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サーよし!2  作者: たらふく
97/413

97 リーダーシップ




―――そして翌日。



中川は、昨晩徹夜で書いた台本を手にして、颯爽と登校した。


「よーう、森上、チビ助」


中川は、先に登校していた森上と阿部の元へ駆け寄った。


「中川さん・・どしたん・・」


阿部は中川の顔を見て、驚いていた。

そう、中川はほとんど寝ておらず、目の下に「くま」ができていたのだ。


「なにがだよ」

「くまが・・」

「ああ、これ気にしねぇでいいから」

「中川さぁん・・寝てないんとちゃうのぉ」

「そんなこたぁいい。それより書いたぜ」


中川はそう言いながら、鞄の中から台本を取り出した。


「これさね」

「え・・もしかして、これ一晩で書いたん?」


阿部は台本を受け取り、ペラペラと捲った。


「そうでぇ」

「えっ!」


そこで阿部は、配役のページを見て唖然としていた。

そう、阿部と森上の名前が書かれてあったのだ。


「ちょ・・中川さん、なんで私らの名前が・・」

「おめーらにも協力してもらうぜ」

「きょ・・協力て・・いきなり言われても無理やって」


そこで森上も台本を覗きこんだ。


「ええええ~~、私ぃ、蔵王(ざおう)権太(ごんた)てぇ・・」

「森上よ、蔵王権太は、おめーしかいねぇだろ」


蔵王権太とは、影の大番長である高原由紀に想いを寄せ、知能に発達障害を抱える人物である。

そして権太は、人並み外れた大柄な体格でもあった。

それゆえ中川は、森上が適役だと思ったわけだ。


「ガムコて・・なんなん」


阿部は、花園実業高校のスケバングループの一人である、『ガムコ』と呼ばれる人物の役に充てられていた。

ちなみに『ガムコ』は、太賀誠が花園に転校して暫くしてから、痛めつけてやろうと試みたが、なんと教室の窓から逆さ吊りにされ返り討ちに遭い、誠に恐怖心を植え付けられてしまうのである。


「おめーの役、準主役級だぜ?」

「えぇ・・」

「それによ、稽古もやらねぇとな。すると、おめーら、二人で卓球の練習だぜ?せっかくなんだしよ、みんなで出ようぜ」

「そんなん言うたかて・・」

「おい、チビ助」

「なによ・・」

「芝居に参加する目的は、なんだよ」

「え・・」

「重富を獲得するためだろが」

「ああ・・」

「それならよ、おめーも卓球部員なんだ。ここは協力するってのが筋だろうが」

「まあ・・そうやけど・・」

「森上」

「なにぃ・・」

「おめーもだ。わかってるよな」

「うん・・わかったぁ」


その後、中川は重富に台本を渡し、「これを人数分コピーしろ」と命じた。


演劇部員から台本を受け取った日置は、辟易としながらも、やるしかないと決意を固め、芝居の稽古に時間を割くことにした。

それは、阿部と森上も同じだった。

一旦、ラケットは横に置くことにし、台本を手にして読み込んでいた。

そして放課後になり、日置ら四人は、演劇部の部室へ向かった。


部長である掛井は、中川のしっかりとした脚本に、正直、驚いていた。

それは他の部員も同じであった。


「これ、成功するんとちゃう?」


副部長の木村が言った。


「うん、そやな」


掛井が答えた。

演劇部員は他に、田沼(たぬま)石垣(いしがき)大川(おおかわ)三波(みなみ)の二年生が四人と、一年生の村田(むらた)と重富がいた。


「それにしても、中川さんて、すごいですよね」


田沼が言った。


「まあなあ・・」


掛井は答えにくそうにしていた。


ガラガラ・・


そこへ日置らがドアを開けて入って来た。

部員らは一斉に、日置らを見た。


「お邪魔するね」

「先生」


掛井が呼んだ。


「なに?」

「どうぞ、よろしくお願いします」


掛井が頭を下げると、他の者もそれに倣った。


「こちらこそ」

「よーう、おめーら。台本は読んだか」

「ちょっと、中川さん・・」


阿部が中川の制服を引っ張った。


「なんだよ」

「挨拶ってもんがあるやろ・・」

「ああ・・わりぃ。えー、私は芝居の監督、演出、出演者を兼ねております、中川です。どうぞよろしく」

「出演者の阿部です・・」

「森上ですぅ・・よろしくお願いしますぅ」

「うん、よろしく。ほな、早速、打ち合わせをしたいんやけど」


掛井がそう言うと、「よし、任せてくれ」と中川が答えた。


「みんな、座ってくれ」


中川がそう言うと、みんなはそれぞれ席に座った。


「今回の芝居は、愛と誠だ。この物語は結構長いが、ある意味、話のメインである花園実業高校に焦点を絞る。配役は台本に書いてある通り、太賀誠は日置先生。早乙女愛は私。高原由紀は部長さん。岩清水弘は空白だ。今見る限り、そうだなあ・・おめーがいいな」


