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サーよし!2  作者: たらふく
66/413

66 相沢と高橋の奮闘




―――犯人の家では。



「浩介・・」


相沢が小声で囁いた。


「はい・・」

「わしな、後ろへ回るから、お前、玄関で男を呼べ」

「え・・」

「おそらくやけど、犯人はあの子と一緒におるはずや」

「・・・」

「そこで、お前が呼んだら、犯人はあの子から離れる。その隙にわしがあの子を助ける」

「そんな・・相沢さん、無茶ですよ」

「いや、それしかない」

「だって、僕ら警察やないんですよ。それに犯人が凶器を持ってたらどないするんですか」

「犯人は小柄や。それに、あんまり強そうでもない」


相沢の身長は179cmあり、いわゆる屈強な体格だった。


「それで、もし犯人が出てきたら、お前は逃げろ」

「えっ・・」

「それこそ凶器を持ってたら危ないからな」

「そ・・そんな・・」

「犯人は、わしらに誘拐のことがバレたと焦ってるはずや。いずれ警察にも報せると思てるはずや。あいつがやけを起こさんうちに、あの子を助けなな」

「相沢さん・・」

「なんや」

「もし・・相沢さんになんかあったら・・」


相沢には、五歳と三歳の男の子がいた。

浩介はそのことを言った。


「わしかて人の親や。あの子の両親の気持ちは嫌というほどわかる。せやから助けるんや」

「もっと他に方法はないんですかね・・」

「よう考え。普通な、身代金目当てやったら、子供を殺すなんか言わへん。たとえ言うたとしても「金を持って来んかったら」という「枕詞」を言うはずや」

「枕詞て、なんですか」

「そんなんどうでもええ。わしは裏へ回る。ええか、お前の声が合図や」

「わかりました・・」


そして相沢は、家の裏へ回った。


お・・勝手口があるぞ・・


相沢は静かにドアノブに手を置いて捻ってみると、幸いにも鍵はかかってなかった。

相沢は少しだけドアを開け、中を覗いてみた。

すると犯人は落ち着かない様子で、部屋の中をウロウロと歩いていた。


よし・・子供は別やな・・


「おおーーい!出て来い!」


表で浩介の声がした。

すると犯人はその場で立ち止まり、玄関へ目をやっていた。


「出て来い!子供を返せ!」


犯人は台所へ近づいた。

そう、相沢のすぐ近くまで来たのだ。

そして犯人は包丁を手にして、玄関へ向かおうとした。


あかん・・浩介が危ない!


