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サーよし!2  作者: たらふく
7/413

7 小島の考え




―――その頃、日置と小島は、天王寺の茶臼山公園にいた。



「彩ちゃん、寒くない?」


季節はもう五月に入っていたが、夜の風はまだ冷たかった。

二人は公園内を、手を繋いで散歩していた。


「はい、大丈夫です」


小島はそう言ったが、日置は自分のジャージの上着を小島にかけてやった。


「ああ、ええです。先生こそ、寒いですよ」

「いいの」


日置は優しく微笑んだ。


「すみません」


小島は日置の優しさに甘えた。

そして二人は、再び歩き出した。


「ああ、そう言えば、大久保さんと安住さんね」

「ん?」

「慎吾ちゃん、五月に入ったというのに結婚式の招待が来ぇへんけど、どないなってるんやろ~て、仰ってましたよ」

「ああ・・」


日置は、すっかり忘れていた。


「私から言うのもなんですし」

「わかった。僕から説明するよ。それで彩ちゃんと付き合ってることもね」

「そのこと、あの子らには、もう言うたんですけど、よかったですよね?」

「もちろんだよ。びっくりしてたでしょ」

「はい、そらもう、意味不明な叫び声を挙げてました」

「あはは、そうだよね」

「その後、森上さんはどうですか?」


小島は、入部したのかと訊きたかった。


「ああ・・それがさ、あの子、いじめを受けてるんだよ」

「え・・」


小島の顔は強張った。

自分でも、頭の中がピキッと音がするのがわかった。

そう、小島はいじめの類は、寒気がするほど嫌いなのだ。


「それって、クラスの子にですか?」

「そうなんだよ。パンを買いに行かせられててね」

「なんやねん・・それ」

「彩ちゃん、顔が怖いよ」

「え・・ああ・・すみません」


小島は指摘され、無理に笑った。


「それで、三日も学校、休んでるんだよ」

「ありゃ・・それって、相当悩んでると思いますよ」

「まあ、担任には報告したんだけどね、大丈夫かなと思ってるんだよ」

「担任て、誰ですか」

「加賀見っていう、新人の女性だよ」

「そうなんですか・・」


小島は、なんなら自分が乗り込んで、叩きのめしてやりたいと思った。

なぜなら、ただでさえ森上はバレー部に入り、森上に期待していた日置を気の毒に思っていたからだ。


「森上さんて、大柄な子なんですよね」

「うん」

「でも気は弱いんですね」

「どうなんだろう。いじめは誰でも弱くなるよ」

「ああ・・そうですね」

「でも優しい子だよ」

「なるほど。だから余計に逆らえないんですね」

「だと思う」

「明日は、来ますかね」

「わからないな」


小島は考えた。

明日は土曜日だ。

授業も半日しかないから、来るんじゃないかと。



―――そして翌日。



森上は、なんとか登校していた。

その実、森上は行きたくなかったが、母親に「具合がようなったんやったら、行きなさい」と言われた。

森上は、半日ということもあり、仕方なく登校したのだ。


「おい、森上」


早速、中尾が森上の席へ行き噛みついた。

中尾の横には、木元も石川もいた。


「なにぃ・・」


森上は、中尾の顔を見ずに俯いたまま返事をした。


「あんた、加賀見に告げ口したやろ」

「え・・」


そこで森上は、少しだけ中尾の顔を見た。

けれども直ぐに目を逸らして俯いた。


「私ら、呼び出されたんや」

「・・・」

「いじめてる?て訊かれたで」

「・・・」

「私ら、いじめてるんか?」

「・・・」

「いじめてないよな」

「・・・」

「あんたがパンを買いに行きたい、て言うたんやな」

「そ・・そんな・・」

「あんたが買いに行きたい、て言うたんやな!」


中尾の脅しに、森上は頷いた。


「他の先生から訊かれても、そう言いや」

「・・・」

「言わんかったら、パンどころやないで」


そこへ加賀見が「席についてください」と言いながら教室に入ってきた。

中尾らは、わざとらしく森上の肩に手を置き、ニコニコと笑った。

加賀見は、森上と中尾らが一緒にいることで、安堵していた。

そして、中尾らを、優しい子たちだ、とも思ったのだ。

やがて、生徒たちは席に着いた。


「森上さん」


加賀見が呼んだ。


「はいぃ・・」

「もう、体は大丈夫なんやね?」

「はいぃ・・」

「そうなんやね。先生も安心しました」


加賀見は、自分が森上の家へ行ったことが、功を奏したとまで自負していた。

やはり、教師は生徒に親身になることが、大事なことだ、と。

そして、いじめなど、日置の勘違いであったのだ、と。



―――その後、職員室では。



「日置先生」


一時間目の授業の後、加賀見は日置の席へ行った。


「はい」

「私、昨日、森上さんのお宅へ伺ったんです」

「あ、そうだったんですか。で、どうでした?」

「ご両親はお留守だったので、森上さんに話を訊いたんですが、中尾さんたちとは友達だったみたいです」

「え・・」


日置は唖然とした。


