表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

三題噺もどき2

無意識の自傷

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくごじゅうきゅう。



※そういう表現はしてないけど一応注意※R-15にしてます※

 


 車から降りると、ヒヤリとした風がむき出しの頬を撫でた。

「さむ……」

 ぼそっと、独り言をつぶやきながら、車の鍵をかける。

 ガチャ―と、扉が開かないことを確認する。その上で、鍵をズボンのポケットの中にねじ込む。この後、どうせ鞄の中に入れるのに、この癖はどうにも治らない。

「……」

 朝のこの時間の出勤はほんとに寒い。10月に入って尚更。

 仕事中はそれなりに動いて体温が上がるので、半そでを着ている。

 その上にカーディガンを羽織ってはいるが、薄手のものだ。

 これでも動くと暑い。朝のこのタイミングだけは寒い。

「……」

 上手く調節ができないんだよなぁ……。特に今年は。

 朝はかなりこうして冷えるが、昼間は暑いぐらいの日が未だにある。

「……」

 少し駆け足気味で中へと入っていく。

 あるスーパーの仕事をしているが、今日はいつもより早めの出勤である。

 だから特に寒い。せいぜい2,30分ではあるが。

「……」

 重たい自動ドアを開く。

 中はまだ電気をつけていないのか少し薄暗い。

 鍵当番の副店長はどこだろう……ロッカーかな。

 今日があの人で良かった。店長はいつもギリギリに来るので、この仕事の時は厄介だ。

 ただでさえ時間がかかる作業に、若干の遅れが生じる。

「……」

 冷蔵機能を備えたものがあるので、店内はひんやりとしている。

 通路を奥へと進んでいき、ロッカーに向かう。とりあえず荷物を置く。

 倉庫の中へと入ると、事務所の電気がついていた。

 あ。

「おはようございます」

「ぉ、おはよー」

 少し間延びしたような返事が返ってくる。

 この店の中で、割と好意的な印象を持っているのは、数少ないのだが、副店長はそのうちの1人だ。

 ちなみに、店長は最悪レベルだったりする。第一印象が最悪だったし、対応が何にしても雑なのだ。いいところは一つもない。―ここだけの話。たまたま親戚が店長の事を知っていたのだが、その親戚にもアイツはやめろと言われたのだ。だからなおさらである。

「……」

 打刻をしに行った副店長を見送り、ロッカーに荷物を置き、準備をしていく。

 今日は裏にいるから、エプロンは後で良いとして。ペンとカッターと、念の為のメモ帳……入らないか。よし。私も早く打刻しに行こう。

「おはようございます」

「ぁ、おはようございます」

 もうひとり来た。ある男性スタッフだ。

 この人はいつも早い。

 これといった印象は全く持っていない、普通の人。あまり関わることがない。

 他の人には、どうやら避けられているようだが。特に1人の女性スタッフから。

 別に何も思うことはないと感じているが……。

 その女性スタッフの事は嫌い。

「……」

 何というか……その女性スタッフそれなりに年上なのだが。

 この人に弱みを握られでもしたら、面倒くさそうだなという感じがしている。

 面倒くさいと言うか……何だろうか。

 分かりやすく言うと、お局的存在感がしている。

 店長にも口を出すし、客にもたまに何か言っているし。

 なにより話し方が、私は苦手なのだ。どうにも、高圧的でうるさくて。

 嫌な気分になる。

「……」

 おかげで毎日辞めたいと思いながら仕事をしている。

 ……たまに思うが。私はほんとに人に恵まれない。

 実のところ、これまで何度か職を変えているが。

 その度、人に恵まれず、限界がきて倒れてやめている。

 自分が悪いのは分かっているが、どうにも限界というのがふいに訪れてしまう。

「……」

 これでも今は落ち着いている方だ。これが続くといいが。

 今日はあの人が来ないから気持ち的にも楽だし。

 ―なんてことを思いつつ、打刻を済ませ、仕事を始める。

 今日は倉庫に来ている荷物の整理をしなくてはいけない。

 朝に出すものを優先的に、摘まれている段ボールから先に片付けていく。

「……」

 大量に段ボールが乗った台車を、引っ張り出し、巻かれたビニールを外していく。

 カッターで、ビッーと、切込みをいれ、適当に引きちぎっていく。

 それを数回繰り返す。

 終わった後には、売り場別に分けていく作業がある。

 作業を黙々と進めていくうち、他のスタッフも出勤してくる。

「こっちのしてくね~」

「はぁい」

 そのうち一人が、更に奥にあるコンテナ類の仕分けを進めてくれる。

 その間にも私は、段ボールをわけ、別の台車に乗せていく。

 たまに中身がよく分からないものもあるので、カッターで切って確認したりもする。

「……」

 段ボールの整理が進み、残り一台となった。

 ……あとはこれを分けて、あっちのコンテナ類も一緒にしていって。

「……?」

 やるべきことを頭の中で整理しつつ、カーディガンの素手を軽くまくる。

 その時、撫でた腕の内側になぜか痛みが走った。

 痣でもできたのだろうか?

 そう思い、その痛みの元に視線を移す。

「ぅゎ……」

 そこには、少々大き目の傷ができていた。

 ジワリと血が滲んでいるのを見る限り、思っているより深いかもしれない。

 とは言え、表面を軽く傷つけた程度のものだろう。

「……」

 自覚した途端に走る痛みと、視界の中で滲みだす血の色。

 過去に数度、これに似たものを受けた―つけたことのある身としては、引っかかるものはある。そういう気分に浸っているわけではないが。

「……」

 いつの間にできたのやら。

 無意識にカッターで切りでもしただろうか。

 いやいや、何かに引っ掛けたのだろう。勢いが強かったのか、小さく痣すらできている。

「……」

 切り替え切り替え。

 さっさと仕事をしよう。

 この後この腕を外にさらすことにはなるが(レジの業務もあるので)、誰も気にはしまい。

 人は案外、他人のことは見ていないから。







 お題:カッター・弱み・血

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