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サーよし!2  作者: たらふく
80/413

80 友達だろ




それから三人は、漫画の話で盛り上がり、慶太郎も「愛子ちゃん」と呼ぶようになっていた。

森上も、久しぶりに声を挙げて笑っていた。

そして「中川さんて、ええ子やなあ」と思うのであった。


「お姉ちゃん、僕、あっちゃんとこ行って来る~」

「ああ、待ってぇ。一人はアカンよ~」


慶太郎が誘拐されて以降、篤裕の家へ行くにも、森上は必ず家まで送り届けるよう、恵子から言い渡されていた。


「あっちゃんって、友達の家か?」

「そうやねぇん」

「それって遠いのか」

「いやぁ・・すぐ近くやねぇん」

「え・・近くなのに、おめーが連れて行くのかよ」

「うん・・」

「そうか。よーし、慶太郎、お姉ちゃんも一緒に行ってやるよ」

「わあ~~愛子ちゃんもあっちゃんとこ行くん~」

「おーう、家の前までな」

「やったあ~~」


そして三人は外へ出て、篤裕の家に向かった。

といっても公園を挟んですぐのところだ。

三人は、あっという間に到着した。


「ほな行って来る~」

「帰る時は、電話しぃやぁ」

「わかってる~」


そう言って慶太郎は中へ入って行った。


「おい、森上よ」

「なにぃ」

「ちょっと訊くけどよ、この距離だぜ?子供の足でも五分・・いや、三分もかからねぇぜ」

「うん・・」

「おめー、もしかして、ずっと送って行ってるのか」

「うん・・」

「で、帰りは迎えに行くのか」

「うん・・」

「なんつーか・・ちょっと過保護すぎねぇか」

「仕方がないねぇん・・」

「なんでだよ」


そこで森上は、慶太郎が誘拐されたことを話した。


「そうか・・そんなことがあったのか」

「だからぁ・・仕方がないねぇん」

「まあ・・親にしてみれば心配はするだろうけどよ」

「・・・」

「ところで森上よ」

「なにぃ・・」

「先生と阿部だけど、この二人は、おめーの家の事情知ってんだろ?」

「うん、知ってるぅ」

「それが理由で練習もできねぇってこともか?」

「うん・・」

「なのにさ、なんでおめーに拘ってんだ?」

「え・・」

「いや、普通はさ、それなら仕方がねぇって思うだろ」


さすがに森上は、自分にはずば抜けた身体能力があるなどと、自慢するようなことは言えなかった。


「あら~森上さんやないの~」


そこに『よちよち』の中島が通りかかった。


「ああ・・中島さぁん」


中島は、中川を見て驚愕していた。

誰なんだ・・このスクリーンから出てきたような美少女は、と。


「こんにちは」


中川は、早乙女愛で挨拶をした。


「こんにちは~。森上さんのお友達?」

「はい。中川愛子と申します」

「いやあ~~めっちゃ綺麗やん!」

「おほほ・・」

「中川さん、転校して来てぇ~同じクラスなんですぅ」

「あらまあ~そうやったんやね。で、中川さんも卓球部なん?」

「いえぇ・・違いますぅ」

「あ・・ああ、そうやね・・」


中川は、中島の顔が少し曇ったことが引っかかった。

中島は、森上と阿部が学校へ行き、卓球をしたことで恵子が激怒したことを、田中から聞いていた。

そんな森上が卓球部員を連れてくるはずがない、と中島は咄嗟に悟ったのだ。


「今から、よちよちへ行くんよ~」


中島は慌ててそう言った。


「そうですかぁ」

「よちよちって、なんですか?」


中川が訊いた。


「年寄りがやってる、卓球部クラブなんよ~」

「へぇー卓球・・」

「ほな、またね~」


そう言って中島は、この場を去った。


「なあ、森上」

「なにぃ・・」

「中島さん、なんか変だったよな」

「別にぃ・・」

「おめー、その、よちよちってのにも関係してんのか」

「前にぃ・・そこで練習しとったんよぉ・・」

「え?」

「学校でぇ、練習できひんからぁ・・」

「あ・・ああ、そうか!慶太郎がいるもんな」

「そやねぇん」

「じゃさ、おめー、よちよちでやればいいじゃねぇか」

「だからぁ・・お母さんはぁ、また目を離すかもて・・」

「ああ・・なるほど。誘拐のことな」

「うん・・」

「おめーさ、卓球やりてぇんじゃねぇのか」

「別にぃ・・」


言いにくそうにする森上を見て、中川はそれ以上、なにも訊かなかった。

それから二人は家に戻り、学校のことや、他愛もない話を続けた。


「それでぇ・・中川さんのお父さんてぇ、仕事は何してるぅん?」

「サラリーマンだよ」

「へぇ・・」

「いきなり転勤でよ。そっれがさ~、左遷だぜ?左遷」


中川はそう言いながら「あはは」と笑った。


「え・・そうなんやぁ」

