プロローグ
木槌の音が響く。
「被告人、ルナリア・ゼー・トルスギット」
裁判長が私の名前を呼んだ。
「被告人は公爵家の長女という立場でありながら、聖女シウラディア氏の不利益になる数々を積み上げてきた。例えば……」
そこから私のしてきたことを、淡々と読み上げる。
脅迫、傷害、風説の流布、殺人未遂……
「……以上の罪科により、被告人へ死刑を求刑する」
わずかにざわめく裁判所内。
読み上げられた罪のほとんどは、彼女がまだ聖女になる前のこと。シウラディアがまだ、ただの平民だった頃のものである。
「死刑は流石にやり過ぎでは無いか」というつぶやきも私の耳に届く。
……けれど、今やシウラディアは国を救った英雄。
国民感情を考えても、過去の罪を遡るのは理解できる。
誰がどう見ても、私が絶対的な悪であり、彼女は絶対的な正義。……そういうことなのだろう。
「……最後に殿下、申し伝えることなどございましたらお願いします」
裁判長は後ろを向いて、一段高い場所に居る彼に声をかけた。
殿下と呼ばれた彼……この国の王太子であり、この裁判を起こした張本人の一人、ガウスト・エル・オルトゥーラはゆっくりと立ち上がり私を見下ろす。
「一時は、君との未来を考えたこともある。だが、その裏では君がここまで人の心のない悪鬼羅刹の類いであったこと、残念でならないよ。この国の未来のために生きた聖女を貶めた罪は、その命を持って償うといい」
私をまるで部屋を這いずる虫でも見るような冷徹な目で、ガウスト殿下は言い切った。
「……私という婚約者がいたのに、他の女に現を抜かしたのは、償われないのですね」
そう言い返すと、ガウスト殿下はその目を僅かに細めた。
「被告人。発言は認めていない、黙りなさい」
と訓告した裁判長を「良い、これが最後だ」とガウスト殿下が制する。
「この国の代表として、聖女様と懇意にさせていただいたことは認める。が、現を抜かした、は君の主観に過ぎない。私はずっと、君と結婚するつもりだったよ。……こんなことになるまでは」
それはまさに口の上手い浮気男の言い訳で、思わず苦笑いがこぼれた。
「……なお本刑に対し、一切の異議申し立てや控訴は認められない」
淡々と裁判長は言い切り、木槌を二度叩いて閉廷を告げた。
†
そこからは色々と早かった。
私とガウスト殿下の婚約破棄は速やかに行われたし、牢に入る前に私の死刑の日程を聞かされた。
死刑は今からおよそ一ヶ月後。裁定から一ヶ月で死刑執行なんて、法に疎い私ですら異例の早さだと理解できる。
それほどに世間は……、殿下と聖女は、私を早く亡き者にしたいらしい。
あの裁判で言われたことは、一部私以外の者がしたことも含まれるけれど、概ね事実と言って良い。
私と殿下、それにシウラディアは、同じ中央学園のクラスメイトだった。ほとんどの罪状は、そこで行われたことである。
――言い訳させて貰えるのならば。
私は、もう、王太子妃に……いずれ王妃に、なる以外に生きる道など無かった。
好きなことも、やりたかったことも全部かなぐり捨てて、王妃になるためだけに生きてきた。
にもかかわらず。
王太子は『次期聖女候補を補佐する』という言い訳の元、シウラディアの豊満なバストに鼻の下を伸ばしてしまった。
――女は男のそういう視線、横で見てても分かるものなんですよ、殿下。
悲しいほどに起伏の乏しい私の胸では、そんなおっぱい好きの王太子を止めることができなかった。
……思い出してもムカついてくる。
もとより政略結婚、彼への恋愛感情など持ち合わせてはいない。彼もおそらくそうだっただろう。
けれど、国王陛下が決めた婚約だったのだ。いくら聖女候補とは言え、平民に現を抜かす王太子と、身分を弁えず王族に近づく平民、両者に節度を求めるのは当然じゃないか。
だが殿下は私を一蹴するだけ。王太子という後ろ盾を得たシウラディアも、それに追従する。
そんな態度に、未熟だった私はカチンと来てしまった。
