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サーよし!2  作者: たらふく
70/413

70 先生を笑顔にしたい




―――そして週末の土曜日の夜。



「先生~来ました~」


彼女らは練習が終わった後、スーパーで買い物を済ませて日置のマンションに到着していた。

日置は直ぐにドアを開けて「いらっしゃい」と、彼女らを歓迎した。


「お邪魔しま~~~す!」


小島以外の者は、さっさと中へ入って行った。


「彩ちゃん」


日置が小声で小島を呼んだ。


「はい」

「今日は・・何の集まりなの?」


小島は日置に「みんなで遊びに行く」としか話してなかった。

励ます会などと言うと、日置は気を使うと思ったからだ。


「普通に、先生を囲んでのパーチーです」

「パーチー・・」

「そ、パーチーです」

「あはは、なんか面白いね」

「先生、やっとお笑いというものを理解しつつありますね」

「へぇ・・」

「パーチーで笑うとは、及第点ものです」


この日のことを彼女らは、事前に話し合っていた。

そう、森上のことには一切触れない、と。

とにかく日置を笑顔にさせよう、と。


それから彼女らは手分けして、たくさんの料理を作った。

和食、洋食、中華と、なんでもござれだ。


「うわあ~~この回鍋肉、美味しい~~」

「こらこら、蒲ちゃん、つまみ食いは違反やで」

「この煮込みハンバーグも最高やん!」

「また~そとちゃんも、ルール違反やで」

「やっぱり今は、素麺やな」

「このさ、何本か入ってる色のん、よう取り合ったで」


と、このように、出来上がる前から彼女らは、つまみ食いをしていた。

日置はソファに座って、彼女らの様子をニコニコと笑いながら見ていた。


なんだか・・懐かしいな・・

ちょうど去年の今頃だったな・・

インターハイで・・必死に戦ってベスト8に入ったんだよな・・

あれからもう・・一年も経つのか・・


「ああ~~!この写真、素敵やわ~~」


蒲内が、日置と小島のツーショット写真を見つけた。


「なになに~」


そこに杉裏が加わった。


「いっやあ~~まるで恋人やん!」

「あはは~杉ちゃん、なにいうてんの~」

「あ・・ああ、そうか。先生と彩華は恋人やったな」


杉裏が日置を見ると、日置は照れくさそうに笑っていた。


「先生、幸せそうですね」

「あ・・まあ・・そだね」

「まあて。めっちゃ幸せやんかいさ~でしょ」

「あはは」


蒲内と杉裏は顔を見合わせて「フフッ」と笑った。

そう、日置を笑わせたぞ、ということだ。


「ジャジャーーン!はい、ちゅーーもーーく!」


為所は、日置の前で腰に手を当ててそう言った。


「なに?」

「先生!今からクイズを出しますので、答えてくださいよ」

「え・・クイズ?」

「ささっ、品をこれへ」


為所がそう言うと、外間が皿に乗った回鍋肉を日置に出した。


「これ、彩華が作ったかどうか、当ててください!」

「ええ~そんなのわかんないよ」

「いやっ、いつも彩華の手料理を食べている先生なら、わかるはずですっ」

「ひえ~」

「どうぞ」


岩水が箸を渡した。


「うん・・」


日置は全員が注目する中、一口含んだ。


「モグモグ・・」

「先生、どうですかっ」

「うーん・・小島さんのじゃないかも・・」

「ブッブー!残念っ。彩華でした!」

「えええ~~」


そこで日置は小島を見て、申し訳なさそうな表情を見せた。

小島は、ニコニコと笑っていた。


「だって僕、まだ回鍋肉は、食べたことないもん」

「ではここで、バツゲェェーームっ」

「えええ~~なにするの?」

「誰でもいいですから、物まねをしてくださいっ」

「えええ~~物まね?」

「そうですっ。誰でもいいですっ」


物まねって・・なにすればいいんだよ・・

誰かのって・・うーん・・


「そうでなくちゃ」


日置はそう言ってニッコリと笑った。

彼女らは、全員唖然としていた。


「先生・・それって先生ですやん」


井ノ下が言った。


「うん、僕の真似をしたの」

「いやっ、参った。さすが先生ですわ。自分の真似をするとか、その発想がすごいですわ」


浅野が言った。


「一本取れらたな」


小島はそう言いながら、料理を運んだ。

そして彼女らも手伝い、やがて居間のテーブルには、たくさんの料理が並べられ、みんなで食事を摂った。

日置は彼女らの笑顔を見て、とても癒されていた。


ほんと・・いい子たちばかりだ・・

僕は・・なんて幸せ者なんだろう・・


「先生て、お酒は好きなんですか」


井ノ下が訊いた。


「うん、好きだよ」

「やっぱりビールですか」

「なんでも飲むよ。日本酒でも焼酎でも」

「私らまだ未成年ですやん。どんな味がすんのかな~て、興味津々です」

「それは二十歳になってからのお楽しみだね」

「でもね、私らと同期の子ら、もう社会人や~とか言うて、先輩らと飲みに行ってるんですよ」


杉裏が言った。


「ああ・・そういうこともあるよね」

「先生て、どんな店に行きますの?」


