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サーよし!2  作者: たらふく
92/413

92 中川の人間性




―――この日の練習後。



日置と中川は、ラケットとシューズを購入するため、西藤の店へ向かっていた。


「先生よ」


中川は歩きながら声をかけた。


「なに?」

「森上さ、どうしたんだよ」


結局森上はこの日、全く感覚を取り戻せないまま、練習を終えていた。


「初日だったし、仕方がないよ」

「それにしたってよ、あいつ、すげーんだろ?」

「うん」

「なんか、落ち込んでたしよ」

「まあ、そうなるのも無理はないよ」

「大丈夫なのかねぇ」

「そこは、きみが励ましてやってよ」


日置はニッコリと微笑んだ。


「先生よ」

「なに?」

「その笑顔で、何人の女、泣かしてきたんでぇ」

「あはは」

「なに笑ってんだよ」

「きみって、ほんとに面白いね」

「っていうか、先生、独身なのかよ」

「うん」

「えええ~~!先生って、いつくなんだ?」

「今年で三十」

「ほーう、見えねぇな」

「そう?」

「二十代前半に見えるぜ」


すると日置は嬉しそうに笑った。


「彼女、いねぇのかよ」

「さあ」

「さあってことは、いるってことだな」

「きみ、そんなことはいいから」

「まあいいや。それより先生」

「なに?」

「後で、相談があるんだけど」

「それってなに?」

「後で言うよ」

「きみさ」

「なんだよ」

「僕、一応、教師なんだけど」

「へ?」

「教師に対する言葉遣い」

「あああ、忘れてた。わりぃっす」

「あはは、忘れてたって」

「いや、先生って、なんつーか、見た目は若いし、威張ってねぇし、つい忘れるんすよ」

「まあ、褒め言葉だと受け止めておくよ」


やがて二人は西藤の店に到着した。


ガラガラ・・


日置は扉を開けた。


「おお、慎吾」


西藤はカウンターで座っていた。


「おばあちゃん、久しぶりだね」

「こんばんは」


中川は、とりあえず「普通」に挨拶をした。

中川を見た西藤は、その美しさに唖然としていた。

そして「おい、慎吾」と、日置を手招きした。


「なに?」


日置は先に店へ入った。


「あの子・・誰やねん」


西藤は小声で囁いた。


「うちの部員だよ」

「ぶ・・部員・・あんな綺麗な子・・大丈夫なんか・・」


西藤は、小島のことを心配したのだ。


「大丈夫って?」


日置は、全く意味がわかってなかった。


「いや・・あんな女優みたいな子・・」

「先生、入ってもいいっすか!」


中川は入口でそう言った。


「うん、おいで」


日置は手招きをした。

そして西藤は、中川の話し方に、さらに仰天していた。


「どうも、初めまして。中川と申します」


中川は西藤の前に立ち、ペコッと頭を下げた。


「ああ・・初めまして。慎吾の祖母で西藤です」

「いやあ~先生から聞いてたんすよ!ばあちゃん、卓球の店やってるって」

「・・・」

「狭いっすね~~!」

「あんた・・関東の子か?」

「そうなんすよ!二学期になって転校してきたんす」

「そうなんや」

「もうね~父ちゃん、左遷されちまって。あはは」


西藤は、あっけらかんと話す中川に好感を持った。


「あんた、おもろい子やな」

「それっすよ、それ。先生もそう言うんすよ」

「で、慎吾。今日はなんや」

「中川さんのラケットとシューズを買いに来たの」

「そうか」

「中川さんはカットマンなの」

「よっしゃ、わかった」


そして西藤と日置は、ラケットを置いてある場所へ移動し、二人で選んでいた。


「それと、ラバーは裏と一枚ね」

「ほう、彩ちゃんと一緒やな」

「うん」

「彩ちゃんって、誰っすか」


中川が訊くと「足のサイズ、何センチ?」と日置は、話を逸らすように言った。


「23っす」

「彩ちゃんってな、慎吾の彼女や」


なんと西藤は、あっさりと暴露してしまった。

日置は、なにを言ってるんだ、という風に、西藤を睨んでいた。


「なぬっ!先生、やっぱり彼女、いるんじゃないすか」

「きみには関係ないよ」

「別に、悪いことしてるわけでもないんやから、ええがな」

