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サーよし!2  作者: たらふく
376/413

376 オーダーの謎

                



―――観客席では。



「今のところ互角の戦いですね」


野間がそう言った。


「野間くん」


皆藤はコートを見たまま呼んだ。


「はい」

「きみの言うように互角ですが、このダブルスは桐花が勝たなければなりませんよ」


野間は、ふと不思議に思った。

確かに自分も桐花に勝ってほしいと願っている。

無論、皆藤もそうであろう、と。

けれども今しがたの言いぶりは、若干ではあるが桐花が不利なように聞こえた。


「確かに相馬くんも白坂くんも、予想を上回る強さです」

「はい」

「でも、あの程度で田丸くんと城之内くんに勝てると思いますか?」


田丸と城之内は、真城高校のエースと二番手である。

当然、野間も二人の実力を知っている。


「ああ・・確かに・・」

「相馬くんと白坂くんがエースと二番手だとしたら、この勝負、桐花の勝ちは確実です」

「はい」

「けれども私はどうにも納得がいきません」

「・・・」

「相馬くんと白坂くんが増江の主力で、あの真城に勝てるはずがないからです」

「はい」

「したがって、ダブルスを落とせば、桐花の勝目はないということです」


皆藤の言い分は的中していた。

そもそも増江の二回戦のオーダーは、ダブルスが景浦と時雨。

シングルの二番が藤波、三番が時雨、四番が景浦という、真城に1ミリたりとも隙を与えない布陣を敷いていたのだ。


「このオーダーは間違っているということですか?」

「そこはまだわかりません。この後を見るしかないですね」



―――コートでは。



双方とも一歩も譲らない展開になっており、カウントは10-10の同点となっていた。


「阿部さん、もう少し力を抜こうか」


タイムを取り、阿部と森上は日置の前に立っていた。

桐花が稼いだ点数は、やはり森上だった。

森上は徹底して相馬のミドルを狙い、その策を読んでいた相馬は徐々に対応しつつあったが、森上は瞬時に相馬の動きを見抜き、フォアやバックの厳しいコースに送っていた。

これをやられると相馬の足の動きは鈍り、精神的にもかなり負担がかかっていた。

一方で白坂は、阿部の「力み」に付け込んで、時には強打、時にはタイミングを外した返球をし、阿部は何度もチャンスボールをミスしていた。


「チビ助よ」


中川が呼んだ。

阿部は自分の不甲斐なさに、チラリとだけ中川を見た。


「おめー打たされてんぞ」

「うん・・」

「っんなもんよ、コートに入れりゃあいいんでぇ」

「わかってるけど・・」

「自分が決めようなんて思うんじゃねぇぜ」

「でも・・」


阿部は言いたかった。

せやかてチャンスボールは決めんといかんやろ、と。

決まれば、恵美ちゃんの負担も軽くなるんや、と。


けれども口には出せなかった。

なぜなら、そのチャンスボールをミスしているからである。


「いいかい、阿部さん」


日置が呼んだ。

阿部はそのまま日置を見上げた。


「きみたち四人の力は、ほぼ拮抗している」

「・・・」

「いや、実力からするときみたちのほうが上だ」

「・・・」

「でも阿部さんの実力は、いつもより劣っている」

「・・・」

「ひとつ穴があると、どうなると思う?」

「そ・・それは・・」

「阿部さん」


日置は阿部の肩に手を置いた。


「力を抜いて、森上さんにボールを繋げよう」

「はい・・」


すでにトイレから戻っていた重富は、複雑な表情で阿部を見ていた。


阿部さん・・

相馬と白坂は・・下位の選手なんやで・・

四番手と五番手なんやで・・


重富は口にしかけたが、言ってしまえば反って負担になると思ってやめた。


「さあ、試合はここからだ。徹底的に叩きのめしておいで」


日置は二人の肩をポンと叩いた。


「チビ助、っんなフランクごときに負けてんじゃねぇぞ!」

