表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#4 攻める者たち! 守る者たち!
17/84

~ファイル17 小紅に降るは、温い小雨~ 

「〔・・・・・・ほ、本当か? わかった。いま、出先なんだが、すぐ、向かってみます!〕」

「お願いします! 忙しいところ、すみません」

「ミオ、どうだった? 中田巡査は?」

「うん! ここに来てくれるって。水穂、わたしたちも今から、藤山公園に行ってみよう!」

「わかった!」

「優太サンは危険なので、ここにいて下さい。中田巡査が来たら、藤山公園に行ったと伝えて下さい」

「わ、わかったよ。ぼく、この荷物、お巡りさん来たら渡すね。二人とも、気をつけて!」


 優太は道端に荷物をよけ、走っていく水穂と澪の後ろから、手を振って見送っていた。


「(小紅ちゃんもみんなも、無事でありますように。小紅ちゃん、無事に帰ってきて!)」


 雲がいつの間にか厚くなり、祈る優太の周りには、湿度と薄暗さが増してきていた。

 水穂と澪が向かった藤山公園の頂上では、こうしている間にも、岩村と小紅たちの戦いが繰り広げられている。

     

「さぁ、暴走族のひと! ウチも相手になるよ! 『きれいなまちづくり同好会』の名にかけて、デスアダーの一味を、一掃するからっ! 覚悟してよねーっ?」

「なんなんだぁ、おめぇは? まちづくりだぁ? 早乙女小紅に助太刀すんのかぁっ!」

 

 岩村は、苺に向かって、さらに声を張り上げている。

 

「苺ー・・・・・・。あんたさっきから、デスアダーをって言ってるけど・・・・・・」

「小紅さ・・・・・・きみもウチと同じく、デスアダーと因縁があるんでしょ?」

「・・・・・・えっ?」

「ウチの父と祖父はね、三年前、デスアダーの襲撃で、結果的に命を落としたの・・・・・・」

「苺・・・・・・っ! な、なんて言った? いま・・・・・・」

「おぉい! ごちゃごちゃ勝手に盛り上がってんじゃねぇよ。さぁ、おチビちゃんよぉ! もぅ後悔しても、遅ぇ! 知らねぇぞぉっ!」


 岩村は、両拳をがしんと打ち鳴らし、話している小紅と苺に猛突進。


「! 話はあとにしよっ、小紅! 相手が、来たよ!」

「! そうね! お互い、自分の命と身を守ること優先で!」

「うんっ!」


 一直線に殴りかかってくる岩村。小紅と苺は、並んで構え、迎え撃つ。

 岩村のパンチが、真横に薙ぎ払うようにして二人を襲う。小紅は、しゃがんで躱す。苺は、身をくるりと翻して横に回り込む。


「オラァッ!」


   ・・・・・・シュッ  ババッ!  ドズウンッ!


 間髪入れずに飛んでくる、岩村の拳。小紅は両腕でがっしりと防御。そのパンチの威力で、体がやや後ろにずらされる。


   ひゅんっ パシッ!  グイッ!  ぎゅるうんっ!


 横から苺が、小紅が受け止めた岩村の拳をめがけ、手を伸ばす。そして、手首を掴んで固め、一気に引っ張り込む。


「・・・・・・はぁぁいやぁーーーっ!」


   ・・・・・・ブアァッ  ドッダアァンッ!  (ゴキャッ)


「うぐおぁーっ・・・・・・。う、腕を!」


 苺の大円流合気柔術の技が炸裂。関節技を含んだ投げ技「水蓮」で、地面に叩きつけられた岩村。

 その左腕は、投げられた勢いで自重がかかり、そのまま肘は折れた。


「てぇああぁーーーっ!」


   ギュンッ!  ぐるんっ  ・・・・・・ベシイイィィッ!


 阿吽の呼吸のように、今度は小紅が攻撃。

 岩村からぱっと離れた苺の横から、小紅が前方宙返りをする勢いで、岩村の首元に踵を叩きつける「浴びせ蹴り」を見舞う。


「ぐふっ・・・・・・。しゃ、しゃらくせぇーっ!」


 岩村は、小紅の浴びせ蹴りを受けても立ち上がり、ふらつきながらも殴りかかってくる。


   ・・・・・・シュバッ  ガシ  ガシッ


「はぁいやぁーーっ!」


   ドカンッ!  ぎゅるっ  グキイッ!


 苺は岩村の右拳によるパンチを受け流し、両腕で掴んだ。そして、岩村の太腿へ膝で当て身を入れ、手首を捻り上げながら、逆関節の方向へぎりりと固める。

 たまらず、岩村は苦悶の表情を浮かべる。ぎりりぎりりと、岩村の関節が軋む。


「てえぇあぁーーーーーっ!」


   グンッ  ぐるっ  バシイイィィッ!


 動きを封じられた岩村のこめかみに、今度は小紅が、回転力を付けた手刀打ちを見舞った。


「ぐおぉ・・・・・・。ぬぬー・・・・・・こんな、女ごときにぃぃー・・・・・・」


   ググググッ・・・・・・   ブアアアァッ!   ドゴアッ!