「おばあちゃん・・」


日置は呆れていた。


「別に、ええがな、な?」


西藤は中川を見て言った。


「そうっすよ!」

「あのね、おばあちゃん」

「なんや」

「教師がプライベートなこと、生徒にペラペラと話すわけないでしょ」

「ほら、これやねん」


西藤は、また中川にそう言った。


「慎吾な、真面目すぎるんや」

「なるほど、そうっすよね」

「もう僕のことはいいから」


日置は強い口調で制した。


「先生、わりぃわりぃ」

「まったく・・」

「これ以上は訊かねぇっす」

「ところで慎吾」


西藤も日置の意を察し、話を変えた。


「なに?」

「部員は、結局、何人いてんねや」

「三人だよ」

「三人か・・」

「どうかしたの?」

「来年、どないすんねや」


西藤は、団体のインターハイ予選のことを言った。


「ああ・・」


日置もそのことだと理解した。


「今のままやったら、団体、出られへんで」

「うん、そうなんだよね」

「来年、部員が入ったとしても、戦力にはならへんで」


インターハイ予選は、五月にある。

新入部員が入ったとしても、単なる数合わせでしかなく、たったの二カ月弱で、勝てる選手を育てられようはずもないのだ。


「うん」

「せっかく森上さんいう、大物がいてんのに、人数が足りんで、みすみす逃すのはもったいないで」

「西藤さん、森上、知ってんすか!」

「知ってる、知ってる。試合も観たしな」

「おおっ、なんの試合っすか」

「一年生大会や」

「え・・それって、十二月にあるんじゃないんすか」

「森上さんが出たのは、シングルの一年生大会だよ」


日置が言った。


「ほーう、そうなんすね」

「十二月は無理や」


西藤は中川に言った。


「なんでですか」

「試合は、最低でも四人おらんとあかんねや」

「それ、知ってるっすよ」

「だから、そう言うこっちゃ」

「いや、ちょっと待ってくれ」


西藤と日置は、黙ったまま中川を見た。


「先生」

「なに?」

「相談ってのは、そのことなんだよ」

「え・・?」

「団体の一年生大会のことだ」

「だから、なんなの?」

「人数が足りねぇなら、部員を増やせばいいじゃねぇか」

「きみ、なに言ってるの」


日置は、500回素振りをやり熟す者など、どこにいるんだと言いたかった。


「あのさ、先生よ」

「なんだよ」

「せっかく森上が戻って来たんだぜ?あと一人いればいいんだろ」

「人数としてはね」

「だったら、増やそうぜ」

「きみ、僕の方針知ってるよね」

「ああ、知ってるさ。やる気のない者の入部は認めない。目標はインターハイ」

「知ってるなら、わかるでしょ」

「先生こそ、なに言ってんだよ」

「なんだよ」

「団体戦に出ることが大事なんじゃねぇのか」

「だから、それは――」

「あと一人は、「お飾り」でいいじゃねぇか」

「なに言ってるの」

「私さ、チビ助から説明受けたけどよ、一番から五番まであって、三試合先に勝てばいいんだよな?」

「そうだよ」

「ならさ、その「お飾り」を五番目に出せばいいじゃねぇか」

「きみ・・試合のオーダーを決めるのは、そんなに簡単じゃないんだよ。相手があってのオーダーなんだよ」


日置は、なにもわかっていない中川に、少々、辟易としていた。


「ちげーって。1+1は2だろ。それと同じでよ、先に三つ勝つ。すると五番は関係ねぇよな」

「だから――」

「先生よ」

「なんだよ」

「森上の復帰を泣いて喜んだんじゃねぇのか」


中川は、森上から「先生が泣いていた」と聞いていたのだ。


「だったらよ、あと一人増やして、試合に出ようぜ」


西藤は思った。

監督と選手、あるいは教師と生徒というのは、いわば主従関係にある。

監督から指示を受けると、的外れや理不尽なことでない限り、大概はそれに従うものだ。

けれども中川はどうだ。

試合やオーダーのなんたるかを知らなくとも、堂々と自分の意見を述べている。

しかも、話の中身は一理あるのだ。

この中川という子は、この先、きっと日置の支えなる選手に育つであろう、と。

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