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サーよし!2  作者: たらふく
87/413

87 宴




―――その頃、日置と小島は。



「さて、今日は、彩ちゃんの行きたいところへ連れてってあげるよ」


難波へ出た二人は、手を繋いで繁華街を歩いていた。


「え・・」


小島はそう言って日置を見上げた。


「桂山の練習で疲れてるのに、あの子たちの相手をしてくれて、お礼をしなきゃね」


日置は優しく微笑んだ。


「どこでもええんですか?」

「うん、いいよ」

「ほんなら~MINAMI十字星っていう、レストランがええです」

「レストランか。でも、僕たちジャージだよ」

「いや、そこはレストランとは名ばかりで、とてもざっくばらんなお店なんです」

「へぇー、そうなんだ」

「和洋中、なんでもありで、生演奏なんかもやってるんです」

「おお、いいね」


そして二人はMINANI十字星へ向かった。

ほどなくして店に到着した二人は、店員に中へ案内された。

店内はとても広く、四人席のテーブルがいくつも並べて置かれ、その多くが会社帰りのサラリーマンや、カップルなどで埋まっていた。

このホールの他に、個室や宴会用の部屋もあり、店内はガヤガヤと賑わいを見せていた。


席に案内されて二人は向かい合って座り、ウェイトレスがメニューを日置に差し出した。

ウェイトレスは、まるでオランダかドイツの民族衣装のような制服を身に着けていた。


「お決まりになりましたら、お呼びくださいね」


ウェイトレスはそう言って、他を回っていた。


「彩ちゃん、好きなもの頼んでいいよ」


日置はそう言いながら、小島にメニューを渡した。


「先生、一緒に食べましょうか」

「ん?」

「何品か頼んで、分け合いっこしましょう」

「うん、それでいいよ。あ、僕、生ビールね」

「先生・・」


小島は神妙な声で囁いた。


「なに?」

「私も・・飲んだらあきませんか・・」

「またそれ言う」

「練習・・見ましたよね・・」

「彩ちゃん・・」

「お願いします・・先生の前だけですから」

「まったく・・きみは、ほんとにいけない子だね」

「喉・・乾いてるんです・・」

「じゃ、一杯だけだよ」

「わあ~い、やったー!」


そして小島は、枝豆やソーセージなど、ビールのつまみになるような品と、生ビールを二つ注文した。


「彩ちゃん」

「はい?」

「きみ、もしかして家でも飲んでる?」

「ああ・・まあ・・父と少しだけ・・」

「そうなんだ」

「父はお酒が強くてですね・・彩華はもう社会人や~言うて、それで晩酌を・・」

「まあ、お父さんが許してるのならいいけど、でも外では僕といる時だけだからね」

「わかってます~」


やがてテーブルにビールと料理が運ばれ、二人は「カンパーイ」と言って流し込んだ。


ゴクゴクゴク・・


小島は一気にビールを飲み干した。

驚いたのが日置だ。


「彩ちゃん・・」


日置はジョッキを持ったまま、唖然としていた。


「あっああ~~美味しいぃぃ~~」

「きみ・・そうとう強いね」

「あはは、そうなんですよ~」

「でも、もうジュースかお茶だよ」

「わかってますけど、先生、私が酔うと思てるでしょ」

「そうだし、きみ、未成年なんだからね」

「私ね、酔うたことないんです」

「え・・」

「こんなビール一杯なんか、水みたいなもんなんですよ」


小島はそう言いながら、ジョッキを日置の前に差し出した。


「それ、催促してるよね」

「してませんて~」

「先が思いやられる・・」

「なんでですか」

「二十歳になったら・・制限なく飲むでしょ」

「まあまあ~そんな先のことはええとして、ささっ、食べましょ」


その後、日置もビールを飲み干したが、小島を思いやってお代わりはせず、お茶を飲んでいた。


「僕さ、明日にでも森上の家へ行こうと思ってるんだよ」

「え・・そうなんですか」

「森上、ずっとあのままだし、そろそろご両親と話をしないと、もう森上は戻って来れない気がするんだ」

「そうですけど、先生、大丈夫なんですか」

「なにが?」

「また・・酷いこと・・言われるんとちゃいますか」

「平気だよ」

「そう・・ですか」

「それより、このまま何もしないで、森上のこと放っておくほうが辛いよ」

「なんかあったら、必ず話してくださいね」

「わかってるよ」

「絶対に一人で抱え込まんといてくださいね」

「うん、わかってる」


それでも小島は心配だった。

なんなら自分も同席したいとまで思った。


「中川、どうだった?」

「ああ、あの子、めっちゃおもろいですね」

「そうなんだよ」

「あのギャップが・・なんとも言えんですね」