「! うあっ! うっそぉ? ・・・・・・お、折れた腕で!」


 岩村は、折れた左腕で苺へ打撃を放った。固めていた腕を放し、吹っ飛ばされる苺。


「ふうぅー・・・・・・ふぅー・・・・・・。残念だったな、おめぇら! この岩村、タイマンじゃ、どんなことがあっても、倒されたこたぁねぇんだ! 女どもに、やられてたまるかよ」

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。苺の技で腕を折られても、あたしの技をそのまま受けても、立ち上がるなんて! ・・・・・・タフなやつだね・・・・・・。はやく倒れろっての!」

「ウチ、こんな相手は初めてだわ。痛みをこらえ・・・・・・根性で返すなんてさぁーっ!」


 息を切らす小紅と、汗を垂らす苺。共闘する二人の姿に、一年生たちは緊張で震えながらも、羨望の眼差しで表情を次第に明るくしていった。



     * * * * *



「オラアッ! オラララッ! オラオラオラオラ!」


 荒っぽいフォームで腕と拳を振り回す岩村。それをかいくぐり、あの独特な拳の形で、次々と当て身を入れる苺。

 小紅は、援護射撃のように苺と並んで高速で正拳を打ち込む。


「はいやぁーーーっ!」

「てぇあああぁーーーっ!」


   シュババッ!  ズドドォン! ズドンズドンッ!  シュビビビビッ!


「ぬおおぉ! だが・・・・・・軽ぃんだよ、おめぇらごときのパンチ! オラララァーッ!」

「しぶっといなー。・・・・・・それならば・・・・・・。・・・・・・はいやーーーっ!」


 苺は、一本拳「鏃」で、岩村のパンチをかいくぐって、腕の付け根に当て身を叩き込んだ。


「な、なんだ? う、腕が痺れてあがらねぇー・・・・・・」

「苺っ! その場にしゃがんでっ!」

「! 小紅!」


 小紅が叫んだ。咄嗟に、苺はその場に伏せる。その刹那、岩村の眼前には小紅の靴底が。


「二度と、こんなことするな! あたしの後輩をよくもやったな、ろくでなしーっ!」


   ・・・・・・ドバキャアァーッ!   ・・・・・・ずずぅんっ・・・・・・


 全体重を乗せた、小紅の横蹴りが岩村の顔面に入った。

 これにはたまらず、岩村はその場に崩れ落ちた。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。みんな・・・・・・だ、だいじょうぶ? 苺も、ありがと!」

「いーえー? 小紅との共闘、けっこうアツくなれたよっ! あー、制服、汚れちゃったな」

「「「 早乙女先輩ーっ! あ、ありがとうございました・・・・・・ 」」」


 制服のほこりを手で払う苺。松本たち三人は、小紅のところへ掛け寄り、何度も頭を下げた。


「みんな・・・・・・ごめんよ。・・・・・・あたしが、みんなを巻き込んでるんだね・・・・・・。本当にごめんっ・・・・・・。でも、無事で良かったよ!」

「先輩、よくあんな大男や怖い人たち、倒せましたね? す、すごかったですー・・・・・・」


 中根が、驚いた顔で、小紅に憧れの眼差しを向けていた。


「ははっ・・・・・・。まぁ、あたしは慣れてるから。・・・・・・って、松本、鼻血出てんじゃん! だいじ?」

「はい、まぁ、だいじです。・・・・・・痛いですけど」

「すぐに、治療した方がいいよ! ・・・・・・あいつらにやられちゃったのか・・・・・・」


 小紅は、ポケットからティッシュとハンカチを取り出し、松本の顔をすっと拭いた。


「で、でも、おれなんかより、早乙女先輩の方が・・・・・・」

「あたしはだいじ! こんなもん、傷のうちにも入らないから! さ、みんな、帰ろう」

「先輩、あの人、だれですか? スクーターのお姉さん・・・・・・」


 大山が、苺の方へ顔を向けた。苺は、倒れた岩村を見て、静かに佇んでいる。


「ああ。・・・・・・美布高の、あたしの友達。・・・・・・ほんと、今回は苺のおかげで助かったなー」


   ・・・・・・ヴォンヴォヴォヴォヴォ・・・・・・  ヴォヴォーンッ!


「! なに? あ! 待てよ、お前ーっ!」


 突如、バイクのエンジン音が響いた。小紅に掌底で吹っ飛ばされていた男が、いつの間にかバイクに跨がり、ひとり、逃げていってしまった。


「(冗談じゃねぇ。でも、ブスジマさんに、早乙女小紅以外にも邪魔者がいるって情報は、持って行けるぜー。・・・・・・情報料で、金、少しはもらえっかな? ずらかるぜ!)」


   ヴォヴォヴォヴォヴォーンッ!  ・・・・・・ヴォヴォォォー・・・・・・


 バイクの音はあっという間に、遠くへ消えていってしまった。


「・・・・・・いた! こ、小紅センパイーっ! みんなーっ! だいじだったーっ?」

「よかった、みんな無事だ! ・・・・・・あ、小紅サン! 口元、少し切れてますよ!」

「水穂! 澪! ・・・・・・ちょっと油断して食らっちゃってね。ま、どーってことないよ」


 逃げたバイクと入れ替わるようにして、水穂と澪が駆けつけた。小紅は、口元の血を親指で拭い、ハンカチできゅっときれいに拭った。

 数分後、中田巡査と警察官二人が現場に到着。状況を細かく小紅たちは話し、逃げた一名以外、暴走族「殺人毒蛇」は岩村を含め十八名、応援に来た警察官たちにその場で逮捕された。

 一年生たちは、松本が殴られた以外は、ケガはなかった。帰りは、水穂や澪のほか、警察官たちが一緒に、それぞれの家までついていってくれたようだ。

 いつのまにか、天気は霧雨。

 小紅は展望台に佇み、街の灯りを静かに眺めていた。目を細め、口を噤んで、ただ、静かに。 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