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出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#4 攻める者たち! 守る者たち!
16/84

~ファイル16 暴走族 殺人毒蛇~ 

「「「「「 うへぁーっ! ごあぁーっ! ぐおあ! うげぇ! ぐふっ! 」」」」」

「てえぇぇああぁーーーーーっ!」


   ドオンッ!  バキャッ!  シュパパァンッ!  バチイッ!  ドギャッ!


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。あたしの後輩を、返せ! ろくでなしどもーっ!」


 岩村が次々と差し向ける手下を、小紅は無傷でバタバタと薙ぎ倒してゆく。

 手下たちが倒れる声と、小紅の気合いが、山鳴りのような音となって響き渡る。


   ・・・・・・スパパパパパパパ  ブイーン  スパパパパパパ


「気持ちいいーっ! 今から行くよって小紅にメールしたのに、反応ないんだもんなー」


 その同時刻、日暮れ空の下、柏沼市内をピンク色のスクーターが、風を切って走っていた。


「試し運転には、いい距離ーっ! 柏沼市に入りましたぁ! 原付、やっほーっ! やっぱり、免許とってよかったぁーっ!」


   スパパパパパパー  ブイーン  

   ・・・・・・キイッ


「あれっ? なんだろ? ・・・・・・叫び声? ちがう。これは気合いの声だ! どこーっ?」


 線路沿いでそのスクーターを停め、赤いヘルメットを外したのは、なんと朝霧苺。

 耳に手を当て、苺は、声のする方向を定め、顔を向けた。


「あの里山の方からだ。何かイベントでもやってるのかな! ドキドキするーっ! いってみよーっ!」


 苺は再びヘルメットを装着し、スクーターで藤山公園の方へ向かっていった。

 そこでは小紅が、燃えるような気迫で暴走族と戦っている最中であることを、苺は、まだ何も知らない。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。お前が、こいつらの頭か! さぁ、あたしの後輩を、返せ!」

 

 小紅は、二十人近い岩村の手下たちを地形や周囲のものを活かした戦い方で倒し、息を切らせながら山頂まで駆け上がってきた。


「「「 せ、せんぱぁいーっ! 」」」


 捕らわれている三人が、一気に目から大粒の涙をこぼして、大きく声を上げる。


「い、岩村さん! な、なんなんすか、こいつ! マジでやべーっすよ・・・・・・」


 岩村のすぐ前にいる男が、土ぼこりと汗にまみれた小紅の目を見て、震えだした。


「おいおい、何を震えてんだ、おめぇ? あぁっ!」

「す、すんません! でも、あの数を相手に無傷なんて、こいつ普通じゃねーっす・・・・・・」

「おい、おめぇ。たかが小娘一匹にビビってんのか! 見ろ。無傷と言っても、ヘロヘロじゃねぇか! おらぁ、おめぇも行け! おらぁっ!」


 岩村は、手下の男に鉄釘の刺さった木製バットを渡し、背中を思いっきり蹴り飛ばした。


「はぁ・・・・・・ふぅ・・・・・・。おい、あんた。やめときな。そんな震えて、既に弱腰じゃないか。・・・・・・そんなんで、あたしに勝てるわけない! 警察行って、自首しな!」


 男は、岩村の顔をちらりと見る。岩村は男を睨む。

 そして、小紅へも目を向ける。小紅は男を睨んでいない。


「(ど、どうする? でも、逆らったら、岩村さんに何されるか・・・・・・。この女は、俺じゃ勝てそうもねーしよ・・・・・・。だけど、倒せば、金がもらえるんだよな・・・・・・)」


   ・・・・・・ざしゅ   ・・・・・・ざしゅ


 一歩ずつ、岩村に向かって歩く小紅。手前の男は、もはや眼中に無い。


「よ、よっしゃ! 釘バットなら、やれる! いける! 俺はできる! うおー・・・・・・」


   パァンッ!  ドガアッ!  ドンガラガッシャァンッ!


 男が意気揚々とバットを振り上げた瞬間、小紅は男の両足を蹴り飛ばして払い、顔面へ強烈な掌底(しょうてい)打ちを叩き入れ、横にあった二台のバイクに吹っ飛ばした。あっけなく、男は倒れた。



     * * * * *



「はぁー・・・・・・はぁー・・・・・・。さぁ、残りはお前だけだ! この野郎!」

「ふん。・・・・・・ご苦労。だいぶ、いい運動になったみてぇじゃねぇか? 早乙女小紅!」


 岩村が、座っていたところから、ぬうっと立ち上がった。小紅よりも遙かに大きな体格だ。

 松本、中根、大山の三人は、小紅から発せられる闘気を自然に感じ取ったのか、声を押し殺して、ごくりと生唾を飲み込んだ。


「悪く思うな。早乙女小紅! ブスジマさんが、おめぇを倒せとの指令だ! 私怨はねぇがここで、おめぇを潰させてもらうぜ! この『殺人毒蛇(キラーパイソン)』総長の岩村(いわむら)丸助(がんすけ)がな!」

「あたしだって・・・・・・暴走族なんかとは乱闘したくなかったよ! お前らも、デスアダー一派なんだろ? あたしだけ狙えばいいのに、関係ない後輩を巻き込みやがって!」

