魔でしょうか……?」
恐る恐るといった様子でリゼが私を上目遣いで伺う。
「まさか。ドーズ先生とか王宮がうるさいだろうから、これまで誘わなかっただけよ。大丈夫そうなら一緒に寝ましょう」
「はい、どうとでもします。ありがとうございます」
「……まぁた鶴の一声で王宮を動かしよったわ」
苦笑いを浮かべてロマが言う。
「しょうがないでしょ。もう慣れたわよ」
そんな話をしながら、エルザに着替えさせて貰う。いつものとおり、お気に入りのライトブルーのネグリジェに。
みんなに招かれて、ベッドの中心に体を埋めた。
「今日も一日お疲れ様でした」
リゼが私を労う。
「疲れもあるけど、最近は毎日楽しいの方が大きいな」
「本当に、なんか少し表情変わったよな」
いつも側に居るショコラがそう評するということは、実際顔にも出ているのだろう。
「新しいことばっかりで……、こうして生きて、皆とお喋りできる毎日が、本当に嬉しい……」
真意を理解できたのは、リゼだけだろうけれど……
他の皆にも、少しは伝わってくれているだろう。私がどれだけ、この日常に恋い焦がれてきたのかを。
「それではルナリア様、私はこれで」
エルザが言って頭を下げた。
「ええ、今日も一日ありがとう。また明日もよろしくね」
「はい。お休みなさいませ」
エルザが退室していく。
それと同時に、眠気が一気に襲ってきた。思わずあくびが出て、目をこする。
「そろそろ明かり消すか」
言って、ショコラがベッドの横にあるランプに手を伸ばす。
「うん、お願い……」
辺りが暗くなる。
皆で布団をかぶって、一つのベッドに横になった。
「みんな、大好き……」
眠気の中、思わずそんな言葉が口をつく。
近くに居たレナとロマを、両手で抱きかかえた。
「あったかい……」
「……いいなあ……」
と、小さく呟いたシウの声を、私は聞き逃さない。
ロマを抱えて自分に乗せ、空いた右側にシウを手招きした。
「え、あ……」
驚いたようにシウは、遠慮して皆を見渡すが……
「ほれ、ルナリアが言うとるんじゃ。ワシらが逆らえるわけもないじゃろ」
ロマがそんなことを言って引っ張る引っ張る。
――ロマの中で私が凄い傲慢なキャラになってるみたいだけど……。
まあ、ワガママなのは自覚しているので、文句も言いづらい。
「……失礼します……」
シウが右に潜り込んでくる。
遠慮がちなシウを強く抱き寄せると、「ひゃぅ」と可愛い声で鳴いた。
おっぱいが当たる。柔らかくて気持ちいい。
「ショコラ」
次に、左側。明かりを消したショコラを呼ぶ。
レナを抱いていた腕を広げて見せた。
「……あいよ」
そこにショコラが入って、私とショコラでレナを挟んだ。
「なんか、懐かしい……」
レナが嬉しそうに笑う。
「リゼ」
「かしこまりました」
ショコラと同じように、リゼと私でシウをサンドさせる。
「えへへ、幸せ……」
ぎゅっ、とロマ以外の皆を抱き寄せた。
「欲張りじゃのう」
面白そうにそう言うロマも、私の背中に腕を回してぴったり離れない。
「うん。だって私、ワガママだから」
その言葉に反論しようとする人は、誰も居なかった。
本格的に始まった新しい人生。
何気ない一日は、幸せに包まれたまどろみの中、ゆっくりと更けていく。
†
翌朝。
起こしに来たエルザは、けれど私たちの寝顔を見て、そっと布団をかけ直すだけで出て行ったらしい。
そんな気遣いを、褒めてあげたいところではあるけれど……
ちょっと遅刻してしまったのが、褒めきれないところである。
とはいえ、そんなちょっとしたハプニングもまた、嬉しくて、楽しくて。
――仕方ないから、まあ、許す!
……それにしても面白いものだ。
前生で王太子と婚約して破滅したからって、二回目の人生で避けてたらいつの間にか可愛い女の子達に囲われるようになったんだから。
これにて『王太子と婚約すると破滅するので、二回目の人生は避けてたらいつの間にか可愛い女の子達に囲われてました』完結となります。
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