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サーよし!2  作者: たらふく
45/413

45 社会人としての自覚




2セット目も一進一退のゲームが繰り広げられた。

森上は大久保の指示通り、山岸のサーブを全てドライブをかけに行った。

ミスもしたが、森上の威力が勝ることもあり、山岸のコートに入った場合は、山岸は全く返せないでいた。


小さいサーブは、森上もツッツキやショートで返し、その後はラリー展開だ。

けれどもラリーに入ると、1セット目同様、森上が圧倒していた。

中盤から山岸は、もう成す術がない状態に陥った。

そう、返すコースがないのだ。


どこへ送っても森上は素早く移動する。

山岸は、森上が高い壁に見えた。

その大きな体のどこに、軽やかに動ける能力があるんだ、と。

森上の体格なら、パワーは当然としても、普通なら動きは遅いはずなのである。


「山岸!挽回やぞ!」


コートの向こう側で日下部が叫んでいた。


先生・・挽回や言うたかて・・

どうやってすればええんですか・・

こんな怪物・・見たことない・・


カウントは既に終盤に差し掛かり、19-13で森上がリードしていた。


もう・・こうなったら・・

むしろ長いサーブを出した方がええんちゃうか・・

バックの深い所にロングサーブや・・


そして山岸は、バックから、スピードの乗ったバックのロングサーブを出した。

森上は、まさか長いのが来るとは思わず、ショートで対応した。


よし・・来た!


山岸は、バックに返ってきたボールにすぐさま回り込み、バッククロスへスマッシュを放った。

普通なら、これは完全に決まるボールである。

けれどもボールは抜けなかった。

森上は反射的に対応し、なんとショートで止めたのだ。


同じスピードで返ったボールに山岸は慌てたが、ドライブでないボールは山岸にとっても普通のラリーに過ぎない。

山岸はもう一度、バックへ連打した。

これも速いスマッシュだ。

けれども森上は、そのボールもショートで返した。


山岸は、今度はフォアクロスの深い所へ打ち込んだ。

森上にとって、対応するのに大した距離でもない。

森上はすぐさまフォアへ動き、ドライブではなく、カウンターで打ち返した。


スパーン!


激しい音を放ちながら、ボールは山岸のフォアの深い所へ入った。

ドライブではないボールを、山岸は懸命に追った。

けれどもスピードについて行けず、ボールは山岸の横を通り過ぎた。


「サーよし」


森上は特に高ぶることもなく、低い声を発した。


「よーーし!森上ちゃん~ラスト1本よ~」

「恵美ちゃん~~!ナイスボール!」


その実、森上は、自身のチグハグな攻撃に納得できないでいた。

サーブが取れなかったことや、レシーブのドライブミスのことだ。

ラリーに持ち込むと「それなり」に出来たと思っていたが、なぜ返って来ないんだ、と。

そう、ドライブの返球が、なぜないんだ、と。

森上は、納得できないというより、物足りなさを感じていたのだ。


そして最後も森上のドライブが決まり、21-13で森上が勝利した。

双方は「ありがとうございました」と一礼した。

山岸はベンチに下がって泣いていた。

日下部は山岸の肩を抱きながら、「ようやった。これで終わりやないで。次にあたったら倍返しやな」と慰めていた。


方や桐花ベンチに下がった森上は、「ありがとうございましたぁ」と大久保に頭を下げていた。


「森上ちゃん~よう頑張ったわ~ナイスゲームよ~」


大久保は森上の肩を叩いた。


「恵美ちゃん、すごかったで!」


阿部はまだ興奮していた。


「ほな、次の試合までロビーに出て休憩しよか~」


そして大久保を先頭に、三人はフロアの隅を歩いた。

その際、森上が通り過ぎるのを、どの選手も、どの観客者も、半ば唖然としながら見ていたのだった。



―――その頃、桂山の体育館では。



「よし、ほなら今日はこれくらいで終わっとこか」


遠藤が練習終了を言い渡した。

本当なら、実業団が控えているこの時期、夕方まで練習するのが常だが、大久保の「脱走」といい、浅野の「途中抜け」といい、それに日置の一大事とあっては、彼女らにも落ち着きがなくなっていたため、遠藤はそう判断したのだ。


