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サーよし!2  作者: たらふく
85/413

85 やる気満々の中川




小島は浅野との昼食を終えて桐花へ出向き、たった今、小屋に到着したところだった。


ガラガラ・・


小島は扉を開けた。

すると中には日置だけがいた。


「え・・彩ちゃん」


日置は小島の姿を見て驚いていた。


「先生、こんにちは」


小島はそう言いながら、靴を脱いで中へ入った。


「どうしたの?」

「中川さんを見に来ました」


小島はニッコリと微笑んだ。


「そうなんだ」

「二人とも、まだなんですね」

「阿部さんはトイレ。中川さんは忘れ物したとかで、教室へ行ったよ」

「そうなんですね」

「彩ちゃん、桂山の練習は?」

「午前で終わりました」

「そっか。わざわざありがとうね」


ガラガラ・・


そこで阿部はトイレから戻って来た。


「ああ・・小島先輩」

「阿部さん、久しぶりやね」

「わあ~来てくださったんですか」


阿部は慌てて靴を履き替え、中に入った。


「部員、一人増えたらしいな」

「ああ・・はい・・」


阿部の消極的な返事の意味を、小島はわかっていた。

事情は、日置から聞いていたのだ。


「よかったな」


それでも小島は、そう言った。


「まあ・・」


日置と小島は顔を見合わせて、苦笑していた。


そこでまた、扉が開いたかと思うと「ああ~~!これがねぇと、始まらねぇ!」と言いながら、中川も戻って来た。

小島は、まさに早乙女愛のような中川を見て、驚愕していた。

日置から聞いてはいたものの、まるで本から出てきたようじゃないか、と。


「おやっ」


中川は見知らぬ小島を見てそう言った。


「いやあ~~あんたが中川さんやね!」


『愛と誠』が好きな小島は、思わず興奮していた。


「そうだよ」

「初めまして。私はここの卒業生で小島です。よろしく」

「おおっ、先輩っすか!こりゃあ~失礼したっす。中川っす」

「あはは、先生から聞いてたけど、ほんま、早乙女愛そのものやね」

「おおっ、先輩、愛と誠、知ってるんすね!」

「知ってるも何も、めっちゃ好きやねん」

「あはは、こりゃあ~いいや!」


中川はそう言いながら、手にしていたゴムで髪を括り、前髪はピンで留めた。


「卓球部に入ってくれて、ありがとうな」

「いやっ、なんかさ~成り行き上そうなんったんすけど、やると決めたからにゃあ、私はとことんやりますぜ」

「あはは、それにしてもその喋り方、なんかすごいギャップが」

「そうなんすよ。みんな驚くんっす。でも、早乙女愛も出来ますぜ」

「ええっ、そうなん?やってやって~」


すると中川は、両手を胸にあてて「誠さん・・愛は・・どんなに冷たくされても・・誠さんを追いかけずにはいられないの・・」としおらしく言った。


「きゃ~~めっちゃええやん!」


小島は思わず拍手をしていた。

阿部はこの間、ずっと不機嫌だった。


「小島さん」


日置が呼んだ。


「はい」

「そろそろ練習するから」

「あああ、すみません」

「それできみ、悪いんだけど、中川さんの素振りを見てやってくれないかな」

「もちろんです!」

「もうカットの段階に入ってるから」

「わかりました」


そして日置は阿部とラリーを、小島は中川の素振りを見た。


「よろしくっす!」


中川はラケットを持ち、小島の前に立った。


「はい、よろしく」

「では、フォアカットからやりますんで」


そして中川はラケットを振り始めた。


おお・・さすが先生が教えただけある・・

様になってるやん・・


小島は誰かに教えるという経験は初めてだ。

しかも相手は後輩だ。

それだけに、先輩と後輩という関係に、嬉しさを感じていた。


「そうそう、上手いで」

「おーす!」

「もっと右足を下げて」

「おーす!」


こうして中川は500回を目指して、懸命にラケットを振り続けた。


「小島さん」


日置が呼んだ。


「はい」

「中川さんの素振り、どう思う?」

「ええんやないですかね」

「だよね。じゃ、中川さん、今度はバックカットね」

「おーーす!」


そして中川は、バックカットも500回始めた。


うん・・バックカットも板についてる・・

もう500回、やらんでもええんとちゃうか・・

なるべく早くボールを打った方がええし・・


「先生」


小島が日置を呼んだ。


「なに?」


日置は振り向いて答えた。


「バックカットも、もうええんとちゃいますかね」

「そっか。じゃ、中川さん」

「はいっ」

「今日からボールを打とうか」

「おーーーすっ!」


中川は、やっと地獄の素振りから解放され、安堵した表情を見せた。


