~ファイル27 かんちがい対決! 朝霧苺vs三島華蓮~
「さぁ、どうしたのよ? デスアダーらしくないじゃない?」
華蓮は、苺に向かって構え、掌をくいっと前へ突き出す。
「きみ、ウチのこと勘違いしてるよ! デスアダーなんかじゃないってば!」
「そう言って、油断させる気?」
「だからー・・・・・・。きみのそのカンフーに、興味があるんだって!」
「それだけのために、わざわざ美布から那須野まで来る?」
「ウチは、来たよー」
「わたくしに興味があるってことは、きっと、偵察か何かね! 受けて立ちますわ!」
「あー・・・・・・もぉー・・・・・・。ややっこしくなってきたなー」
地団太を踏む、苺。しかし、その目は、どこか楽しそうだ。
「護身のために、やらせてもらうわ! 覚悟しなさいね?」
「なんでもいいやー・・・・・・。きみのそのカンフー? 武術? ウチ、楽しみだよ!」
制服姿の女子高生が二人、向かい合う。間合いは約三メートル。
「だんだん暗くなっちゃうー。・・・・・・美布藩大円流合気柔術、朝霧苺! 参りますっ!」
「わざわざ流儀を名乗るなんて、丁寧だこと! さぁ、来るなら、おいで!」
・・・・・・スススゥーーーッ ダシュンッ!
膝の力を抜くようにして、苺は低く踏み込み、地面を思い切り蹴った。
「(! え! 速い! 高速タックル? まずいわっ!)」
キュルキュル クルルンッ ヒュバババババァァッ!
華蓮は、踏み込んでくる苺を下から突き上げるように、デッキブラシを器用に操り、柄の部分を振り上げる。
「(! なにこれ! ぼ、棒術? 軌道が読めないーっ!)」
踏み込みを止め、掌と手の甲で直撃を防いだ苺。しかし、華蓮の攻撃はまだ止まらない。
キュンッ クルンッ パパパパァンッ! クルンッ パパパパァンッ!
ブラシ側と柄の先を、左右交互に入れ替えながら、高速で打ち技を繰り出す華蓮。
小柄な苺は、その間合いに入ることすら出来ず、防戦一方。
「(やっぱり、思ったとおり! この人、ものすごく強い! 小紅と似たものを感じる!)」
「(これだけ打っても、目はじっとわたくしを見てる! この子、強い!)」
・・・・・・ヒュヒュンッ がしっ
「あ!」
華蓮が斜め上から打ち付けた柄は、苺がしっかりとキャッチ。
そして、待ってましたとばかりに、柄を掴んだまま、苺は大きく踏み込んで華蓮の懐へ。
「はいやぁーーーーっ!」
斜め下から、肘を水平に突き出し、華蓮に向かって飛び込む苺。華蓮の表情が一変する。
「(え! これ! り、裡門頂肘っ? でも、少し違う! 何、この技!)」
「(この接近戦で、この技防げる? さぁどぉだーっ?)」
苺の繰り出した技が、華蓮に迫る。華蓮は咄嗟に、カウンターで肘を突き出した。
「・・・・・・ハァァイィーッ!」
ダアァンッ! バァッチイィンッ! ゴオンッ!
肘と肘が、至近距離でぶつかり合った。肌の擦れる音と、骨のぶつかる音がした。
華蓮の持っていたデッキブラシは、横に大きく放り投げられた。
「い、いったぁーっ! すごぉい! 大円流の『茨槍』を肘で防ぐなんて!」
「いばらやり? まるで、水平型の裡門頂肘ね。あ、焦ったぁー・・・・・・」
間合いを取り直し、腰を落として掌を突き出す華蓮。苺は、自然立の構えで向かい合った。
「どうやら・・・・・・本当にデスアダー一派では、ないようね?」
「だから、最初から勘違いしてるって言ってたでしょーっ?」
「腕試し・・・・・・に来たの? わたくしの技を、体験しに?」
「そうだよ! それが言いたかったの! 言わないうちに始まっちゃったけどねー」
「なんだ・・・・・・。取り越し苦労だったのかー・・・・・・」
華蓮は、気迫を緩め、構えをふっと解く。
「えー? やめちゃうの? もっときみの技、見てみたかったのになーっ!」
「さっきの、わたくしの技、裡門頂肘と真っ正面からぶつかる技量だもの。わたくしは、あなたの実力、よーくわかりましたから! あと、本当にもう、帰らなきゃだめなの!」
「まぁ、ウチも、アポなしで押しかけちゃったし。帰る前に、ひとつだけ聞いてもいい?」
「なに?」
「デスアダーのこと、きみも、何か知ってるの? ウチはね、デスアダーは、家族の仇! だから、大円流の腕を磨きに磨いて、いつか、あいつらを捕まえてやるつもりなの!」
「! な、なんてこと! ・・・・・・あなたも、デスアダーに傷つけられた過去が?」
「時間ないから詳しく話してられないだろうけど、父と祖父が、ね・・・・・・」
苺は、スクーターに跨がり、ヘルメットをかぶった。
「朝霧苺サン。・・・・・・わたくしは、デスアダーに、たった一人の母を奪われてね。いまは、祖母と二人暮らしなのよ。今日は、その祖母の誕生日なの。だから・・・・・・」
「親を! そっか・・・・・・。そうだったんだ。だから、きみもデスアダー絡みだと、目の色変えてたわけかー。しかも、そんな日に、ごめんね? またいつか、じっくり会いたい!」
「わたくしこそ、勘違いしてごめんなさい。・・・・・・あの、これ、もしよかったら・・・・・・」
華蓮は苺に、連絡先が書かれた紙を渡した。
苺は、華蓮の目を見つめ、にこっと笑う。そして、スクーターのエンジンをかけた。
「ありがとーっ! 携帯に登録しとくね! ねぇ、今度から、華蓮って呼んでもいい?」
「なんか、あなた、屈託の無い人ね。いいわよ。わたくしも、苺チャンって呼ぶよー」
にこにこしている苺と、緩やかに笑う華蓮。
二人は手を振って、公園からそれぞれ去って行った。苺はスクーターで。華蓮は徒歩で。
「(三島華蓮、すごい技持ってそうだなぁーっ! また、手合わせしてもらおうっと!)」
「(びっくりしたなー。朝霧苺、か。合気柔術にも、あんな技があるとはねー)」
あちこちの家の窓明かりが夕闇に浮かび上がり、それらは星のように輝いていた。