それからシウラディアに強く当たるようになり、ガウスト殿下は遠回しにシウラディアの味方をして……と、ドンドン悪循環に関係が悪くなっていく。
そんな中、私の取り巻き達もシウラディアに嫌がらせをするようになっていった。暴力行為にすら及んでいた、という話も聞くようになる。
確かに、私はそれを積極的には止めなかった。
彼女達の行為がエスカレートしていき、ついに毒を盛り出した時は、さすがに止めに入ったけれど。
そんなある日。二年生になった数ヶ月後だった。
悪魔の軍勢がこの国に襲いかかるという未曾有の危機が訪れる。
その渦中、シウラディアは戦いの中で亡くなったガウスト殿下を蘇生する大魔法を成し遂げる。のみならず、戦いで亡くなった全ての命を蘇らせるという奇跡を起こした。そして蘇った殿下は、シウラディアとの絆の力で悪魔を撃破したのだ。
その一週間後、シウラディアは聖女に即位。ガウスト殿下と共に一躍国の英雄となった。
すると私の取り巻き達は、『全部ルナリアに命令された』とこれまでのシウラディアへのイジメを告発する。
シウラディアはそんな取り巻き達を信じたらしく、彼女たちを守る立場を表明、一気に私は孤立する。
元平民の彼女は、『弱い立場の者が強い者に逆らえなかった』というストーリーを信じてしまったようだった。
そんな中、私が没収した毒を処分した使用人が証言。
元取り巻き達は口をそろえ、『毒殺しようとしたルナリアを制止した』と言い出し、私が訴える真実は誰も信じてくれない。
他の罪もその調子ですべて私になすりつけられ、私を弁護する者は居ない中、あの裁判、というわけである。
†
牢に入れられ、最初は納得できなかった。
けれど、何もすることがない時間の中で、段々と気づく。
――なんだかんだ、一番かわいそうなのはシウラディアよね……
とか、
――そもそも、ガウスト殿下や取り巻きの皆から、信頼を得るようなことを何か一つでもしてきた？ ううん、していない……
と。
私はずっと、自分のことばっかりで。
なりたくもない王妃になる道しかなくなってしまった自分が世界で一番かわいそう、なんて思い込んで。
周りの人たちをないがしろにしすぎた。
――子供の頃は、剣を振るうことが好きだったっけ……。
大好きな絵本がきっかけで、幼い頃は剣士を目指し、剣の鍛錬も楽しくやっていた。
けれどそれは、九歳になった頃に父に奪われた。手の皮が固くなってしまったり、余計な筋肉が付いたら政略結婚に支障を来す、という理由で。
何日も抵抗したけれど、お父様との緊迫する日々に耐えきれず、結局頷いた。
その結果がこれだ。
――あのとき、もっと抵抗し続けていれば。
――勘当されてでも、自分が好きなことを突き詰める覚悟があれば。
――それなら、誰にも迷惑だってかけないし。
――もし同じように若くして死んでしまったとしても、私自身も幸せになれたに違いない。
……なんて後悔しても、もう遅いんだけど。
†
牢に入れられて一週間ほどして、両親が面会に来た。
両親は涙を流していた。
てっきり罵声を浴びせられると思っていたから、少し驚いてしまう。
……罵声を浴びせられたら、『貴方たちが私の好きなことを奪ったからでしょ！』って言い返してやろう、なんて思ってたのに。
「地位に目が眩んでばかりで、良い父親になれず、本当に申し訳ない……。自分の娘を政争の道具にした私を、どうか許さないでくれ。私はあのとき、お前から剣を奪うべきでは無かった……」
父はそう謝った。
全身から、力が抜けていくような気がした。
――ずるい。
恨み言を吐き出す余地すら、くれないなんて。
――もっと前から本音で話し合える関係になれていれば、こんな未来は避けられたのかな？
「……私こそ、申し訳ありません」
気づけば、そんな言葉が口をついていた。
「家名に泥を塗る、不出来な娘で」
「そんなこと……」
母が嗚咽交じりにつぶやいた。