「それで、パンを買いに行ってるのも、自分から言い出したことだと」

「先生、それは違いますよ」

「いえ、私、中尾さんたちからも話を訊いたんですよ」

「・・・」

「あの子たちも、そう言ってましたよ。だから、今回のことは日置先生の勘違いですよ」


加賀見は、とても満足げにそう言った。


「それは違う。森上の様子は、明らかにおかしい」

「どうしてですか?」

「森上は、中尾らのパンを買った後、食堂に戻って食べてたんですよ」

「だから、それは買って戻っただけのことじゃないですか」

「そんなこと、あり得ない。そもそもなんで森上がパンを買うことを、買って出ないといけないんですか」

「だからそれは、友達がいないからでしょう?」

「先生・・」


日置は完全に呆れていた。


「はい?」

「先生なら、どうしますか」

「どうって・・」

「友達欲しさに、行きたくもないのに、毎日のように買いに行きますか?」

「それは・・」

「友達なら、一緒に買いに行きませんか」

「まあ・・そう言われれば、そうですけど・・」

「とにかく、あの四人は、なにかあります。僕はいじめだと思ってます」

「・・・」

「今後も、よく注視しててください」

「わかりました・・」


そして加賀見は自分の席へ戻った。

そこへ「ああ~遅れた」と言いながら、堤が戻って来た。


「まったく、一組の動作が遅いときたら」


そう言いながら、堤は席に座った。


「堤先生」


日置が呼んだ。


「ん?」

「その後、森上は復帰しました?」


日置は、練習のことを言った。


「それやがな。まだあかんみたいでな」

「そうなんですか・・」

「僕な、もうあの子は諦めようと思てるんや」

「そうですか・・」

「無理にやらせたところで、本人にやる気がなかったら、どないもしゃあないしな」

「そうですね・・」

「ええもん持っとるんやけどなあ。ああ~もったいない」


日置は思った。

今は無理としても、時間を置いて、森上に声をかけよう、と。

卓球に打ち込めば、いじめもなくなるのではないか、と。

なにより、卓球の魅力に憑りつかれ、森上自身が変われるのではないか、と。



―――そして、放課後。



小島は学校に来ていた。

そして校門の前で、森上が出てくるのを待っていた。

小島は森上を見たことがないが、日置から「大柄な女子」と聞いていたので、見ればわかると思っていた。


ほどなくして、森上と中尾ら四人が、校門に向かって歩いてきた。


あ・・あの子やな・・


小島はすぐにわかった。

けれども、直ぐには声をかけなかった。

そして小島は、四人の後をつけた。


「森上」


中尾が呼んだ。


「なにぃ・・」


森上は俯きながら返事をした。


「逃げたら承知せんぞ」

「・・・」

「ほら、笑え」

「・・・」

「笑え、言うとるやろが」


木元もそう言った。

森上の横では、石川が森上の体を(つつ)いていた。

小島は、今にも怒鳴り散らしたかったが、なんとか堪えた。

そして四人は最寄り駅に着き、天王寺へ向かった。

小島も当然、後をついて行った。


四人は天王寺に到着すると、商店街の本屋に入った。


「ほら、万引きしてこい」


中尾が言った。


「・・・」

「行け、言うとるやろ」


森上は、仕方なく本棚を見ていた。

そして一冊の本を取り出し、周りを気にしながら鞄へ入れようとした。


「ああ、その本、私が買いたかってん。ごめんな」


小島は、森上から本を引き取った。


「え・・」


森上は、唖然としながら小島を見た。

中尾らは、誰や・・という表情で小島を見ていた。


「高校生は、寄り道なんかしたらあかん。さっさと帰り」


小島は森上に本屋から出るよう促した。

そして小島は、本を棚へ戻した。

その際、森上は、中尾らを気にするように見ていた。

中尾らも、慌てて外に出た。


「あんたら、友達なんか」


店を出たところで小島が訊いた。


「そうですけど」


中尾が答えた。


「なんか、妙なことさせようとしてた気がするんやけど」

「妙なことて・・」

「まあええ。ほんで、この子、私が送って行くから、あんたらは帰り」

「え・・」

「え、やあらへんがな。さっさと帰り」


小島は、なんとか怒りを抑えていた。

なぜなら、ここで問い詰めてしまうと、森上に、さっき以上のいじめが行われると心配したからだ。

中尾らはそう言われ、森上を睨みつつもこの場を去った。


「あのぅ・・」


森上が小島を呼んだ。


「なに?」

「なんかぁ・・すみませぇん」

「ええねや。それよりあんた、万引きさせられようとしてたな」

「えっ・・」

「いや、私、見てたんや」

「そ・・そうなんですかぁ」

「あのな、私、桐花の卒業生で、日置先生の教え子や」

「えっ・・日置先生の・・」

「そや。卓球部やったんやで」

「ええっ!卓球部・・」


森上は、この人がインターハイへ行ったのだと、驚いていた。

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