「お疲れっした!」

「ありがとうございました」


そして彼ら彼女らは、それぞれ更衣室へ入った。


「この後、体育館へ行くか?」


杉裏がTシャツを脱ぎながら、誰ともなく訊いた。


「もう終わってるんとちゃうか」


岩水は、負けていることを言った。


「でも、森上さんやったら残ってるかもしれんで」


為所が言った。


「そやで。終わっててもええし、もし残ってたら、私は森上さん、一回見てみたいわ」

「そうそう、私も見たいわ」


外間と井ノ下が言った。


「ほなら~私も行く~」


蒲内もそう言った。


「内匠頭、どうすんの?」


岩水が訊いた。

浅野は森上どころではなかった。

そう、日置と吉岡のことで頭が破裂しそうなくらい、怒りのエネルギーが充満していた。


「私はええわ」

「え・・そうなん?」


意外な答えに、彼女らは戸惑った。


「内匠頭、どしたんよ。ずっとおかしいで」


杉裏が訊いた。


「別におかしない」

「ちょっと、なんかあったんとちゃうの」


為所が訊いた。


「いや、なんもないで」


浅野は気持ちを悟られまいと、無理に笑った。

このことを彼女らに言えば、当然、怒り爆発になるに違いない。

そうなると、収拾がつかなくなる。

浅野はまず、小島に話すべきだと考えていた。


その頃、安住は大久保の荷物を抱えて、彼女らが出てくるのを待っていた。


「まだか~」


安住は外から彼女らを呼んだ。


「ああ、安住さんや。私らも行くと思て、待ってくれてはるんや」

「もうすぐ出ます~!」

「すみませーん!」

「安住、行きまーす!」


蒲内がそう言うと「あんたはアムロか!」と、外間が蒲内の頭をポーンとはたいた。


「殴ったね。親父にもたれたことがないのに!」

「もうええっちゅうねん」


外間は呆れていた。

ほどなくして彼女らは安住と共に体育館へ向かった。

浅野は遅れて一人で体育館を出た。


「浅野さん」


遠藤が呼び止めた。


「はい」


浅野は振り返って立ち止まった。


「あのな、ちょっとええか」

「はい・・」


遠藤の真剣な表情に、浅野は戸惑った。


「きみらは、よう頑張ってると思うんやけどな、まだ学生気分が抜けてない、いうんかな」

「・・・」

「そらな、八人でずっと頑張って来て、きみらの絆が堅いこともわかってる」

「はい・・」

「せやけど、それが反ってあだになってると僕は思てんねや」

「・・・」

「きみらはまだ入ったばかりや。だからわかるんやけど、もうちょっと社会人としての自覚と責任を持ってもらわんとな」

「はい・・」

「海老沢社長も、遊びできみらを入社させたわけやないで」

「すみません・・」

「僕が言いたいのはそれだけや。気ぃ悪くしたやろけど、僕は浅野さんならわかってくれると思たんや。ほな、お疲れ」


遠藤はそう言って、先を歩いて行った。


浅野は遠藤の後姿を見ながら思った。

確かに遠藤の言う通りだ、と。

今日の件は仕方がないとしても、小島は練習を放り出して抜けたことがあった。

そして休んだこともあった。

しかも、今日も休んでいるのだ。


遠藤は許可したものの、学校のことは学校内、或いは日置が解決すべきことだろう、と。

遠藤とて、小島の気持ちがわからないはずがなかった。

けれども、どこを向いて卓球やってるんだ、と。

きみは、桂山の選手なんだ、と。


一方で遠藤は、大久保という「問題児」を抱えている。

けれども大久保の場合、彼女らとは違って桂山のエースとしてのキャリアと実績が違った。

つまり、やるべきことはきちんと果たしているのだ。

だからこそ遠藤は、大久保と安住に桐花のコーチを引き受けることも許可していたのだ。


浅野はその足でパン屋へ向かい、小島に吉岡のことを話そうと思ったが、今しがたの遠藤の言葉でためらった。

なぜなら、吉岡と付き合っている事実を知れば、また小島は取り乱しかねないからだ。

浅野は頭を抱えた。

どうやって、いつ、どのように小島に伝えるべきかと。

それでも浅野の足は、自然とパン屋へ向かったのである―――



パン屋に到着した浅野は、中をそっと覗いてみた。

すると小島は活き活きとして客の対応をしているではないか。


あかん・・やっぱり言われへん・・

話したら・・それこそ練習を休むレベルでは済まん・・

そうなったら・・彩華の将来にも影響を及ぼしかねん・・


浅野は結局、小島に声をかけることができずに、そのまま自宅へ向かった。



―――一方その頃、日置は。



菓子パンはダイニングのテーブルに置いたまま、ベッドで横になっていた。

吉岡が作ったおかゆも、少しだけ食べたが、殆どが鍋に残ったままだった。

冷蔵庫を開けると、ヨーグルトやリンゴなどが入っていたが、それにも手をつけていなかった。


ルルルル・・


そこで電話が鳴った。

日置は急いで起き上がり、電話台まで移動した。


「もしもし」


日置は受話器を取った。


「あ、慎吾、いてたんかいな!」


相手は西藤だった。


「おばあちゃん、どうしたの?」

「どうしたのやあらへんがな。あんた、なんで体育館に来てないんや」

「ああ・・僕、今朝からすごく熱があってね、それで救急車で運ばれたの」

「ええっ!ほんまかいな」

「おばあちゃん、もしてして体育館にいるの?」

「そやがな!今、来たところや」

「そうなんだ」

「あんた、森上さんっちゅう、とんでもない選手、どこから引っ張ったんや」

「引っ張ったんじゃなくて、偶然、桐花に入学して来たんだよ」

「そうか、まあええ。それにしてもすごいで!」

「今、どうなってるの?」

「三神とやっとるで」

「そっか・・森上、中井田に勝ったんだ」

「なんで知ってんねや」

「うん、虎太郎が報せてくれてね」

「ああ~大久保さんな。今も大声張り上げとるで」

「行きたいなあ・・」

「ああ、それで具合はどうなんや」

「だいぶ熱も下がったし、平気なんだけど、来るなって言われててね」

「そらそや。大久保さんがついてるんやし、大丈夫や」

「おばあちやゃんもコートについてやって」

「アホか。私は常に中立の立場や。どこも応援せんし、隠れてこっそり見るで。ほなな!」


そう言って電話は切れた。


おばあちゃん・・去年の予選の山戸辺戦では・・コートにまで来て、うちを応援してたじゃないか・・


日置はふとそう思ったが、確かに西藤は表立っては、どこも応援することはなかった。

無論、心中では孫である日置のチーム、桐花を全力で応援していたのは言うまでもない。


そしてコートでは、ベスト8入りをかけた森上と須藤の熱戦が繰り広げられていた―――

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