「……最後に泣いてくれて、嬉しかったです。どうか、レナをよろしくお願いします」
レナとは妹のレナーラことだ。
二歳下で、ある事件をきっかけに、今は精神を病んで引きこもっている。
「お前がレナの分も頑張ってきたこと、分かっているつもりだ」
父が言う。
「すべてを背負わせて、本当にすまなかった」
「……お父様、お母様。お分かりでしょうが、もうここに来てはいけません。私に未練を残してると知られたら、王太子殿下や聖女への翻意と捉えられかねません。どうか、レナとお幸せに……」
長女による聖女への罪業と、心を病んだ次女を抱え、他に子供もいない一貴族。
その後の顛末を見ずに済むという点だけは、死刑で良かったと思えた。
†
それからは、本当に何の変化も無い牢屋生活。
あっという間のような、無限であったような時を経て、死刑執行の日を迎える。
手錠に付いた鎖を引かれ、死刑台にゆっくりと上らされた。
下を見ると、私の死を見に来た観衆が騒いでいた。
反対に上を見たら、空が青く澄んでいる。
うん、絶好の死刑日和。
――なんちゃって。
言われたとおりに斬首台に横たわる。
台は堅くて、ただでさえ無い胸がさらに潰される。これから死ぬ人間が寝る場所なんだから、もう少し気を利かせていただきたいものだ。
それから色々と口上があったけれど、私はもう聞いてもいない。
最後に聞こえたのは、ただ、執行官の合図の声。
――ああ……
――死にたく、ないなあ……
ザシュッ――
†
生々しい斬首の感触で、私は飛び起きた。
意図せず咳き込んで、喉を押さえる。
けれど私の首は付いていて、一体なにに咳き込んでいるのか？
我ながら不思議な生体反応である。
――って、私もう死体だったわ。
…………
……
「……え？」
――死体に……なったよね？
なんで咳をして、口が利けて、考えられてるんだろう？
とりあえず周囲を見渡す。
白。
それ以外、形容しようも無い場所だった。
左右はおろか上下すら白くて、今座っている場所も感触はあるけれど、それが何なのか分からない。透明な板でもあるのだろうか。
「パンパカパーン！」
いきなり目の前に女の人が現れた。死に直すくらいびっくりした。
「おめでとう！ 貴女は人類誕生以降、丁度一兆人目の死者となりました！」
女の人がそう言って、かがみ込んで私を見る。
歳は、よく分からない。十代のようにも見えるし、二十代にも、三十代とも見えなくも無い。
肩ほどまでの金髪に碧眼。誰が見ても美人と言えるだろう。白い肌なのに健康的に見えるのは、淡く光っているせいか。
胸元と腰元に最低限の白い布を纏うだけの服装。はしたないというレベルでは無い。布の端がふわふわと宙に浮かんでいた。
「幸運な貴女には、一度だけ回生する権利を差し上げましょう！」
首を斬られた直後にこのテンションは、胃もたれしそうだ。
「……回生？」
オウム返しに言う。
「うん。もう一度人生をやり直す、ってこと」
黙っていれば見蕩れてしまうくらいに愛らしい笑顔で、女の人は答えた。
「あの、どちら様でしょう？」
「どちら様……まあ、人類には創造神と呼ばれてたりするかな」
「創造神……」
文字通り、この世界を創ったと言い伝えられる神である。
聖教会が崇める対象であり、絶対神とか唯一神などと呼ばれることもある。
「死んで魂だけになったところ、貴女の記憶から一時的な肉体を用意して、こうしてお話しできるようにしたの」
「は、はあ……」
……まあ、信じるほかに無いのだろう。
頭のおかしい痴女、という可能性が真っ先に思い浮かんだけど、それだとこの状況の説明が付かないし。
「さらに一兆人の大台に乗ったということで特別キャンペーン、今回は希望する才能を一つ差し上げましょう！」
「そ、そんなキャンペーンしてたんですか……」
話がどんどん進んでいく。
「テンション低いね？」
不思議そうな自称創造神。
「首斬られた直後からテンション高かったら、異常ですよ」