中川は、田沼を見てそう言った。


「私・・?」

「おめー、メガネかけてっし、ちょっとひ弱そうなところがいいな」

「わかった・・」

「それと、蔵王権太は森上。ガムコは阿部。他の者は、スケバングループだ」


他の者は台本を見ながら「スケバングループ・・」呟いていた。


「そこでだ。誠さんと愛お嬢さんとの出会いや、誠さんが花園に転校する経緯などは、最初にナレーションで説明する」

「誰がナレーションするん?」


大川が訊いた。


「それは、滑舌のいい者がやってくれ。いいか、棒読みなんざ最悪だ。感情を込めて観客に語りかけるように話すんだぜ」

「なるほど・・」

「それと、これは面倒な作業だが、スカートを思い切り長くすること。床に着くくらいにな。それと化粧だ。これは派手にやってくれ。で、部長」

「なに?」

「男子の学生服は、用意してあるんだろうな」

「ああ、借りる予定はしてるけど」

「先生にピッタリのを借りるんだぜ。それと帽子もな」

「帽子・・」

「誠さんは、ここに傷があるんだ」


中川はそう言いながら、眉間を指した。


「それを隠すためさね」

「わかった」

「それと、ト書きに記してあるように、所々、ナレーションを入れる。舞台で演じるのには限界がある。描写の説明な」

「そのナレーションも、私らの誰かがやるん?」


木村が訊いた。


「そういやそうだな・・。よし、ナレーションは加賀見先生に頼むことにする。したがっておめーらは、役に専念してくれ」


こうして入念な打ち合わせが続いた。

日置は、中川の頭の良さに感心していた。

それと、一切迷いがなく、事を進めて行く実行力に、リーダシップを感じていた。


「んじゃ、今から本読みをする」


中川がそう言うと、部員たちは背筋を伸ばした。


「本読みて・・なんなん・・」


阿部が小声で訊いた。


「台本通りにセリフを読むんだ」

「へ・・へぇ・・」

「いいか、チビ助」

「なに・・」

「ぜってー照れるんじゃねぇ」

「え・・」

「ガムコに成りきるんだ」

「う・・うん・・」

「それと先生よ」

「なに?」

「先生もだ。誠さんに成りきってくれ」

「僕、太賀誠って知らないの」

「それは構わねぇ。私が指導する」


そして本読みが始まった。

けれども、当然、上手くいくはずがない。

その度に中川は「違う!」と言って、徹底して指導していた。

そんな中、森上演じる蔵王権太は、指導の必要がないくらい、ピッタリと嵌っていた。


「いいぜ~~いいぜ~~森上よ!かあ~~まさに蔵王権太だ!」

「そうなぁん・・よかったぁ」


そして当の中川といえば、見た目も話し方も、まさに早乙女愛そのものだった。


「誠さん・・どうしていつも・・火の中に飛び込もうとするの・・」

「てめぇには、関係のねぇこった」

「あのよ・・先生」


中川は、日置の棒読みに呆れていた。


「なに?」

「もっと感情を込めるんすよ!」

「込めてるんだけどなぁ」

「込めてねぇっす!いいっすか、こう言うんでぇ」


中川は日置を睨みながら「てめぇには・・関係のねぇこった!」と感情を込めて言った。


「ああ・・うん」

「うん、じゃねぇし。ほら、行きますよ。誠さん・・どうしていつも・・火の中に飛び込もうとするの・・」

「てめぇには、関係のねぇこったあ」

「あのさ・・先生よ・・」


辟易とする中川を見て、他の者たちはクスクスと笑っていた。

そう、日置はあまりにも下手くそだ、と。


「もっと真剣にやってくれよ・・」

「うーん・・やってるんだけどなぁ」

「先生は、主役なんだぜ?その主役が棒読みって、あり得ねぇだろ」

「うーん・・」

「まあいい。よし、先生よ」

「なに?」

「明日、愛と誠、全巻持ってくっから、それ読んでくれ」

「えぇ・・」

「嫌とは言わせねぇぜ。これは監督命令だ」

「命令・・」

「もう時間がねぇんだ。明日から立ち稽古が始まる。ぜってー読めよ」

「わかったよ・・」


こうして桐花学園演劇部は、来る公演に向けて動き始めたのである。

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