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サーよし!2  作者: たらふく
8/413

8 一度だけでいい




その後、小島は森上を家まで送って行った。

森上は「ええですぅ」と断ったが、小島は放って置けなかったのだ。


やがて森上のアパートに到着した小島は、「いじめなんて、黙ってたらますますエスカレートするで。立ち向かうんや」と言った。

けれども森上は黙ったままだ。


「まあ、今はしんどいかもしれん」

「・・・」

「せやけど、ずっと続くわけでもないし、あまり深刻にならんでもええで」

「あのぅ・・」

「なに?」

「よかったらぁ・・上がっていきませんかぁ」

「え・・あんたの家にか?」

「はいぃ」

「上がるて・・なんで」

「そのぉ・・インターハイの話をぉ・・」

「ああ~、そうなんや」

「はいぃ」

「うん、かまへんよ」


そして小島は、森上の家へお邪魔することにした。

ドアを開けると「おかえり~」と弟の慶太郎が走ってきた。


「ただいまぁ」

「お姉ちゃん~、この人誰なん~」

「学校の先輩やでぇ」

「先輩って、なに~」

「こんにちは」


小島が慶太郎に挨拶した。


「こんにちは~」


慶太郎はペコっと会釈した。


「ぼく、かわいいな」


すると慶太郎は、恥ずかしそうに森上の後ろへ隠れた。


「あがってくださいぃ」

「お邪魔します」


そして小島は部屋に上がった。

間取りは、四畳半と六畳の和室が縦に続いて、玄関の横には台所があった。

家具や、さまざまな日用品が置かれた部屋は、とても狭かった。

小島は、奥の六畳に案内され、ちゃぶ台の前に座った。


「ご両親は?」


台所に立っている森上に、小島が訊いた。


「仕事なんですぅ」

「そうなんや」

「それでぇ、いつも慶太郎はぁ、私が帰ってくるまで一人なんですぅ」


森上はそう言いながら、お茶を運んで小島の前に出した。


「ありがとう。私、小島彩華です」

「私はぁ、森上恵美子ですぅ。ほんでぇ、この子は慶太郎ですぅ」


慶太郎は、森上の横にチョコンと座っていた。


「慶太郎くんか。よろしくね」


慶太郎は、モジモジしていた。

小島は、自身の弟、篤志(あつし)の小さい頃と重ねていた。


「それでぇ、素人やったのにぃ、どうやってインターハイ、行けたんですかぁ」

「ああ、それな」


そこで小島は、日置との出会い、辛く苦しい練習の日々、ケンカしたり泣いたり、様々なことを経て全国の切符を手にしたこと、そしてベスト8に入ったことなどを話した。

森上は、小島の話を頷きながら、真剣に聞いていた。


「でも森上さん、バレー部なんやな」

「もう・・辞めましたぁ」

「え、そうなん?」

「はいぃ」

「なんで?」

「レシーブが怖いんですぅ」

「ああ~、バレーのアタックは、まるで砲弾みたいやもんな」

「そうなんですぅ」

「なあ、森上さん」

「なんですかぁ」

「卓球部に入らへんか?」

「卓球ですかぁ」

「めっちゃ楽しいで」

「でもぉ・・日置先生、人気があってぇ・・」


小島は、そらそやろ、と思った。


「ほんでぇ、私をいじめてる子ら・・日置先生のファンなんですぅ」


小島は、直ぐに察した。

現在、部員はゼロ。

そこに森上が入るとなると、マンツーマンになるわけだ。

それを恐れて、森上は躊躇したのだ、と。


「まったく・・日置先生にも困ったもんやな」


小島は苦笑した。


「でもぉ・・さっきの話・・現実なんですよねぇ」

「もちろんや」

「小島さんもぉ、素人やったんですねぇ」

「そやで」

「そうかぁ・・」

「お姉ちゃん、僕、遊びに行って来る~」


そこで慶太郎は、退屈だと思ったのか、立ち上がった。


「遠くへ行ったらあかんよぉ」

「わかってる~。あっちゃんとこ行って来る~」

「気を付けて行きやぁ」


そして慶太郎は外へ出て行った。


「かわいいな」

「そうですかぁ、やんちゃで」

「男の子は、やんちゃでちょうどええんや」

「はいぃ」

「あのな、いじめってな、相手が弱いと思うから、いじめるんや」

「・・・」

「一言でええ。バシッと言うたったら、変わるで」

「そ・・そうですかぁ・・」

「ほんで、担任の先生と、日置先生に頼ったらええ」

「・・・」

「このままやと、学校、おもろないやろ」

「はいぃ・・もう行きたくないですぅ」

「それは、あほらしいで」

「え・・」

「なんで、あんな奴らのために休まなあかんねん。そやろ?」

「そうですけどぉ・・」

