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サーよし!2  作者: たらふく
73/413

73 森上と阿部

               



―――そして翌日。



阿部は森上家の前に立っていた。


「こんにちは!」


阿部はそう言いながら、ドアをトントンと叩いた。


「はいはい」


そう言って出てきたのは、慶三だった。


「あの、私、森上さんと同じクラスの阿部と申します」


阿部はペコリと頭を下げた。


「ああ、恵美子の・・。ちょっと待ってな」


慶三も今日から三日間、お盆休みのため、家にいた。

恵子は休みはなく、早朝からスーパーで働いていた。


「おい、恵美子」

「なにぃ」


森上は掃除をしていた。

そして掃除機のスイッチを止めた。


「阿部さんいう友達が来てるで」

「え・・千賀ちゃんがぁ」


そして森上は玄関まで移動した。


「千賀ちゃん、どうしたぁん」


森上は阿部の服装を上から下まで見ていた。

そう、阿部は卓球部のジャージを着ていたのだ。


「恵美ちゃん、久しぶり」


阿部はニッコリと笑った。


「うん、久しぶりぃ」


森上も嬉しそうに笑った。


「突然、ごめんな」

「いやぁ、ええねんけどぉ、どうしたぁん」

「うん、ちょっと恵美ちゃんに会いたくなってな」

「ちょっと待っててなぁ」


そして森上は部屋へ戻った。


「お父さぁん」

「なんや」

「千賀ちゃんにぃ、上がってもろてもええかなぁ」

「おお、かまへんで。よし、慶太郎」


慶太郎は、ちゃぶ台で漢字の練習をしていた。


「なに~」

「お父ちゃんと、公園へ行こか」

「わあ~~行く行く~」


仲のいい篤裕は、この時期、父親の実家へ帰省して留守だった。

それに、公園で誘拐されたということもあり、慶太郎は公園へ行かせてもらってなかったのだ。


「恵美子」

「なにぃ」

「お昼、阿部さんにも食べてもらえよ」

「え・・ええのぉ」

「素麺くらいしかないけどな」


慶三はそう言って笑った。

そして慶三は慶太郎を連れて外へ出た。


「阿部さん、ゆっくりしてってな」

「ああ・・はい、ありがとうございます」


そして阿部は部屋へ上がらせてもらった。


「なんか、悪かったな」


阿部はちゃぶ台の前に座って、部屋を見回していた。


「かめへんよぉ」


森上はそう言いながら、麦茶を阿部に出した。


「恵美ちゃんて、お父さんに似たんやな」


阿部は慶三の体格を言った。


「そうやねぇん」

「宿題、もうやった?」

「うん、ほとんどやったかなぁ」

「へぇーすごいやん」

「やることないしなぁ」

「ああ・・うん」

「千賀ちゃんはぁ、卓球、どうなぁん」

「うん、毎日、頑張ってるで」

「そうかぁ」

「なあ・・恵美ちゃん」

「なにぃ」

「もう・・卓球、せぇへんの・・」


阿部は訊きづらそうに言った。


「そやねぇん・・」

「そっか・・」

「千賀ちゃん」

「なに?」

「なんかぁ・・ごめんなぁ」

「いや・・」

「一人になってしもたなぁ」

「・・・」

「私の分までぇ、頑張ってなぁ」

「恵美ちゃん・・ほんまにそれでええの?」

「仕方がないしぃ・・」

「ほな、卓球は続けたいって気持ちはあるんやな?」

「そうやけどぉ・・もう家族が揉めるん、嫌やねぇん」

「そうか・・」


まだ高校生の阿部には、策などあるはずもなかった。

けれども、森上がこのまま辞めるというのも納得できないでいた。


「私な、今やったら恵美ちゃんとラリーくらいは出来るようになったんやで」

「えぇ~・・そうなぁん」

「先生に、基礎を徹底的に教わっててな。それに卓球センターにも通ってるし」

「そうなんやぁ」

「私らさ・・同じ部員やのに、一回も打ったことないなんて、ほんま変なクラブやな」


阿部は苦笑した。


「もう・・部員ちゃうしぃ・・」

「恵美ちゃんのボール・・一回も受けたことないなんてな・・」

「考えたらぁ、そうやなぁ。私かてぇ、千賀ちゃんがどんなボール打つんか、知らんもんなぁ」

「なあ、恵美ちゃん」

