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出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#4 攻める者たち! 守る者たち!
15/84

~ファイル15 藤山公園を駈け上がれ!~ 

 藤山公園は、麓から山頂の展望広場まで、サザエの殻のような螺旋型のハイキングコースが続く里山。高さは、ちょうど標高五十メートルほど。

 小紅は、そこの麓にある小さな神社のところまで、走ってきていた。


   むー  むー  むー  むー・・・・・・


「誰よ、こんな時に・・・・・・って、いつの間にか松本から着信入ってる! かけなきゃ!」


 携帯の画面には、メールのマークと不在着信のマークが出ていた。

 小紅はすぐ、松本に電話をかけ直す。


「・・・・・・もしもし? あたしだけど! 小紅だよ! ちょっと? 松本、いまどこよ!」

「〔先輩、助けて下さい! 藤山公園の展望広場です! 三人で、つかまってます!〕」


 小紅は電話をしたまま、すぐ、山頂の方をばっと見上げた。

 すると、夕暮れの薄暗い中、視線の先にはオレンジ色の電灯がついた展望台が見える。

 そこには、数名の男と、柏沼高校の制服らしき姿の三人が見える。


「〔先輩、助けて! 怖いです! 暴走族のひとが・・・・・・うあぁっ! (ブツッ)〕」


   ・・・・・・プー  プー  プー


「ちょ、ちょっと! 松本っ? ・・・・・・くっそぉ! いま、あたしが助けにいくからね!」


 小紅は、奥歯をぎりっと鳴らし、緩んだリボンと黒いスカートを翻しながら、再び藤山公園のハイキングコースを全力で駆け上がっていった。

 展望広場では、リーダー格の岩村が暴走族の手下を従え、含み笑いをしながら、小紅が駆け上がってくるのを見下ろしている。


「おめぇらーっ! さぁ、お客さんだ! 丁重にもてなしてやれ! 早乙女小紅を倒して捕らえたやつぁ、ブスジマさんから大量の金がもらえるぞ! さぁー、やれぇーっ!」

 

 藤山公園全体に、岩村の声が響き渡った。手下たちが一斉に叫ぶ。

 

「「「「「 オオオオオオーーーッ! 」」」」」

 

   ヴォヴォンヴォヴォヴォォン!  ヴォンヴォヴォヴォンヴォヴォ!

   ヴォンヴォヴォヴォンヴォヴォ!  ヴォヴォンヴォヴォヴォォン!

 

 一斉に鳴り響く、バイクのエンジン音。

 暴走族たちは一気に、ハイキングコースをバイクで走り、小紅のもとへ向かっていった。

 二人乗りをしている者もいれば、鉄パイプを振り回している者もいる。「殺人毒蛇」と刺繍された特攻服に、地下足袋姿の者もいる。


   ヴォヴォンヴォヴォヴォォン! ヴォヴォヴォヴォヴォーーッ!


「はっ! バイクの音! ・・・・・・やっぱり、暴走族か!」


 坂を駆け上がってきた小紅は、足を止めた。

 目の前に、バイクで降りてきた手下たちが、次々と集まる。

 バイクから降り、鉄パイプや金属バット、バールのようなものまで装備し、眉間にしわを寄せ、顎を上げて小紅を威嚇。


「あぁん? どう見ても、ただの女じゃねーか? マブだぜ! マブ!」

「オラオラァ! ヒャハハ! 一発で意識飛ばして、全員で輪姦しちまおーぜ!」

「フヒャアーッ! わざわざ犯されに来やがったか! ブスジマさんからリーダーへ出た指令は、『好きにやっておしまいなさい』だそうだ! 好きにさせてもらおーや!」


   ガラン・・・・・・  ガラガラァ・・・・・・  ガキャン・・・・・・


 暴走族は、小紅の目の前に八人。

 少しずつ、凶器の金属が地面に擦れる音が、次第に増える。がらり、がらり、またがらり、と。


「おまえらもやっぱり、デスアダー絡みか! あたしの後輩を連れ去って、卑怯なやり方ね! あたし狙いなら、堂々と小細工無しで向かってきなよ! ろくでなし!」


 小紅は怯むことなく、語気を強めてさらに一歩、相手側に踏み出る。

 暴走族も次々と、小紅を見下しながらゆっくり間合いを詰めてくる。


「あぁん!? くっそ生意気な女だ、ゴルァ! てめぇら、一斉にやんぞ! いっくぞぁー」

「「「「「 オオオオァァーーーーッ! 」」」」」

「こぉんのやろぉーっ! ザコキャラはすっこんでろぉーっ! 薄汚い奴は、あたしに触るなぁーっ! 後輩をかえせぇーっ!」


 暴走族がみな、凶器を一斉に振り上げ、小紅へ向かって襲いかかってきた。

 それに対し、小紅も左右の拳を開き、目を猛禽類のように光らせ、真っ向から突っ込んでいく。

 その様子を、頂上から、リーダーの岩村が腕組みをして見ている。

 後輩三人も、涙を流しながら、小紅が戦闘モードで突っ込んでいく様子を応援していた。

     


     * * * * *



   ぱきっ!  ブンッ  バシイッ


「うがっ・・・・・・」

「うおおっ?」


   キュンッ  ドスウッドスウッ!  ヒュウンッ バキィーッ!