「一言いうて、あかんかったら、また休んだらええやん」

「え・・」

「逃げ場はあるんや。だから、勇気をもって言えばええ」


森上は、「あかんかったら休めばいい」という小島の言葉に、少しホッとした。

そう、休めばいいのだ、と。

それは逃げていることになるが、何もしないでいるよりかは、はるかにマシだ、と。


「ええか」

「はいぃ?」

「こう言うんやで」

「え・・」

「大きな声でな、舐めとったらいてもうたるぞ!てな」

「そっ・・そんなん・・」

「その時、机を蹴飛ばしたらええ」

「ええええ~~」

「あんた、その体活かさんでどないすんのよ」

「ひぃ~・・」

「あはは、大丈夫や。あんたやったらできる」

「そ・・そうですかぁ・・」

「時に、勝負せなあかんことがあるんや。それは今やで」



そして小島は森上の家を後にした。


あの子・・ほんま優しい子なんやな・・

くそっ・・私が乗り込んで、ガツンといわせたいわ・・

頑張れ・・森上さん・・


小島はその足で、日置のマンションに寄った。


ピンポーン


呼び鈴を鳴らすと、直ぐに日置がドアを開けて出てきた。


「あ・・彩ちゃん」


日置は驚いていた。


「こんにちは」

「どうしたの?」

「ちょっと話がありまして」

「そうなんだ、上がって」


そして小島は、部屋へ上がった。

日置は、そこら中に脱ぎっぱなしの服を、慌てて片付けていた。


「あはは、先生。気を使わんでもええですって」

「いや・・」

「部屋が汚いんは、もう知ってますし」

「そうだけど・・」


日置は日置なりに、恥ずかしいと思ったのだ。


「じゃ、そこに座って」


日置はカウチソファに座るよう、促した。


「失礼します」


そして小島は座った。

その際、日置は台所へ行った。


「ああ、先生、もうええですから。座って頂けませんか」

「え・・」


日置は戸惑いながらも部屋に戻り、小島の向かい側に座った。


「話ってなに?」

「実は、私、さっきまで森上さんの家へお邪魔してたんです」

「ええっ!どうしてきみが?」

「実はですね・・」


そこで小島は、事の経緯を詳しく説明した。

日置は、話が進むにつれ、顔色が変わっていった。


「なるほど・・万引きまで」

「そうなんです」

「彩ちゃん、よく引き止めてくれたね。ありがとう」

「いいえ」

「練習はどうしたの?」

「休みました」

「そんな、休んでまで・・」


日置は小島の気持ちが、胸に刺さる思いがした。

小島は、おそらく自分を心配して、動いたに違いない、と。


「彩ちゃん、気持ちは嬉しいけど、練習を疎かにしちゃダメだよ」

「先生、私を誰やと思てるんですか」

「え・・?」

「一日休んだところで、二日分取り返します」


日置は参った、とばかりに苦笑した。


「それより、大事なんは森上さんのことです」

「うん、彩ちゃん、ほんとにありがとう。きみが止めてくれなかったら、森上は万引き犯として警察に突き出されたかもしれないね」

「そうですよ」

「感謝します」


日置はそう言って頭を下げた。


「そんな、先生、やめてください」

「彩ちゃん、ほんとにいい子だね」

「そんなん、決まってますやん」


小島は、わざとそう言った。


「僕の目には狂いはなかった。きみを好きになってよかったよ」

「先生・・」

「彩ちゃん、こっち、おいで」


日置は手を出した。

小島も日置の手を握って、日置の横に座った。

そして二人は並んで座り、日置は小島の肩を抱いた。


「彩ちゃん、好きだよ」

「私も好きです・・」


そしてこの日、二人は初めてキスを交わした。

二人はしばらく見つめ合ったままだっが「彩ちゃん、そろそろ帰りなさい」と日置が言った。


「え・・」


小島は、ある程度「覚悟」してきたのだ。

そう、泊まる、という覚悟を。


「駅まで送って行くよ」

「そ・・そうですか・・」


小島は、自分の覚悟が恥ずかしいと思った。


「大事なお嬢さんだからね、泊めるわけにはいかないよ」

「そう・・ですか・・」

「彩ちゃん、僕の気持ちもわかってね」

「え・・?」

「僕も男だからね」

「ああ・・はい・・」


そしてこの後、日置は小島を駅まで送り届けた。

小島は思った。

付き合ってるといっても、まだ二か月にも満たない。

日置は、自分を大事に思ってくれているからこそ、そうしたんだ、と。

その優しさが、小島はとても嬉しかった。

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