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サーよし!2  作者: たらふく
82/413

82 あの日の写真




―――ここは桂山の体育館。



「彩華ぁ~」


この日の練習を終え、小島や他の者が更衣室で着替えていると、蒲内がいつにも増して甘い声で呼んだ。


「なに?」

「フッフ~」

「ちょ・・蒲内、なんなんよ」

「これ・・」


そこで蒲内は、一枚の写真を小島に見せた。


「ああっ!」


小島は思わず叫んだ。

そしてすぐに蒲内から写真を引き取った。


「まだあるねん・・」


蒲内はもう一枚、写真を見せた。


「かっ・・蒲内!」


小島はその写真も奪い取った。


「まだあるねん・・」

「あんたは、マジシャンかっ!」


そう、この写真は、竹下通りでクレープを食べた時のものだった。

まさに、小島は大きく口を開け、日置が食べさせ、日置も大きく口を開け、小島が食べさせた「あれ」だ。


「ちょっと、なんなんよ」


そこに彼女たちも集まって来た。


「なっ・・なんもない」

「なあ、蒲ちゃん、どしたん?」


浅野が訊いた。


「フッフ~これ~」


蒲内はそう言って、浅野に写真を見せた。


「蒲内!やめい!」


小島は奪い取ろうとしたが、浅野は写真を持って上にあげた。

そして他の者も写真を見上げた。


「きゃ~~~なによこれ~~!」

「新婚さん、いらっしゃあ~い!」

「アツアツやんか~~!」

「まあまあ~嬉しそうに~~」

「蒲内・・やってくれたな・・」


小島は、蒲内の行動に呆れていた。


「ええやん~、こういう写真って、誰でも嬉しくなるよ~」

「っていうか、これ、どこなん?」


杉裏が訊いた。


「原宿のな~竹下通りやねん~」

「へぇーー!めっちええやん!」

「で、なんで、ここで先生と彩華の写真を蒲ちゃんが撮ったん?」


岩水が訊いた。


「実はな――」


そこで蒲内は、あの日、偶然会ったことを話した。


「でもれそれって、だいぶ前やん」

「そやねん~カメラのフィルムをな~こないだやっと、全部使い切ってん~」

「ああ、なるほど。それで今ってことか」

「そやねん~」

「んで、彩華はなんでここにいてたん?」


為所が訊いた。


「それはその・・なんちゅうか・・」

「いやあ~~婚前旅行~~?」


井ノ下が言った。


「ち・・ちゃうって。先生の家に行ったんや」

「おおおおお~~!」


浅野と蒲内以外の者は、大声で叫んだ。

そう、浅野は小島が東京へ行ったことは知っていた。


「で、蒲ちゃんは、なんでここに?」


外間が訊いた。


「直樹くんと会っててん~」

「ああ~直樹くん、東京やもんな」

「そやねん~」

「しっかしま~~、先生と彩華、羨まし過ぎるやろ!」

「というか、先生、外でこんなんしはんねや」

「それやん。あの先生がなあ~」

「ほんで、彩華さ、こんなんしたあと、先生、言うたか?」


為所が訊いた。


「なにをよ」

「そうでなくちゃ」


為所は、小島をからかった。


「なっ・・言うわけないやろ!」


為所の冗談と小島の慌てぶりに、みんなは大声を挙げて笑った。


「ほな彩華~、この写真、全部あげるから~先生にも渡したってな~」


蒲内はそう言って、五枚の写真を小島に渡した。


「ああ・・ありがとう・・」


小島は照れながらも、やはり嬉しかった。

そして日置もきっと喜ぶだろうと思った。



―――ここは日置のマンション。



小島はあの後、日置のマンションへ寄った。


「でね、これですよ」


小島は日置に写真を見せた。


「あはは、蒲内さん、写真撮ってたんだ」

「そうなんですよ。まったく、油断も隙もありませんよ」

「でもいい写真だね」


日置は嬉しそうに笑っていた。


「これ、一枚、僕にくれる?」

「はい、もちろんです」

「じゃあ~、これがいいかな」


日置は、二人で嬉しそうに笑っている写真を選んだ。


「はい、どうぞ」


そして日置は写真を引き出しに仕舞った。


「明日、蒲内さんにお礼を言っといてね」

「はい」

「あ、そう言えばさ」


日置はそこで、台所へ行った。


「はい」

「部員、増えたんだよ」


日置は冷蔵庫から、缶チューハイを取り出した。