 小紅は近くの木の枝を折り、目の前の男二人に、葉っぱごと投げつけた。

 そして、それを目眩ましにし、右の男の顎とみぞおちへ強烈な正拳突きを二発。左の男の顎先に、足刀蹴りを入れ、一気に二人を倒す。


「てぇああああぁーーーーっ!」


   ダダダダダッ!  パパァンッパパァンッ!

   グイッ  ドガシャアァンッ! ドガァッ! バチィンッ!


 その様子に呆気にとられ、動きの止まった男へ向かって、小紅は一気に走る。往復ビンタを入れ、近くにあった金属製のゴミ箱へ、胸ぐらを掴んで頭から投げ落とし、男は倒れた。


「ケツと背中向けてバカな女だ! 後ろから犯っちまうぞ! ヒャハァァーッ!」


   キュウンッ  シュバッ  ベッキョオオォッ!  ・・・・・・どさり


 バールのようなものを持った男が、小紅の腰元めがけて後ろから襲おうとした。

 そっちに振り向くことなく、小紅は切れ味鋭い後ろ回し蹴りを放つ。

 男は側頭部を蹴られ、そのまま、ぱたりと昏倒。


「くそがぁーっ! ブスジマさんから金をもらうのは、オレだ! 早乙女小紅を、倒す!」


   ビュンッ   すすっ!  ブウン   ドッゴォーッ!


 金属バットの男が、フルスイング。これを小紅は、後ろ足だけ曲げ、空間を作って紙一重で躱す。

 糸恩流の「屈伸」の技術だった。バットが振り抜けていったあとの隙を狙って、首元に強烈な回し蹴り一閃。男は泡を吹いてその場に倒れた。


   がしっ  ばばばっ!


「ぐえっ」

「ぺっぺっぺっ・・・・・・」


 横に回り込んでいた二人の男に対し、小紅はしゃがんで右手で地面の砂を掴む。そして斜め下から、男たちの顔に向かってそれを投げつけた。たまらず男たちは、小紅から目をそらす。


   ゴキャアッ!  ギュン  バシイッ  ダダァン  ドグシャッ!


 一人の男は、金的を蹴り上げられて失神。

 もう一人は、足払いで目の前に転がされ、仰向けに倒れたところを、そのまま腹を踏みつけられ、すぐに失神。一人でバタバタと男たちを薙ぎ倒す、鬼のような強さの小紅の姿がそこにあった。

 五分も経たぬうちに、八人いた男たちは、鉄パイプを持った男ただ一人に。


「威嚇とハッタリに頼って生きてるやつに、あたしが負けるわけないんだよ! さぁ、覚悟しろ! あたしの怒りは、収まんないからな!」

「く、くそアマぁーっ! くらえ! 必殺、鉄パイプアタック!」


   だだだっ  ビュンッ   さっ  ガイイィンッ・・・・・・


 鉄パイプをさっと避ける小紅。そのまま、後ろの樹木の二又部分に鉄パイプは挟まった。


   シュンッ  ヒュッ  パパァンッ!


「ぷあっ・・・・・・」


 小紅は、その場で腰を切って、目にも留まらぬ速さの裏拳打ちを、男の顔に見舞う。


   ガシッ   グイッ  ガァンッ!  ドグウウゥッ・・・・・・   どさり


 目と鼻を押さえた男の襟首を掴み、引きつけながら小紅は頭突きと膝蹴りを叩き込んだ。

 男は、糸の切れた操り人形のように、その場に膝から崩れ落ち、白目をむいて昏倒。

 一気に八人を相手し、打倒した小紅。気迫漲る視線を上に向け、さらに駆け上がっていく。


「ほほぅ! やるじゃねぇか、あの女! おぃ、次! 行けぇ、おめぇら!」


 岩村は、さらに手下を小紅のもとへ差し向けた。バイクの音と奇声が響く。


「す、すっごい! 早乙女先輩、あんなに強かったの? せんぱい、たすけてーっ!」

「試合では、そこまで強そうに見えなかったよね? 初めて見る・・・・・・あんな早乙女先輩」

「でも、あのとおり強いし、おれたちを助けてくれるよ! 先輩、まけるなーっ!」


 捕らわれた後輩三人は、見たことない小紅の姿に困惑しながらも、希望の光を見出した表情で藤山の上から見守っていた。


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