「それじゃ、阿部さんは小島さんとフットワーク。小島さん、カットマンとのフットワーク、教えてあげてね」

「わかりました」

「中川さん、僕がボールを出すから、きみはそれを打ち返してね」

「おーーす!」

「阿部さん」


小島が呼んだ。


「はい」


小島は日置らから一台開けて、台に着いた。


「カットとツッツキを一球ずつ混ぜて、打つからな」

「はい」

「あんたはカット打ちとツッツキ。それをフォアとバック交互に送ること」


小島はボールを八の字に送ることと、ツッッキはなるべくストップをかけることなどを丁寧に説明した。

一方で、日置は中川にボールを一球ずつ送っていた。


「確実にここへ返すこと」


日置はフォアコースを指して、時折アドバイスをしていた。


「もっと振りをシャープに」

「はいっ」


以外にも中川は、センスが良かった。

無論、ミスも連発したが、その度に「くっそーー!」と言いながら、日置に向かって行った。


やがて一時間が過ぎた頃、一回目の休憩をとることにした。


「よーう、先輩」


中川は小島に話しかけた。


「ちょっと、中川さん」


すると阿部が制するように口を挟んだ。


「なんだよ」

「お茶、淹れんといかんやろ」


お茶はやかんで沸かして、校庭の水道で冷ましていた。

阿部は、手伝えと言いたかった。


「おめーが行けよ」

「なんでやの」

「私は部室からコップを出す」

「そんなん、後でもええやん。やかん重たいねんけど」


お茶を沸かすのは、当番を決めているわけではなく、いわば交代でやっていた。

順番からすると、阿部なのだ。


「おめーさ、いつまで私に絡むつもりなんだよ」

「まあまあ、二人とも」


小島が割って入った。


「先輩。このチビ助さ、なんか知んねぇけどよ、私のことが気に入らねぇみたいでよ」

「そうなんや」


小島は阿部を見たが、阿部は目を逸らした。


「私らもな、最初の頃は、ケンカばっかりやったで」

「そうなんすか!」

「そのため、辞めるもんもいてたし、言い合いばっかりやった」

「いや、私はね、チビ助なんて相手にしてねぇーんすよ。どっちかってぇと、むしろ好意的なんすよ」

「そうか」

「それをこの野郎が、突っかかって来やがるんでぇ」

「だから、その呼び方、止めてって言うてるやん!」


阿部が怒鳴った。


「まあまあ。チビ助ってかわいいやん」


阿部は小島にそう言われ、唖然としていた。


「ほれみろ」

「私はかわいいと思うけど、阿部さんが嫌なんやったら、止めた方がええんちゃうかな」

「そうっすか」

「でもま、こんなしょーもないことで揉めてるんも今のうちや」

「どういう意味ですか」


阿部が訊いた。


「それどころやなくなるってことや」

「・・・」

「インターハイ行くためには、揉めたくても揉める暇なんかなくなるで」

「そりゃそうっすよ!」


そして阿部は黙って校庭へ出て行った。


「んじゃ、私はコップを出すっす」


中川は部室へ向かった。

日置と小島は顔を見合わせて、苦笑していた。


「先生も、大変ですね・・」


小島は小声でそう言った。


「まあね・・でも彩ちゃん、ありがとうね」

「それより、先生」

「ん?」

「なんか、三神の一年生が、明正大学へ行って、男子相手に練習してるみたいですよ」

「へぇ、そうなんだ」

「内匠頭が言うてましたけど、森上さん対策のためやないかと」

「ああ・・なるほど」


日置にも、すぐにそうだと理解できた。


「私、思うんですけど、皆藤監督は十二月の団体戦を視野に入れてるんやないかと」

「団体戦かぁ・・」


日置は彼女らを出したくても、人数が足りなければ出る以前の問題であることもわかっていた。


「あと一人、いればええんですけどね・・」

「というか、森上もいつ戻れるかわかんないよ」

「そこなんですよねぇ・・」


なんの話だ・・?


中川は二人の会話を聞いていた。


団体戦・・?

卓球って、個人競技じゃねぇのか・・

意味、わかんねぇぞ・・


「よーう、先生、先輩」


中川はコップを持って、部室から出た。


「団体戦たぁ~なんのこった」


二人は黙って顔を見合わせていた。


「あと一人いれば良いっつってたな」

「ああ・・まあ」


小島が答えた。


「つまりよ、その団体戦ってのか。それに出るためには人数が足りねぇってことだな」

「そうなんよ」

「おい、チビ助」


そこに、やかんを持って戻った阿部を呼んだ。

阿部は黙ったまま中川を見た。


「おめーに相談がある」


そう言われた阿部は、少し驚いて中川を見ていた。

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