「あはは、それもそうか。ごめんごめん、私、死なないからさ」
おかしそうに創造神はバシバシ私の肩を叩いた。
そんなに面白かっただろうか？
「まあとにかく、回生する？ 前生で後悔の一つや二つ、あるでしょう？」
「もちろん、あります」
即答。
後悔しかない人生であったと言っても過言では無い。
「じゃあ、才能はどうしようか？」
「才能……」
「なんでもいいよ。とはいえ、世界の秩序を乱すようなものは却下させてもらうけどね」
視線を下げて、考える。
創造神の胸の谷間が見えた。私より圧倒的に大きい。
そういえば、シウラディアも胸は大きかった。創造神よりも大きい。そりゃあ、憎悪もより一層強くなって当然というものだ。
……って、違う違う。今はそんな雑念は振り払って。
『人生をやり直す』
なんて、魅力的な言葉だろう。
けれど……
「……私なんかより、もっとふさわしい人が居るかと」
他人を不幸にしかしてこなかった、悪の令嬢の私よりも、ずっとふさわしい人が居るだろう。
「私から言わせれば、ふさわしくない人なんて居ない。みんな可愛い創造物だからね。でも流石に全員って訳にもいかないから、キリの良い人数で選定しているわけ」
やり直したいと思ったことなど、無数にある。回数で言えば万は下らない自信がある。
でも、このまま消えてしまった方が良いんじゃ……という思いもあるのだ。
「貴女は真面目なのね。良くも悪くも」
私の思考を読んだのか、そう言ってきた。まあ、本当に神様なら、読心術が使えても驚かない。
「真面目とは言いません。馬鹿なだけです」
「まあ、なんにしろ、回生の譲渡はできないからねぇ。貴女が断るなら、このまま一兆人記念は無かったことになるだけだよ？ 前生に後悔があるなら、捨てるの勿体ないと思うけどな」
「あと、美人な巨乳女の道楽に使われるのが癪なのもあります」
「そんなこと言われても仕方ないでしょ！ 他人を容姿で差別するな、って教わらなかったのかしらこの子……」
「ふふっ、冗談ですよ」
「まったくもう……」
――ありがたい申し出だ。
願ってもない。
神なんて信じたこと無かったけれど、来生ではちゃんとお祈りとかしようかな、と思うようになっている。
私が拒否したら消えてしまうだけというのなら、答えは決まっている。
「どうか回生の奇跡を賜りますよう、よろしくお願いします」
「うんうん。それじゃ、才能はどうしようか？」
「そうですね……」
考える。
今度こそ人生を失敗しないために、欲しい才能とはなんだろう。
――ふと、やはり父の言葉が脳裏をよぎった。
『お前から剣を奪うべきでは無かった……』
剣の才能にしようか。
そう思った瞬間、心臓が跳ねたのが分かった。
また剣を握れるという期待が、私の全身を震えさせる。
次の人生は、政略結婚なんてしたくない。
いざというときに国外逃亡する必要もあるかもしれないし、その時に戦闘力があるのは助かる。
それにレナが精神を病んだ事件も、もしかしたら阻止できるかもしれない。
だがしかし、剣だと遠距離の相手になすすべが無い。また、持っていなかったり、手から離れたときに、なんの戦力も無くなってしまう危険がある。
併せて、前生では魔法の才能が皆無だった。魔法は無能という烙印を押され、ますます私の人生は王妃になるしか無くなったのだ。
そうなると――
「剣と魔法の才能が欲しいです」
そう答えた。
「うーん、さっきも言ったけど、一つだけなの。剣と魔法だと二つになっちゃう」
「あ、そうか……」
考えていたら、すっかり抜け落ちてしまった。
――二つのうち一つに絞るのであれば、剣かな……
――いやいや、魔法に絞った方が融通は利きそう……
――でもやっぱり、剣を扱いたいなぁ……
「それにしても、女の子なのに剣と魔法なんて、ずいぶん渋いね」
創造神が腕を組む。胸が強調される。もしかして挑発してるのかな？ とか頭の片隅で邪推してしまった。
「……そうですかね」