「僕も、あの子には、よく笑わせられてるんだよ」

「阿部さんとの仲が気になりますけど、あんなんも今のうちですよ」

「そうだといいんだけどね」


「こちらの席へどうぞ」


ウェイトレスが、日置らの席の近くに客を案内していた。

日置と小島は、何気に客を見た。


「あっ!」


二人は同時に声を挙げた。

すると客も「ああ~~!」と言って驚いていた。

そう、客は、悦子と朝倉だったのだ。


「えっ・・慎吾と小島さん・・二人でなにやってんねや」

「あっ・・いや・・なにって・・」


日置は突然のことで、口籠っていた。


「ああ、私らこの人らと相席します」


悦子がウェイトレスにそう言った。

そして悦子と朝倉は、日置らの席に着いた。


「日置さん、小島さん、久しぶりね」


朝倉がそう言った。


「はい、お久しぶりです・・」


小島は小声で答えた。


「で、慎吾よ」

「なに?」

「二人でなにやってんや」

「ああ・・僕たち、付き合ってるの」

「え・・ええええええ~~~!」


悦子と朝倉は、同時に声を挙げた。

すると周りの客が、日置らに注目した。


「し~っ・・しっ」


日置は二人にそう言った。


「付き合うてるて・・それ、ほんまの話か?」

「ほんとだよ」

「いつからなんよ」

「小島が卒業してから」

「え・・ということは・・小島さんを在学中から狙ってたんか」

「狙ってたって・・酷い言い方だな」

「あの、悦子さん」


小島が呼んだ。


「私が先生のこと、狙ってたんです」


小島はそう言って笑った。


「ええっ」

「私、先生のこと、ずっと好きやったんです」

「えええええ~~こんなおっさん、どこがええねん」

「おっさんって、失礼よ。えっちゃん」


朝倉が言った。


「いやいや、久々にびっくりしたで。まさか慎吾と小島さんがなあ」

「でも、お似合いだと思うわ」

「で、あんたら、もう帰るんか?」


悦子はテーブルの上の皿を見てそう言った。


「いや、決めてないけど」

「よし。ほなら乾杯や」

「え・・」

「慎吾と小島さんを祝して乾杯や」


そして悦子は生ビールを四人分注文した。


「ちょっとえっちゃん」


日置が呼んだ。


「なによ」

「小島は未成年だよ」

「かっ。あんたは真面目か!」

「なんだよ」

「小島さんは社会人として働いてるんや。っんなもん、みんな飲んでるっちゅうねん。なー?」


悦子は小島を見て言った。


「そうよ、日置さん。あまり堅いこと言うと、しらけちゃうわよ」


朝倉もそう言った。


「まったく・・きみたちには順法精神ってないのか」

「かぁぁ~~酒の席で一番の禁句や」


「お待たせしました~」


そこへウェイトレスが、ビールを運んできた。


「ほーら、きたきた~」

「小島さん、気にしないで飲めばいいのよ」


朝倉はジョッキを小島の前に置いた。


「ああ、アルコール、弱いんやったら無理にとは言わへんで」

「あっ、そうだったわね。小島さん、飲んだことある?」

「あります」


小島は嬉しそうに笑った。


「そうか、それならええな」


悦子も安心した様子だった。


「んじゃ~二人を祝して~」


悦子がそう言うと、四人はジョッキを手にした。


「カンパーーイ」


すると小島はまた、一気に飲み干したではないか。


「あっああ~~美味しい~~」

「ぎぇぇ~~小島さん、もしかして、うわばみ?」

「す・・すごいわね・・」

「私、こんなん平気なんです」

「あはは、こらええやん!お代わりするか?」

「いや・・でも・・」


小島はチラリと日置を見た。


「慎吾よ」

「なんだよ」


日置は少し怒っていた。


「そんな怖い顔せんと。別にビールの一杯や二杯、かまへんがな」

「そうよ、日置さん。私たちだってバカじゃないんだから、限度は知ってるわよ」

「ひなちゃん、ビールの他に、なんか食べよか」

「そうね、なにがいいかしら」

「小島さん」


日置が呼んだ。


「はい・・」

「今日だけだからね」

「え・・」

「お代わりすれば」

「いいんですか・・」

「小島さん・・」


そこで悦子は小島の耳元で囁いた。


「今度な・・もっとええとこ連れてったる・・慎吾抜きでな・・」


すると小島はクスッと笑った。


「えっちゃん」


日置が呼んだ。


「なによ」

「余計なことしないでよね」

「っんな~せぇへんがな」


こうして日置がむくれる中、女三人は大いに盛り上がっていた。

ちなみに、悦子と朝倉は酔っぱらっていたが、小島は顔色一つ変えずに平然としていたのである。

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