そう思った相沢は、勝手口を開けて後ろから犯人に飛びかかった。

驚いた犯人は激しく抵抗したが、相沢の力には適わなかった。


「大人しくせぇ!」


相沢は何発も犯人を殴った。

そして手にしていた包丁は床に落ちた。

相沢はそれを足で蹴った。


「子供はどこや!」


相沢は犯人の胸ぐらを掴んだ。


「ひいぃぃ・・」


犯人はまた殴られることに、酷く怯えていた。


「浩介!裏から入って来い!」


相沢の声を確認した浩介は、すぐに勝手口から中へ入って来た。


「相沢さん・・」


浩介は相沢の無事な姿を見て、胸をなでおろしていた。


「子供を探せ」

「はい」


浩介は、すぐに部屋中を探し回った。

すると和室の襖を開けると、慶太郎がロープに縛られてもがいていた。


「大丈夫か!」


浩介はすぐにロープを解き、猿ぐつわも外してやった。


「うわあああ~~ん」


慶太郎は浩介の胸に飛び込んで大泣きした。


「よしよし、もう大丈夫やで」


浩介は慶太郎を抱いて相沢の元へ行った。


「おお、ぼく、大丈夫やったんやな」

「うわあああ~~ん」

「泣かんでもええで」


浩介は慶太郎の背中を擦ってやった。


「浩介、警察に連絡や」

「わかりました」


やがて通報を受けた警察官が二人、家の中に入って来た。

事情を聞いた警官は犯人に手錠をかけ、パトカーへ乗せた。


「えー、もう一台、応援お願いします」


警官は、無線で連絡を取っていた。


「それで、相沢さんと高橋さんでしたか」


警官が訊いた。


「はい」

「大変お手柄でしたが、まずは我々に通報してくださらないと」

「すみません」

「ぼく」


警官が慶太郎を呼んだ。


「うっ・・ううっ・・なに~」

「パトカーでお家まで送ってあげるから、住所、言えるかな」

「わっ・・わからへん・・」

「ああ、この子の地元は知ってます」

「そうでしたか」


そして相沢は所在地を告げ、やがてもう一台パトカーが到着し、慶太郎は乗せられた。

近隣の者は、何事かと野次馬でごった返していた。


「相沢さん、高橋さん」


警官が呼んだ。


「はい」

「詳しい事情を聞かせてもらいますんで、我々と署までご同行願えますか」

「ああ、わしら、トラックなんですわ」

「トラック・・どこに停めとるんですか」

「あ・・えっと・・」


そう、相沢が停めたのは駐車禁止の場所だった。


「あはは、駐禁ですか」

「はい・・すんません」

「ええですよ。今回は見逃してあげます」


そして犯人を乗せたパトカーと、相沢のトラックは管轄の警察署へ向かった。

慶太郎を乗せたパトカーは、森上の自宅へ向かった―――



その頃、まだ警察に通報すべきかどうか迷っていた森上家では、慶三、恵子、恵美子、田中が悲壮な表情で塞ぎ込んでいた。


「やっぱり・・警察に言うた方が・・ええんとちゃうの・・」


恵子が言った。


「いや・・もし犯人にわかったら・・慶太郎は殺されるかもしれん・・」

「私かて・・そう思うで」


田中が言った。


「私のせいやぁ・・」


森上は震えた声でそう言った。


「ほんまやで!恵美子、なんであんた、目を離したんよ!」

「恵子・・もうええやないか」

「そやかて!」

「ごめん・・」


森上は小さくなって詫びた。

そこに、家の前で車が停車する音が聴こえた。

そしてすぐに「森上さん」と誰かが玄関のドアを叩いた。

恵子は慌ててドアを開けに行った。


するとそこには、泣きはらした慶太郎の姿と、二人の警官が立っていた。


「けっ・・けっ・・慶太郎~~~!」

「お母さん~~うわああああ~~」


慶太郎は恵子の胸に飛び込んだ。

恵子は慶太郎の体が壊れるほど抱きしめた。

その声を聴いた三人は、慌てて玄関へ行った。


「慶太郎~~~!」


慶三と森上は同時に叫んだ。

そして田中も「けいちゃん!」と驚きの声を挙げていた。

やがて警官から事情を聞いた慶三らは、改めて身が凍る思いがした。

そして助けてくれたトラック運転手に、死ぬほど感謝していた。


「その、相沢さんと高橋さんに、ぜひ、お礼を言いたいのですが」


慶三がそう言った。


「お二人には今、署で詳しい話を訊いています」

「そうですか・・」


その頃、『よちよち』でも、パトカーが来たと、騒ぎになっていた。

日置も外に出て、様子を見た。

すると方向から考えると、森上の自宅辺りだった。

日置は、森上がまったく来ないことを気にかけていた。

そしてパトカーが森上家の辺りに停まっている。


日置は「ちょっと行ってきます」と秋川に言い、走って森上家に向かった。

その後を『よちよち』の者も追いかけた。

すると森上家の前では、野次馬でごった返していた。


「けいちゃん、誘拐されたらしいで」

「いやあ・・怖いなあ・・」

「けいちゃん、戻って来たんか?」

「いや・・まだわからんわ」


野次馬から、このような声が挙がっていた。

日置は野次馬を掻き分け、「森上さん!」と叫んだ。

すると慶三は「ああ・・先生・・」と力のない声を発した。

そして恵子は、なぜか日置を睨んでいた。

森上は「先生ぇぇ・・」と言いながら涙を流していた。


やがて警官らは森上家を後にし、野次馬も散らばって行った。


「誘拐されたって・・ほんとですか・・」


日置は唖然としたまま、慶三に訊いた。


「ほんまです・・」

「でも・・慶太郎くん、無事に戻って来てよかった・・よかったですね・・」

「先生」


恵子は冷たく日置を呼んだ。


「はい」

「慶太郎が誘拐されたんは、恵美子のせいです」

「え・・」

「恵美子が目を離した隙に連れ去られたんです」

「そ・・そうでしたか・・」

「今後も、どんなことがあるかわかりません」

「・・・」

「もう恵美子には卓球を辞めさせます」

「え・・」


日置は、最悪な言葉を聞いた。


「今、そんな話ええやろ」


慶三が言った。


「いいえ!もう二度と、こんなことごめんです」


森上はずっと俯いていた。


「恵子・・今回のことは卓球と関係ないやろ・・」

「そうやないわ!今後かて、恵美子が練習してる間に、慶太郎から目を離すことかてあるわ!もう私は、そんなん嫌やのよ!」

「いや・・森上はん」


そこで秋川が口を開いた。


「なんですの!」

「森上さんが練習してる間は、よちよちのおばさんらで、面倒見てますのや」

「そっ・・そうでしょうけど・・」

「目なんか離しませんよってに、辞めさせるやなんて言わんといたってくださいな」

「慶太郎がお世話になってるんは、ありがたいと思てます。せやけど、誘拐なんて、もう二度とごめんです」

「せやけど・・先生かて、毎日通てくれはって・・わしらのコーチもしてくれてはって・・」

「卓球より、慶太郎の命です!」


そう言って恵子は慶太郎を連れて、家の中へ入って行った。


「秋川さん」


中島が呼んだ。


「なんや・・」

「奥さんの気持ちは、ようわかる。そら卓球どころやあらへんわよ」

「うん・・そやな」

「今は、なにを言うても無理。時間を置きましょう」


そして秋川らは『よちよち』へ戻って行った。


「先生・・」


慶三が呼んだ。


「はい・・」

「えらい、すんません」

「いえ・・」

「うちの、気が立ってますんで、落ち着いたら話しますんで」

「そう・・ですか・・」

「ほな、恵美子」


慶三はそう言って、森上に部屋に入るよう促した。

森上は俯いたまま、慶三と共に中へ入って行った。


「先生」


田中が呼んだ。


「はい・・」

「大丈夫ですって」

「え・・」

「私からも、よう話しますんで、安心してくださいな」

「ああ・・はい・・」


けれども日置は、恵子の意思は固いと察していた。

そして森上は、退部するのではないかと、不安が頭をよぎっていた。

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