「なにぃ」

「今から、出掛けるとかできる?」

「えぇ~・・どうなんやろぉ」

「慶太郎くんにはお父さんがついてはるし・・あかんかな」

「出かけるてぇ・・どこへ行くん」

「学校」

「えぇ~・・」

「学校やったら、定期券あるし、卓球するんかてタダやしな」


阿部は、森上のお金のことを心配した。

そして森上は慶三に相談した結果、「お母さんには内緒やで」と慶三は許可を出した。

これが恵子なら、絶対に無理だったであろう。

慶三は、阿部が心配して来てくれたことをありがたく思い、森上に「これ、昼飯代や」と小遣いまで渡した。


そして森上も卓球部のジャージに着替え、バッグを持ち、二人で学校へ向かった―――



やがて小屋に着いた二人は、靴を履き替えて中へ入った。


「なんかぁ・・久しぶりやぁ・・」


森上は感慨深げに、小屋を見回していた。


「ほんまやな。もう半月以上も経つかな」

「そやなぁ」

「ほな、恵美ちゃん。打とか」

「わかったぁ」


そして二人はジャージを脱いで台に着いた。


「フォア打ちからな」

「わかったぁ」


森上の感覚は、少し低下していたものの、ボールの威力は男子並みだった。


おおお・・これが恵美ちゃんのボールか・・


阿部は初めて打つ森上のボールに驚いていた。

けれども阿部も基礎をずっとやり熟してきたのだ。

阿部はなんなく森上のボールを打ち返していた。


ほんまや・・

千賀ちゃん・・めっちゃうまなってる・・

すごいな・・


互いにそう思いながら、二人は延々とラリーを続けた。

そう、二人ともミスをしないのだ。


恵美ちゃん・・

まったく練習してへんのに・・

これだけ打てるやん・・

辞めるんは・・もったいない・・

もったいなさ過ぎる・・


千賀ちゃん・・

ほんまにすごい・・

よっぽど練習したんやな・・


「ほな、恵美ちゃん」

「なにぃ」

「ドライブ打って」

「わかったぁ」

「全力やで」

「よっしゃあ」


そして二人はバックコースに構えて、森上がドライブ、阿部がショートという格好だ。

森上は全力でドライブを放った。


うわっ・・す・・すごい・・


阿部は何度も後逸したが、そこは日置のドライブを日々受けてきた阿部だ。

やがてラリーが続くようになっていた。


千賀ちゃん・・

すごいショートや・・

ラケットコントロールも、抜群やん・・


恵美ちゃんと・・練習がしたい・・

もっともっと・・

恵美ちゃんのボール・・受けたい・・


阿部はそう思うと、自然と涙があふれてきた。

それは森上も同じだった。


千賀ちゃん・・

こんなに・・うまなって・・

ほんまやったら・・

同じ部員やのに・・

一緒に練習できんと・・

今日・・初めて打ってるんや・・



「あれ・・ボールの音だ」


そこへ日置が小屋の前を通りかかった。

日置は明日、東京へ行くため、忘れ物を取りに職員室へ向かう途中だったのだ。


「これはラリーの音だ・・」


日置は阿部が、一人で練習していると思ったが、相手は誰なんだと小屋へ向かった。


ガラガラ・・


日置は扉を開けた。


「えっ・・」


なんと、森上と阿部が打っているではないか。

日置は夢だと思った。

いや・・幻を見ているのだと思った。


「先生ぇ」

「先生・・」


二人は日置を見て泣いていた。


「き・・きみたち・・」


日置は慌てて中へ入った。

そして二人の傍まで行った。


「きみたち・・どうしたの・・」

「先生ぇ・・私ぃ・・ううっ・・私ぃ・・」

「先生・・ううっ・・」

「お願い・・泣かないで・・」

「先生・・」


阿部は涙を拭いて日置を呼んだ。


「ん・・?ん?」

「恵美ちゃんと・・卓球・・やりたいです・・」

「私もぉ・・千賀ちゃんと・・卓球がしたいですぅ・・ううっ・・うううう」


そして日置は、阿部から事情を聞いた。


日置は思った。

もう一度、もう一度だけ両親に話をしてみよう、と。

こんな二人を放って置けるものか、と―――

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