「阿部さん、しっかりな」

「先輩!1本ですよ!」


彼女たちに後押しされ、阿部と森上はコートに向かった。



「千賀ちゃぁん」


歩きながら森上が呼んだ。

阿部はそのまま森上を見上げた。


「先生も含めてぇ、私ら色々とあったよなぁ」

「え・・」

「でもなぁ、そのたびにぃ乗り越えてきたやぁん」

「・・・」

「その苦労を考えたらぁ、たかがミスなんてぇ、なんでもないでぇ」


森上は優しく微笑んだ。


「恵美ちゃん・・」

「だからぁ、頑張ろなぁ」


阿部は思った。

去年から今までのことを。


恵美ちゃんの言う通りや・・

ほんまに私らは色々とあった・・

いや・・あり過ぎたというてもええ・・

そのたびに乗り越えてきた・・

それは何のため・・?

言うまでもない・・

全国優勝するためやん・・


そうやん・・

たかがミスでへこんでる場合やない・・

私が足を引っ張るとか・・

もう・・そんなん関係ない・・


「恵美ちゃん」

「なにぃ」

「勝とな」

「うん」


二人はニッコリと微笑んだ。



――ー桐花ベンチでは。



「先生」


重富が呼んだ。


「なに?」

「向こうのエースは景浦さんです」

「え・・」

「ほんで二番手が時雨さんです」

「きみ、どうしてそう思うの」

「トイレで小谷田の畠山さんから聞いたんです」

「そうなんだ」

「二回戦のダブルスは、景浦さんと時雨さんが出てたらしいです」

「畠山さん、二回戦、観てたんだ」

「はい」


日置は、やっぱりそうか、と思った。

一方で、ならばこのオーダーはどういうことだ、と。

まさか、うちを舐めて組んだのか、と。


「景浦さんは左のシェイクらしいです」

「そうなんだ」

「畠山さん曰く、実力は別格らしいです」

「なるほど」

「おい、重富よ」


中川が呼んだ。


「なに」

「ということはだぜ、フランク野郎はうちを舐めてやがるってことだな」

「それはわからんけど、小谷田の監督は、このオーダー間違うてるって言うてたらしい」

「けっ、上等じゃねぇか!おのれ・・フランクトーマスめ・・さっきまでビビッてたくせによ」

「中川さん」


日置が呼んだ。


「なんでぇ」

「浅草西もそうだったでしょ」

「はあ?」

「うちを舐めてたよね」

「あ・・ああ」

「でもうちが勝ったよね」

「おうよ」

「そういうこと」


日置はニッコリと笑った。


おのれ・・フランク野郎・・

インターハイの決勝戦で・・

舐めた真似してくれるじゃねぇか・・

けっ・・上等だ・・


「おらあ―――!ダブルフランク野郎!」


中川は大声で叫んだ。

相馬と白坂は当然ながら、増江の彼女らも何ごとかと中川を見た。

ダブルフランク野郎とは、なんだ、と。


「おめーらだよ!相馬に白坂!」


相馬と白坂は怪訝な表情に変わっていた。


「いいか!お遊びはここまでだ!今から徹底的に叩きのめしてやっから、覚悟しな!」


相馬と白坂は、半ば呆気にとられていた。

なにが遊びだ、と。

遊びどころか、阿部は力が入って自滅しかけているじゃないか、と。


「いいか、チビ助、森上!」


阿部と森上は振り向いた。


「作戦通りに――」


中川がそこまで言うと、森上は「しーっ」という仕草をした。

そう、森上は考えていたのだ。

ここは、これまでの試合運びとは異なる策に打って出るべきだ、と。

中川が何を言うつもりなのかはわからないが、ここで「作戦」なるものを喋られてしまうと相手は多少なりとも警戒するはずだ。

森上はそれを避けたかったのだ。


「なんでぇ、森上よ」

「なんもないでぇ」


森上はニッコリと笑った。

そして森上は「作戦」を阿部に話した。


「よっしゃ、わかった」


阿部は力強く頷いた。

そして四人はコートについて構え、試合は10-10から再開された。

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