「特に剣は、どうしても筋力の差が出ちゃうから。魔法も、魔力神経は男が頑丈な傾向あるし」
魔力神経とは、体の中で魔力を伝達するため全身に巡っているものである。これが強いほど、一度に使える魔力も大きい。
「……小さい頃、女の子が一振りの剣と、相棒の狼と旅をする物語を読んだんです。それが、私は凄く好きで。剣の鍛錬も、楽しくて。性に合ってたんだと思います。それを奪われてから、全部の人生の歯車が狂っちゃったから。だからそれを取り戻したい。……笑われるかもしれませんね」
「笑わないよ。好きなものを奪われたのは、辛かったでしょう」
「はい。だから、向いてるとか向いてないとか、どうでも良くて。好きだから、剣を握って生きていきたい」
「良いね、最高じゃん」
創造神が、それまでと違う微笑を浮かべた。
「じゃあ、魔法剣の才能はどうかしら？」
創造神が閃いたように右手の人差し指を立てる。
「魔法剣？」
「知らない？ あ、現代では廃れてるんだっけ。文字通り、魔法と剣の複合職のことよ」
創造神が腕をほどき、立てたままの右手の人差し指を口の前に掲げて見せる。
「その名の通り『剣にまつわる魔法』および『魔法にまつわる剣』の専門職。剣に炎をエンチャントしたり、魔力で剣を作ってそれを遠くに放ったりできる。魔力で筋肉を補助すれば、女性であるデメリットもある程度軽減できるかもね」
なるほど。確かにある意味、『剣と魔法の才能』と言えるかもしれない。
「ただ、普通の剣士や魔法使いと比べてデメリットもある。一つは、戦技の習得がほぼできないこと」
戦技とは、魔力を使わない戦闘職が習得する特殊スキルである。
周囲の敵を一時的にスタンさせる『雄叫び』や、ジャストタイミングで攻撃を弾くことで相手の体勢を極端に崩す『パリィ』などが代表的だろう。
「二つ目は、剣にまつわる魔法以外の習得が困難なこと。炎の球を飛ばしたり、傷を治療したり、ということは期待できない」
話を聞く限り、確かに取り回しづらそうな職ではある。
けれど……でも。
――『剣』に特化するという特性は、すごく素敵だ。
「……気に入ってもらえたみたいね」
「心読まないでください」
「読んでないよ。顔に出てるだけー」
イタズラに成功した少女のような笑顔。
それにつられて、私も笑ってしまったのが分かった。
創造神がこんなに愛らしい存在だったなんて、意外。
気づけば自然と、私は膝立ち、頭を下げて跪いていた。
「……ありがとうございます。回生のお恵み、謹んで拝領いたします」
「ふふっ、本当に根が真面目だねぇ。こちらこそありがとう。一兆人目が貴女で、良かった」
「そう、ですか？」
「回生させる以上は、やっぱり責任もあるからねえ。信頼できそうな子で良かったと思うよ」
「信頼だなんて……。罪も無い女の子をいじめた報いで死刑になった女です」
「それだけ聞くと死刑にする方が悪そうだけど……。まあ、いずれにしても可愛いものだと思うけどね。次の生は、どうか幸せに」
「ありがとう、ございます」
それは、回生のことだけでは無くて。前生の罪を、可愛いものだ、なんて軽く許してくれた事も含めた感謝である。
――人間からは死刑にされたけど、神には赦されたのだ。これ以上は無いだろう。
……周囲の光が強くなっていく。
眩しくて、目を細めた。
「次の生で、貴女は戦う道を選ぶみたいだから、もう一つおまけしてあげる」
頭に暖かい感触。創造神の手だろう。
「『アナライズ』……対象の性質やステータスなどが可視化できるスキル。役に立てて」
「……お礼の言葉もありません」
「どういたしまして。それじゃー、頑張ってね。応援してるから」
視界が完全に光で塞がれ、私は強く、目を閉じた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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