「彩ちゃんは、麦茶がいい?」

「ああ、はい」


小島はソファに座ったまま答えた。


「部員が増えたって、何人ですか」

「一人なんだけど、その子、独特な子でね」

「へぇー」

「はい、どうぞ」


日置は麦茶が入ったコップを、テーブルに置いた。


「ありがとうございます」


そして日置は小島の隣に座り、缶チューハイのプルタブを開けてゴクゴクと流し込んだ。


「転校生が来たこと、話したでしょ」

「はい」

「その子なんだよ」

「そうなんですね」

「その子さ、中川さんっていうんだけど、なかなか面白い子でね」

「へぇー」

「東京から来たんだけど、話し方がまるで男子なんだよ」

「へぇ・・男子」

「おめーよ、とか、なになにだぜっ、とか」

「あはは、そうなんですね」

「それで、見た目とのギャップがすごいんだよ」

「というと?」

「見た目は、超美人なの。だけど喋ったら男子」

「おおお、珍しいですね」

「彩ちゃん、愛と誠、好きだったよね」

「はい」

「中川は、早乙女愛、そのものなの」

「なっ・・なにいいいいい~~~!愛お嬢さんですか!」


小島は、コップを持つ手に思わず力が入った。


「あはは、すごい驚きようだね」

「わあ~~会ってみたい~~」

「まあ、中川も素人だけど、あの子はやる気があると見てるんだよ」

「そうなんですね!ぜひ、続けてほしいですね」

「これで、森上が戻って来れば、いいんだけどね」

「その後、森上さん、どうですか」

「うん、まだダメみたい」

「そうですか・・」

「またご両親に話を、と思ってるんだけど、なかなかいいタイミングが見つからなくてね」

「確かに・・難しいですよね」


そこで日置は缶チューハイを、ゴクゴクと飲んだ。


「ああ・・先生」

「ん?」

「それ・・美味しそうですね・・」

「え・・」

「いや・・美味しそうやなと・・」

「ダメだよ。きみはまだ未成年じゃないか」

「そうなんですけど・・」

「なんだよ」

「いや・・実は、この間、先輩に連れられて、お洒落なバーへ行ったんです」

「えっ!」

「でね・・そこで、なんやったかなぁ・・スクリュ・・ん?ドライブ・・」

「嘘・・まさかスクリュードライバー飲んだの?」

「あああ、それそれ。スクリュードライバーでした」

「彩ちゃん・・なにやってるの」

「ああ、いうても、一杯だけですよ」


その実、小島はアルコールには強く、初めて口にしたカクテルが美味し過ぎて、本当は三杯も飲んだのだ。

そこで日置の飲む缶チューハイに、興味を示したというわけだ。


「先輩って誰だよ」

「同じ部署の先輩ですけど」

「練習は?」

「休みの日です」

「それって、男性なの?」

「まさか!女の人ですよ」

「二人で行ったの?」

「三人です」

「二人とも女性?」

「そうですけど」

「そういうこと、僕に言ってくれないと」

「ああ・・すみません」


先生・・

焼きもち妬いてくれてる・・

あはは・・かわいいな・・


「それと、お酒はダメだからね」

「先生~、そう堅いこと言わんでも~」

「ダメダメ。それとまた行ったとしても、ジュースを飲むこと」

「はいはい、わかりました~」

「それにしても、残念だ・・」

「なにがですか?」

「そういうとこ、最初に僕が連れて行こうと思ってたのに」

「え・・」

「ああ~残念だ、残念、残念だ」


日置はそう言って小島に背中を向けた。


「先生・・怒らんといてください」


小島は日置の肩に触れた。


「・・・」

「先生・・」


すると日置はそこで振り返り「ベーッ」と舌を出した。


「なっ・・」

「あはは、いつも彩ちゃんがやってることだよ」

「もう~先生!」


そこで小島は日置から缶チューハイを奪い、ゴクゴクと飲んだ。


「ああっ!こら、ダメだよ!」

「あっああ~~!美味しかった」


小島はそう言って、カラになった缶をブラブラと振った。


「まったく、きみって子は!」

「あはは~」

「ほんとに悪い子だ」


日置はそう言って立ち上がり、冷蔵庫へ行った。

小島は、初めて日置が妬いてくれたことが、とても嬉しかった。

そして、幸せだな、としみじみ思うのであった。

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