「おめぇのせいだ、早乙女小紅。おめぇが、ブスジマさんの邪魔をしてるからだ。おめぇに関係するやつぁ、この先、もっとひでぇことになるかもしんねぇな!」

「あ、あたしのせい? ・・・・・・ふざけんな! あちこちで悪いことをしているのは、お前らじゃないか! デスアダーめ! あたしのお父さんとお母さんも、殺したくせに!」

 

 鬼気迫る表情で岩村に叫ぶ小紅。その言葉の一部を聞いた後輩たちは、お互いに、顔を見合わせている。

 

「おめぇの親なんか、知らんなぁ? デスアダーは、どこで誰を襲って、その後どうなったかまで、気にしちゃいねぇ。襲った相手が死んでても、そこまでは知んねぇんだよ!」

「この野郎っ! あたしは絶対にこの手で、家族の仇であるデスアダーを倒してやるんだ!」


 岩村は、余裕の表情を変えることなく、さらに小紅へ言葉を放つ。


「小娘のヒーローごっこが、俺たちデスアダー配下の全てを動かした。ブスジマさんはおめぇを消すまで、関係者までも攻めまくるだろうな? おめぇが原因だ、全ては!」

「だから・・・・・・あたしのせいにするな! 無関係な人を狙うな! あたしを狙えって!」

「ふはは! おめぇが調子込んで活躍するほど、おめぇの関係者を巻き込むんだぜぇ?」


 小紅は、岩村が放つ言葉に、さっきまでの強い目をした表情が少しずつ消えてゆく。

 そして、後輩三人へ、そっと目を向ける。


「(あたしが・・・・・・。あたしがやってることは、無関係な人まで巻き込んじゃうっての?)」


 顔を下げ、下唇をぎゅっと噛む小紅。視線の先には自分の拳が、ふるふると震えていた。


「ふははぁ! 今更後悔してんのかぁ? バカが! そこらのガキの悪戯を相手にしてる程度で済ませときゃ良かったのによ! もーぉ遅ぇ! ブスジマさんは、とことんおめぇを追い詰めて、消すからな? ふぅははは! デスアダーに刃向かうからだ!」

「(じーちゃん。・・・・・・あたし。じーちゃんの言いつけ、守らなかったからこうなったの? ・・・・・・違う! あたしは、街やみんなを守るために・・・・・・)」


   ・・・・・・バキィーッ!  ・・・・・・ドザァッ


「「「 ああっ! 」」」


 後輩たちが声を揃えて叫んだ。

 迷って目を伏せた瞬間の小紅を、岩村は拳で殴り飛ばした。無防備状態で顔を殴られ、大きく吹っ飛ぶ小紅。

 倒れたところへ、岩村はさらに上から、踏みつけや蹴りで追い討ちをかける。


「ふははぁ! オラァ、どうしたよ? さっきまでの威勢は、どうした! オラァ!」


 重い靴で、何度も岩村は、小紅を踏みつける。亀のように丸くなった小紅は、力を込めて踏んでくる岩村に、身を守って防ぐのみ。


「さ、早乙女先輩! がんばって! 先輩ーっ!」


 中根が、叫んだ。大山や松本も、続いて小紅へ声援を飛ばす。


「ふはは! なんだ、大したことねぇな! オラァ、観念しろ、早乙女小紅! オラッ!」

「ぐっ・・・・・・。く、くっそぉ。油断した・・・・・・。あたしとしたことが・・・・・・」


   ・・・・・・スパパパパパパー  ブイーン  スパパパパパパー


「ん? あぁ? なんだぁ? 原チャリの音?」


 その時、展望広場に苺のスクーターが到着。ライトに照らされた岩村は、足をぴたりと止めた。


   かぽっ・・・・・・  ガチッ  


 スクーターから降り、ヘルメットを脱いで、スタンドを立てて周囲を見回す苺。


「あれっ? 小紅ーっ! ウチのメールも見ないで、こんなとこで何してるのさ!」

「い、苺っ! なんであんたが、ここに? ・・・・・・ス、スクーター?」

「おぃおぃ、オラァ! なんだおめぇは? いまの状況見ろや! すっこんでろ!」

「今だ!」


   ヒュンッ!  バシッ  ごろんごろん  ざざっ


 小紅は、苺に気を取られた岩村の足を払い、地面を数回転がって間合いを取り直し、立ち上がった。


「はぁ、はぁ・・・・・・。あたしとしたことが、実戦の最中に気を抜いちゃうなんて」

「ねぇ、小紅? どういうことになってるの? ・・・・・・まぁ、ここに上がってくるまでに、ウチはだいたい察しはついたけどさーっ!」

「だいたい察しがついてんなら、わかるでしょ? 後輩が連れ去られ、デスアダーっていう悪い奴らの一味である暴走族連中から、救出してるとこ! 用があるなら、待ってて!」

「! ・・・・・・デスアダーっ? こいつらが? ・・・・・・そうか、デスアダーかぁ!」

「・・・・・・苺? なに? なんであんたまでが、構えてんのよ!」


 口元からうっすら血を滲ませ、岩村に向かって構えた小紅。その横で、苺も岩村に向かって手を開き、構えた。


「小紅・・・・・・。相手がデスアダー絡みなら、ウチもやる! この男を、倒せばいーのね?」

「なんで? これは、あたしの問題! 標的は、あたしよ? 苺は無関係なんだからさ、ちょっと、待ってよ!」

 

 苺は、小紅に対し、にこっと屈託なく笑う。しかし、その目には、なぜか小紅以上に強い闘志が宿っていた。


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