岩水が訊いた。


「まあ、居酒屋かな」

「高級バーとか、行ったことあります?」

「ああ・・前に虎太郎たちと一緒に行ったよ」

「へぇーー!どんなんですか」

「とても落ち着いた雰囲気で、綺麗な女性が着いてくれるの」

「先生・・」


そこで小島が小声で呟いた。


「なに?」

「先生・・そんな店、行ってはるんですね・・」

「あ・・ああっ、行ったっていっても、一回だけだよ」


日置は、しまったと思った。


「綺麗な女性、ですか・・。そう・・そうですか・・」

「いやっ・・違うんだってば。ほんとに一回だけなの」

「先生・・私というものがありながら・・そんな店へ・・ううっ・・」


その実、小島も彼女らも、日置が『安永』へ行ったことを大久保から聞いて、とっくに知っていた。

小島は、日置をからかったのだ。

そして日置が「行ったことがある」と隠さなかったことを、とても嬉しく思っていた。


「彩華、泣かんといて」

「そうやで彩華」

「先生かて男やしな・・」


彼女らも芝居に乗った。


「いや・・あの、小島さん、違うんだよ」

「ううっ・・ううう」

「ごめん。というか・・もう行かないし」

「ベーッ」


そこで小島は舌を出して笑った。


「えっ・・」

「知ってました~」

「なっ・・」


日置は唖然としていた。


「先生、私らも知ってます~」


杉裏が言った。


「きみたちは・・まったく・・高校生か」


日置はむくれ顔になった。


「まあまあ~先生。そこは突っ込むなら、おおーい、知っとったんかぁ~~い、ほんまにきみらは、高校生かっ、ですよ」

「えっ・・」

「真面目に突っ込んだら、険悪になるでしょ。そこは、やんわりと突っ込まんと」

「・・・」

「ほら、先生、今後のこともあるし、練習練習」


為所が言った。


「練習って、今、杉裏さんが言ったのを僕が言うの?」

「そうやんかいさ~」

「やんかいさ・・って」

「では、先生、行きますよ」


杉裏がそう言って「私らも知ってます~」と「ボケ」た。


「おおーい、知っとったんかぁ~い。ほんまにきみらは高校生か」

「いやいやいや・・弱いです」

「え・・」

「もっと声を張って」

「おおーーい!知っとったんかぁぁぁ~~い!ほんまにきみらは高校生かっ!」


すると彼女らは「ごうかーーーく」と言って大声で笑った。


「先生~うまいですよ~」


蒲内は拍手をしていた。


「そうなんだ・・」


日置は、何が面白いのかわからずにいた。

そこで彼女たちは「日置を笑わせる作戦」が逆転していると思った。

そう、自分たちが笑っているではないか、と。


「ああ、そうそう」


そこで浅野が口を開いた。


「先生、聞いてくれます?」

「なに?」

「こないだね、スーパーに買い物に行ったんですよ」

「そうなんだ」

「私ね、カゴを持って店内を見て回ってたんです」

「うん」

「そしたらね、数馬・・いや、三宅くんが、あれも買う、これも買ういうて、次から次へと商品をカゴの中へ入れたんですよ」

「え・・三宅くんと買い物に?」

「ああ・・まあ、そうです」

「きみたち、付き合ってるの?」


先生・・

そんなこと、どうでもええんですよ・・

話の腰が折れるやないですか・・


「それでね――」

「ねぇ、きみたち付き合ってるの?」

「ああ・・はい、そうです・・」

「えええ~~いつの間に?」

「いや・・それでですね」

「そうかあ~。あっ、そういえば、三宅くん、きみのこと好きだったような・・」

「あの・・先生」

「なに?」

「話を聞いてもらえます?」

「ああ・・うん、いいよ」

「どこまで話したんかいな・・」

「おおーーい!忘れたんかぁぁーーい!ほんまにきみは高校生かっ!」


日置は、どうだと言わんばかりに「ドヤ顔」を見せた。


「え・・」


浅野も、彼女らも、また唖然とした。

そこは「高校生」の下りはいらんやろ、と。

日置は彼女らの表情を見て、「外したんだ・・」と思った。


「で、続きは?」


日置は気を取り直して訊いた。


「あ・・ああ・・それでですね、三宅くんがカゴの中へ次から次へと入れたんですよ」

「うん」

「そしたらですね、隣のおばちゃんのカゴやったんです」

「え・・間違って入れたってこと?」

「そうなんです」

「あははは、三宅くん、慌てん坊だね。あははは」


日置は浅野の思惑通り、腹を抱えて笑っていた。


「それで浅野さんは、おおーい、間違ってるやないかぁぁ~いって、言ったの?」

「プッ・・」


浅野は思わず吹き出した。

そして彼女らも爆笑していた。


「言うわけないやないですか」

「どうして?」

「そんなん言うたら、おばちゃん、怒りますって」

「怒るんだ・・うーん」

「まあ・・とにかく、先生が一番面白いってことですね・・」


そしてこの後も、日置と彼女らは「笑い」について語り合ったのだ。

束の間の日置の笑顔に、小島も彼女らも、来てよかったと、しみじみ感じていた。

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