「父ちゃんさ、頑固なとこがあってよ、上司に逆らったんだぜ」

「へぇ・・」

「でも、私も母ちゃんも、全然、気にしてねぇし」

「そうなんやぁ・・」

「おめーの父ちゃんは、なにやってんだ」

「工場で働いてるぅ」

「へぇーいいじゃねぇか」

「そやなぁ・・」

「まあ~あれだな。おめーとこうやって、腹割って話して、よかったぜ」

「うん~私もぉ」

「今度は、私んち、遊びに来いよ」

「えぇ~・・無理やと思うぅ」

「なんでだよ」

「慶太郎、いてるしぃ・・」

「あはは!連れてくりゃいいだろ」

「えぇ~・・そんなん、悪いしぃ・・」

「バカ言ってんじゃねぇよ」


中川はそう言って、森上の肩をバーンと叩いた。


「もう、おめーとは友達だ」

「え・・」

「おめーは違うのか」

「そんなことないけどぉ・・」

「それなら、いいじゃねぇか」

「うん、ありがとぉ」

「いいってことよ!」


そして二人は大声で「あははは」と笑った。


森上は思った。

家でのもめ事や、日置や阿部の気遣いを心苦しく思い、塞ぎ込んでいたところに、まるで太陽のような中川が現れた。

その中川は、美人にもかかわらず、全くお高く留まるところがない。

慶太郎のことも可愛がってくれ、中川になら自分の気持ちを話してもいいのでは、と。


「あのぅ・・中川さぁん」

「なんだよ」

「実はぁ・・私ぃ・・」

「うん」

「ほんまはぁ・・卓球したいねぇん」

「おう、そうだろうよ」

「せやけどぉ・・お母さんが大反対しててぇ・・」


それから森上は、日置が『よちよち』でコーチしていること、その理由は、自分と練習するためであることも話した。

中川は、ますます不思議に思った。

なぜ、そこまでして森上を引き止めたいのか、と。

森上に、なにがあるんだ、と。


「おめーよ、一体、なにがあるんだ」

「え・・」

「おめー自身のことだよ」

「うん・・それやねんけどぉ・・」


そして森上は、自分の能力のことを話した。


「なるほどっ。それでか!」

「先生はぁ・・インターハイが目標でぇ」

「ああ、阿部が言ってたぜ」

「うん・・それでぇ・・私と千賀ちゃんを強くしようとしてくれてるねぇん」

「でもよ、二人だけでインターハイってよ、少な過ぎねぇか」

「ようわからんのやけどぉ・・」

「で、おめーは、部に戻れるかどうかもわかんねぇ、と」

「うん・・」

「もし戻れなかったら、阿部一人じゃねぇか」

「そうやねぇん・・」

「ったくよ~貧乏所帯だな」


中川は気の毒そうに苦笑した。


「中川さぁん・・」

「なんだよ」

「卓球部・・入らへぇん?」

「ええっ!私がかよ!」

「うん」

「だけどよ、素振り500回だぜ?」

「うん」

「っんな~~私には無理だ」

「そうかぁ・・」

「っていうか、おめーが戻るのが先だろ」

「そうなんやけどぉ・・」

「私のことはかまわねぇから、おめーが戻れることを考えようぜ」


そして中川は、ほどなくして森上家を後にした。

中川は、その足で『よちよち』へ向かった。


ほーう、なるほど、ここか・・


中川は『よちよち』の入口に立ち、中を覗いた。

すると、年寄り連中が頼りなく打っているではないか。


先生・・

こんな連中の相手してるのか・・

阿部との練習とは、全く別もんじゃねぇか・・


「あれ・・中川さん」


そこに日置がやって来た。


「ああっ!先生じゃねぇか」

「きみ、ここでなにやってるの?」

「ああ・・さっきまで森上んち、いたんすよ」

「そうなんだ・・」

「コーチっすよね」


中川は『よちよち』の中を指した。


「きみ、そんなことも知ってるの?」

「森上から聞いたんすよ」

「そうなんだ」

「しかしまあ・・」


中川は、また中を覗いた。


「よかったら、見学していく?」

「ええ・・」

「みんな、いい人だよ」

「先生さ・・」

「うん」

「ここでのコーチって、森上のためなんすよね」

「ああ・・まあ・・」

「阿部との練習を終えて、ここに来てるんすよね」

「そうだよ」

「そうか・・」

「それが、どうかしたの?」

「いやっ・・いいっす」


先生・・

なんて涼しい顔して・・

こんな年寄り相手にしてまで・・

森上を待ってんだな・・


「先生、私は帰るっす」

「そっか」

「頑張ってください」

「ありがとう」


日置はニッコリと微笑んだ。

そして中川は、この場を後にした。


うーん・・先生って・・普通にあんなことできるんだな・・

でもなぁ・・

素振り500回だろ・・

いやいや・・無理だって・・


こんなことを考えながら、中川は駅に向かったのである。

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